今年7月、ドイツで開催された「FISUワールドユニバーシティゲームズ」で、インドアとビーチバレーボールの両方に出場した水町泰杜(ウルフドッグス名古屋/トヨタ自動車ビーチバレーボール部)。大会でペアを組んだ黒澤孝太(明治大学4年)との向き合い方、そして一人のビーチバレーボール選手として強くした思いとは。



「二刀流」水町泰杜がビーチバレーで感じる成長 海外勢の試合か...の画像はこちら >>

【ビーチバレーのペア作りの難しさ】

 水町にとって"二刀流"挑戦の1年目がスタートした2024年、ビーチバレーに関してはスロベニアへの武者修行に始まり、その後は国内大会に参戦した。複数の外国籍選手とペアを組み、時には鎮西高校(熊本)の先輩であるプロビーチバレーボール選手の池田隼平(カブト)とスポットで国内ツアーに参加したこともあった。

 そして今年は、ワールドユニバーシティゲームズ(WUG)や「ビーチバレージャパンJVA第39回全日本ビーチバレーボール選手権大会」を視野に入れて、黒澤孝太(明治大4年)とペアを結成。黒澤は、ビーチバレーのアンダーエイジカテゴリー日本代表に選出された経験を持ち、大学を卒業後はビーチバレー1本に絞ることを表明している。

 一緒に活動を始めたのは6月から。水町にとっては、同じペアと複数の大会に参加していくのは実質、初めてのことだ。

「じっくりと2人で話し合いながら、深いところまで関係性を作ろうとしています」

 そう語る水町は、国内では3つの公式戦に黒澤とのペアで出場。そこで「かなり攻撃的なペアだと思う。ショットで返していく場面でも強打できるのが僕たちの強み。攻めて、攻めて、です」というスタイルを見出した。

 しかしWUGを前に、水町はインドアのWUG日本代表の事前合宿に参加する関係で、7月5日の「ジャパンビーチバレーボールツアー第5戦グランドスラム横浜赤レンガ倉庫大会」を最後に、黒澤と練習することができなかった。それは二刀流ゆえの"弊害"とも言えるが、水町自身はポジティブに捉えていた。

「(黒澤)孝太も今はインドアで大学リーグを戦っているので、僕も同じような経験をしています。

慣れている、わけではないですが、それも踏まえて『やれることをやるだけだ』と考えています。それに孝太も僕も、実戦を通してレベルアップしていくタイプなので。どんどん大会本番でも経験を積み上げていきたいです」

 その言葉どおり、WUG本番では勝ち星が遠くても、常に前向きな姿勢を崩さなかった。

 現地時間7月22日、予選グループ2戦目のスロバキア戦で、黒澤はサーブレシーブに苦しんで試合後に涙を流した。そこでも水町は、「競技歴では僕のほうが下ですが、年齢はこちらが上なので」と、持ち前の明るさで相方を支えた。

 そして翌日、3戦目のリトアニア戦では、黒澤が「もうやるしかない」「とにかく全力でやるんだ」と精神面で持ち直し、攻撃的な姿勢を見せる。フルセットにもつれた最終第3セットでは、ビハインドから同点に追いつくアタックを決めるや否や「カモーン!!」と雄叫び。それに対して水町も「孝太、カモーン!!」と笑顔で呼応した。

「真面目で、素直なところが彼のよさ。でも意外とよく話すタイプ」という相方がコート上で発した気迫に、水町も「ああいうのがね、うれしいんです。ぎゅっと萎縮するのではなく、力を抜いて孝太もプレーできていた証だと思います」と喜んだ。

 日本人同士でペアを組み、関係性を作りあげていくこと。

それもまた、水町にとっては学びになっている。

「孝太のよさを殺さずに、いいところを引き出すためにはどうすればいいか。それはつき合っていくなかでつかめてきたと思います。でも、やはり難しいですよ。ふとした言葉でネガティブにさせてしまったり、冗談のつもりでちょっかいをかけて『あぁ、今のは傷つけたな』と感じることもありますから。

 ペアの性格によってアプローチの仕方は違ってきますし、その線引きが孝太とはだいぶできてきたと感じます。僕も学びながら、孝太の人間性を加味しながらやるようにしています」

【海外勢の試合の見方に変化】

 WUGでは最後、黒澤がコンディション面に不安を覚えたため17-20位決定戦を棄権し、最終成績19位(24チーム中)でフィニッシュ。水町は「孝太も大学生活が残り半年ありますから。無理をさせられません」と受け止め、「ビーチバレージャパンJVA第39回全日本ビーチバレーボール選手権大会」(8月11日~13日)に目を向けた。

 一方で、「世界の選手たちを前にプレーできる」と胸を弾ませていたWUGは、より自身の成長意欲をかきたてるものとなった。

 実際、予選グループで対峙したフランス代表ペアや、結果的に大会を制することになるドイツ代表ペアは、昨年の「2024 FISUビーチバレーボール世界大学選手権」で上位になった面々であり、大会に出場した水町もその力量を直接目にしてきた。今回も、フランス代表ペアのひとりであるジョワデル・ガルドゥケが、決して長身ではないながら機動力と跳躍力を生かして得点を重ねる姿を自分に重ね、「彼のようにサイドに回り込んで打つ。

頭のなかでイメージはできているんですけどね......できない(笑)」と悔しげに語った。

 また、男女の決勝を観戦し、「レベルの高い試合だと、最初はショットが多くて、途中から強打が増える気がします。まだまだ自分は組み立てどうこうではなくて......。"打てるボールは打つ"。それだけです」と分析する。声のトーンを上げて話す様子からは、ビーチバレーボールに夢中になっていることが存分にうかがえた。それは水町本人も自覚している。

「去年だと、海外勢の試合を見ていても、ただ『すごい』としか思わなかった。でも、今は自分に取り込もうとしたり、何がすごかったのかを考えながら試合やプレーを見られるようになっているんです」

 決勝後、ビーチバレーボール競技の男女WUG日本代表選手団による食事会が、会場近くのレストランで催された。同会場では、金メダルを首にかけた男子のドイツ代表ペアが、関係者たちと喜びに浸っていた。自国開催での優勝。その光景を眺めながら、水町はこう語った。

「絶対に気持ちいいですよね......。自分はもちろん、どの大会でも優勝を目指していますけど、そろそろ勝ちたいです。まだまだキャリアも浅いし、そう簡単ではないのは承知の上です。でも、獲りたいものは獲りたい! そこにベテランも若手も関係ないですし、二刀流をしている自分がタイトルを手にすればインパクトもある。だから、もっとうまくなりたいし、もっと強くなりたいです」

 うらやましそうに、それでいて言葉に力を込める。その瞳は、水町の愛称でもある"太陽"のごとくギラついていた。

【プロフィール】

水町泰杜(みずまち・たいと)

2001年9月7日、熊本県生まれ。身長181cm、体重82kg。小学1年生でバレーボールを始め、中学・高校では全国大会に出場。鎮西高校では1年生でインターハイ・春高優勝、2年生で春高ベスト4、3年生では春高ベスト8。その後、早稲田大学に進学し、全日本インカレで優勝。4年生では春季リーグ・東日本インカレ・秋季リーグ・全日本インカレの4冠を達成した。

卒業後はSVリーグのウルフドッグス名古屋でプレー。プロ1年目からアウトサイドヒッターとして活躍し、チームの5位入賞に貢献した。さらにインドアと並行し、2024年5月からはトヨタ自動車ビーチバレーボール部でビーチバレーに本格挑戦している。

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