今年7月、18 歳~25 歳(2025 年末時点)の選手による「FISUワールドユニバーシティゲームズ」がドイツで開催された。そのインドアとビーチバレーボールの両方に日本代表選手団として参加を果たした水町泰杜(ウルフドッグス名古屋/トヨタ自動車ビーチバレーボール部)が、ひとつの大会で"二刀流"に挑戦するに至った経緯を、現地取材のなかで聞いた。



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【同年代の選手たちとWUGを戦う楽しさ】

 ふと、その顔に違和感を覚えた。現地時間7月18日、FISUワールドユニバーシティゲームズ(WUG)のバレーボール競技男子の予選会場でのこと。男子WUG日本代表にとって大会初戦のその日、水町の姿はいつもと違った。アゴにヒゲをたくわえていたのである。

 学生時代からめったに見られなかった姿だ。その理由について、本人は苦笑いを浮かべながら開口一番、「裏切られたんです」と口にした。

 聞けば、チームに合流した際に水町はヒゲを剃っていなかったそうで、それを見た同年代の染野輝(ヴォレアス北海道)と髙木啓士郎(広島サンダーズ)が、「ヒゲ、一緒に伸ばそうぜ」と提案したとのこと。だが、染野は直前に「身だしなみを整えなければ」と思い直し、髙木も試合時点ではそれほど伸びていなかった......というのが真相らしい。

「(染野)輝だけが剃っていたんです! 僕も本当は剃りたかったんですよ」

 そう言って、うらめしげに染野たちをにらんだ水町だが、どこかうれしそうにも映る。自然と笑みがこぼれるような人間関係が、今回のWUG日本代表に臨む上での楽しみのひとつだった。

 今大会、メンバーに選ばれた染野や中島健斗(VC長野トライデンツ)は全国中学生選抜から、髙木や藤原直也(ジェイテクトSTINGS愛知)、甲斐孝太郎(サントリーサンバーズ大阪)などは学生時代を通して交友を育んだ間柄であり、気心知れた仲だ。

「『WUGで勝ちたい』という思いはありましたが、それ以上に、自分たちの世代が(WUG日本代表のなかで)最も年上となって戦うのはこれが最後になる。それ自体が貴重な経験になるので、かなり楽しみにしていました」

 いざ大会初戦、水町がサーブのモーションに入ると、アップゾーンから染野が手拍子を交えて「バーモース!!」と掛け声を放った。

「バモス(スペイン語で『いくぞ』)」とは、水町が所属するウルフドッグス名古屋でお馴染みのコール。染野は「対戦した時に、その声援を浴びた(水町)泰杜にサービスエースを奪われた印象が強くて」と振り返った。

 さらに第2セットには、「バモス」に続けて「ボンバイエ!!(リンガラ語で『やっちまえ』)」を追加。これには水町も「ちょうどトスの、ボールを下から放り投げるタイミングで耳に入ったんです。それで『もう無理(笑)。強気で打ったらネットにかかる』となってしまって、なんとかサーブを入れにいきました」と苦笑。それを聞いた染野は、「人のせいにして!! 情けないやつです(笑)」と応戦した。

【二刀流で大会に挑むまでの経緯と決意】

 水町がバレーボール競技、つまりインドアでプレーできたのは予選ラウンドの2試合だけだった。当初は3試合が予定されていたが、同組のイランが辞退したことで変更に。「もっとやりたかったな」とは水町の偽らざる本音であり、同時に「インドアも最後まで戦えたらよかったですけどね。でも、それは最初からわかっていたことなので、区切りをつけました」と向き合っていた。

 そんな悩みも、ひとつの大会で同時に2つの競技に参加する"二刀流"ゆえだ。

インドアは現地時間7月18、19日の予選ラウンドを戦い、21日からはビーチバレーボール競技に臨む。前例のない試みであり、本人も当初は想定していなかった。だが、今年のビーチバレーボール活動の一つにWUGを視野に入れた際、インドアでも参加する話が持ち上がった。水町は振り返る。

「シニアの日本代表(インドア)にも登録されたとはいえ、代表活動はやらない意向でした。それだけに、ユニバ(WUG)だけインドアをやるのはどうなのかと思いましたし、そもそもルール的に問題はないのか、自分が入ることで登録メンバーの枠が埋まってしまうのはいいのか、といったさまざまな懸念がありました。

 ただ、前提として僕は、ビーチバレーボール競技でユニバに参加したかった。そのうえで挑戦できるのであれば、インドアも出場できればうれしい、と伝えました。あとは、インドアは選考に委ねて、もし選外だったらビーチバレー1本で大会に臨もうと」

 結果として、WUGでの二刀流が実現。6月中旬、水町は大会への意気込みをこう語っていた。

「自分が二刀流を選んだからこそ舞い込んできた話だと思いますし、関係者の方々に調整していただいて感謝しています。競技歴の浅い自分が、今のうちから世界の選手たちを相手にプレーできることは、いい経験になることは間違いないので。

この機会を無駄にせず頑張りたいです。

 何年後になるかわからないですけど、ユニバでどちらにも参加するような選手が出てきたら、僕個人としてはうれしいこと。そうなれば僕が今回、二刀流をやった甲斐がありますから。今回ユニバに出場することで、今の学生たちに『こういうやり方もあるよ』と、ひとつの形を見せることができました。それが僕のなかでは、いちばん大きいですね。なので、あとは、大会でケガをするなど、『(二刀流は)やらないほうがいいな』と思われないように気をつけながら励みます」

 自分が日の丸をつけることが最大の目標ではなく、新たな道を切り拓くことを目指す。その決意を胸に、水町は現地7月20日、インドアが実施されたベルリンを早朝4時起きで出発し、ビーチバレーボール競技の開催地であるドイツ東部のデュイスブルクへ渡ったのであった。

〔後編:ビーチバレーで感じる成長 海外勢の試合からも吸収して「もっと強くなりたい」〕

【プロフィール】

水町泰杜(みずまち・たいと)

2001年9月7日、熊本県生まれ。身長181cm、体重82kg。小学1年生でバレーボールを始め、中学・高校では全国大会に出場。鎮西高校では1年生でインターハイ・春高優勝、2年生で春高ベスト4、3年生では春高ベスト8。その後、早稲田大学に進学し、全日本インカレで優勝。

4年生では春季リーグ・東日本インカレ・秋季リーグ・全日本インカレの4冠を達成した。卒業後はSVリーグのウルフドッグス名古屋でプレー。プロ1年目からアウトサイドヒッターとして活躍し、チームの5位入賞に貢献した。さらにインドアと並行し、2024年5月からはトヨタ自動車ビーチバレーボール部でビーチバレーに本格挑戦している。

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