カタールの首長たちでさえ、ここまで見事な2024-25シーズンは思い描いていなかったかもしれない。

 2011年に彼らが同国の国家ファンドを通じてパリ・サンジェルマン(PSG)を買収したとき、最大の目標は欧州制覇──チャンピオンズリーグ(CL)優勝──にあった。

14年の歳月と天文学的な予算を費やし、昨季ついにその宿願を果たしたわけだが、チームはそれ以外のタイトルもほぼすべて獲得している。

欧州サッカー開幕 フランス史上初の3冠&クラブW杯準優勝のパ...の画像はこちら >>

 1月にモナコとのトロフィー・デ・シャンピオン(国内スーパーカップ)を3年連続で制すと、4月には6試合を残してリーグ・アン4連覇を決め、5月にクープ・ド・フランス(国内カップ)を3連覇し、翌週にはCLの頂点を極めた。インテル・ミラノにつけた5-0のスコアはCL決勝史上最大得点差で、国内リーグとカップ、CLの3冠はフランス初の快挙だ。

 ルイス・エンリケ監督が指揮を執るチームは、その2週間後に始まったクラブW杯でも勢いを維持し、グループステージでボタフォゴに屈しながらも首位通過すると、リオネル・メッシを擁するインテル・マイアミ、ブンデスリーガ王者バイエルン・ミュンヘン、CL優勝回数で群を抜くレアル・マドリーを下して決勝に到達。しかしここではチェルシーに0-3の完敗を喫し、フランスと欧州、世界のタイトルの総なめを目前で逃した。

 試合後、「決勝を通して、彼ら(チェルシー)が勝利にふさわしかった」と語ったルイス・エンリケ監督はこう続けた。「だが、我々は敗者ではない。失敗したわけでもない」

 ほとんど完璧な1年間を過ごしたPSGが、新シーズンも欧州のフットボールシーンの主役となるだろう。昨季は実に公式戦65試合を消化し、シーズン間のオフもほとんどなかったため、特に序盤戦では全体から疲労が感じられるかもしれない。本稿執筆時点で即戦力と言えるニューカマーは、23歳のフランス代表GKリュカ・シュバリエ(元リール)と22歳のウクライナ代表DFイリア・ザバルニー(元ボーンマス)くらい。

 この動きから見える彼らの意図は、好調のチームに大きな変化を加えず、若手の多い集団を成熟させていくこと、そして約ひと月前のクラブW杯決勝で晒した弱点の改善だ。

かつてのバルセロナを彷彿とさせる中盤

 ニュージャージーで行なわれたチェルシーとの一戦では、左サイドを重点的に狙われ、前半のうちに3失点。相手の右ウイング、コール・パーマーの出来が抜群だったこともあるが、左サイドバックのヌーノ・メンデスはロングフィードにうまく対処できず、左ウイングのフビツァ・クバラツヘリアは後方の守備が疎かになりがちだ。

またこの日の左CBは、サスペンションで出場停止だったウィリアム・パチョの代役のルーカス・ベラルドで、レギュラーとの大きな差を露呈した。

 守備陣をピンポイントで補強した一方、放出した選手もほとんどおらず(昨季フェネルバフチェにローンに出ていたDFミラン・シュクリニアルが同クラブと正式契約へ)、欧州フットボールシーズンの幕開けとなるUEFAスーパーカップでも、昨季の主力が先発メンバーに名を連ねそうだ。

 今のPSGのスタメンを構成する選手たちは、2022年夏に就任したポルトガル人スポーツディレクター(SD)、ルイス・カンポスが綿密な計画のもとに引き抜いた面々が主体となっている。それはクラブの長期計画の一環で、若手の才能を見抜く慧眼の持ち主を招き、それまでのスーパースターに頼った方針からの転換を図った。翌年にはルイス・エンリケ監督を招聘し、そのオフにリオネル・メッシとネイマールを、次の夏にキリアン・エンバペを放出。逆にクラブの象徴となれるポテンシャルを持つ若いフランス人選手を中心に、士気の高い逸材を次々に加え、本当の意味での"トップレベルのチーム"を築いていったのだ。

 現在、カンポスSD就任以前に加入したレギュラーは、GKジャンルイジ・ドンナルンマ、CBマルキーニョス、右サイドバックのアシュラフ・ハキミくらい。前線には左から24歳のジョージア代表クバラツヘリア、中央に28歳のフランス代表ウスマヌ・デンベレ、右に20歳のデジレ・ドゥエか22歳のフランス代表ブラッドリー・バルコラが並ぶ。いずれもスピードとスキルを高次元に備え、守備時にはハイプレス、攻撃時にはドリブルやランで相手の急所を突く。

 中盤はSDと同胞のふたり、25歳のポルトガル代表ヴィティーニャと20歳の同代表ジョアオ・ネベスに、29歳のスペイン代表ファビアン・ルイスを加えた陣容となる。テクニックとスタミナに長じるこの3人は、かつてルイス・エンリケ監督が率いたバルセロナのシャビ、イバン・ラキティッチ、セルヒオ・ブスケツの中盤を想起させるリズミカルなパスワークの担い手だ。

男子バロンドールに史上最多の9選手がノミネート

 なかでもヴィティーニャとネベスは昨季CL決勝の翌週に、ポルトガル代表としてUEFAネーションズリーグ決勝でスペインをPK戦の末に下し、同国2度目のこのタイトル獲得に貢献している。

昨季、前者は代表戦を含めると公式戦67試合、後者は同66試合に出場。リーグ・アン、クープ、CL、ネーションズリーグで優勝、クラブW杯で準優勝しているのだから、バロンドール候補に挙げられているのもうなずける。PSGからはこのふたりを含め、実に9選手が候補にリストアップされている──この賞における男子史上最多のノミネート数だ。

 ヴィティーニャとともに今年のバロンドール最右翼と目されるデンベレは、スーパーカップに向けてこう語った。

「新シーズンに、スムーズに入っていくことが重要だ。すでに何度も言っていることだが、王者の座を守りたければ、勝ち続けるしかない。何が起きようと、勝ち続けなければならないんだ。まずはシーズン最初の一戦に、勝ちたいと願っているよ」

 CL王者PSGとヨーロッパリーグ覇者トッテナム・ホットスパーによるUEFAスーパーカップは、日本時間8月14日木曜日の早朝4時に、イタリアはウディネのスタディオ・フリウリでキックオフを迎える。

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