トッテナム・ホットスパーにとって昨季のヨーロッパリーグ(EL)優勝は、17年ぶりのメジャートロフィーにして、41年ぶりの欧州タイトルだった。しかし直後のオフは、穏やかなものとはならず、成功に導いたアンジェ・ポステコグルー監督が解任され、それを断行したフロントに対し、一部のファンは不信感を募らせている。



 過去にブリスベン・ロアーや横浜F・マリノス、セルティックを率い、そのいずれのクラブでも2シーズン目にタイトルを手にしてきたポステコグルー監督は、ノースロンドンを本拠とするクラブでも公約通りに2年目にヨーロッパリーグを制覇。だが一方、プレミアリーグでは22敗を喫し、17位でギリギリの残留圏内でシーズンを終えていた。ダニエル・リービー会長は、そこを「見て見ぬふりはできない」として、長く待ちわびたメジャータイトルをもたらした元オーストラリア代表監督と袂を分かった。

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 後任には同じロンドンでも西にホームを構える中堅クラブ、ブレントフォードで確かな手腕を見せてきたトーマス・フランクを招聘。現在51歳のデンマーク人指揮官は、明晰な頭脳の持ち主で、徹底して勝負にこだわり、誰とでも分け隔てなくコミュニケーションを取る智将だ。とはいえ、規模の大きなクラブを率いるのは初めてとなり、当然ながら成功は保証されていない。そして、すでにいくつかの難題を抱えてもいる。

 まずはエースだったソン・フンミンが抜け、その大きな穴を補填しなければならない。過去10シーズンにわたり、現在33歳の韓国代表アタッカーはチームに大きく寄与してきたが、昨季はこれまでのスタンダードを維持できない場面もあり、潮時だったと言えなくもない。それでも新シーズン、プレミアリーグにおけるアジア人史上最高の選手の不在は、強く感じられることになりそうだ。

 トッテナム・ホットスパー・スタジアムには近年、多くの韓国人ファンが観戦に訪れており、観客動員にも影響が及ぶだろう。今年1月から加わった現在19歳の韓国代表ヤン・ミンヒョク(契約は昨夏に締結)は、加入直後に2部のクラブにローンに出され、今季も同じく2部のポーツマスに期限付きで放出されている。

ノースロンドンで好まれる"輝かしきフットボール"

 また、彼らの出身地、韓国でのプレシーズンツアー中に行なわれたニューカッスル・ユナイテッド戦で、攻撃の核のひとり、ジェームス・マディソンがひざの靭帯を断裂。さらに5月にひざを手術したデヤン・クルセフスキも、復帰時期が不透明だ。

 ウェストハムから加わったモハメド・クドゥス、バイエルンから移ってきたマタイス・テルに期待がかかるも、いきなり彼らと同等の働きを求めるのは酷だろう。

 つまり、日本時間14日早朝に予定されているUEFAスーパーカップに先発するトッテナムのメンバーは、昨季ヨーロッパリーグを制した時のチームと大きく変わっているはずだ。戦い方も、ポステコグルー監督の頃とは異なるに違いない。

 プレシーズン、フランク新監督は4-2-3-1を用いたものの、陣形は昨季のチームよりコンパクトに。香港でアーセナルを下し、ソウルでニューカッスルと引き分けたまではよかったが、欧州に戻った後の最後の強化試合でバイエルン・ミュンヘンに0-4と大敗している。大量失点で敗れることが少なくなかったポステコグルー時代を思い出させる内容だった。

 とはいえ、両者には大きな違いがある。最大の相違のひとつは、セットプレーだ。ポステコグルー前監督がFKやCKを苦手としていた反面、フランク新監督はもっとも早くセットプレーを入念に磨き上げたトップレベルの指導者のひとり。指揮官は言う。

「セットピースは自分が得意としているものであり、その重要性は日に日に高まっている。

監督はそれぞれに信じるものが違う。客観的に見て、昨季のトッテナムはハイプレスに特長があったと思う」

 フランク監督が率いたブレントフォードは、試合開始から相手のゴールを一直線に目指す先手必勝を掲げるチームだった。「攻撃は最大の防御」と考えている指揮官を慕う選手は多く、それは新天地トッテナムの伝統とも合致する。ノースロンドンでは1960年代のトッテナム黄金時代に「輝かしきフットボール」(Glory Game)という言葉が生まれ、このクラブのサポーターはアタッキングスタイルを好んできた。アントニオ・コンテやジョゼ・モウリーニョといった一線級の指導者が、タイトルを獲得しても長続きしなかったのは、その守備的なアプローチが受け入れられなかったからでもある。

日本代表DF高井幸大にも出場機会は訪れるだろう

 なお、日本のファンは、このロンドンの名門クラブに加入した高井幸大の状況が気になっていることだろう。センターバックのファーストチョイスは、クリスティアン・ロメロとミッキー・ファン・デル・フェンで、20歳の日本代表DFはそこに割って入っていく必要がある。プレシーズンに足を負傷したため、まずは怪我を癒すことが先決ではあるけれども。

 ただし他のビッグクラブと比べて選手層の薄いトッテナムでは、川崎フロンターレから加入した20歳のDFにも、シーズン中にチャンスが訪れる可能性は大いにある。昨季はポステコグルー前監督が、共に10代のアーチー・グレイとルーカス・ベルフバリを重用。フランク新監督も若手を積極的に登用する指揮官だ。

 いずれにせよ、2年前のハリー・ケインに続き、攻撃の看板選手が抜け、戦力値は下がったと見るべきだろう。

そもそも吝嗇の経営者と批判されることの多いリービー会長が運営するトッテナムは、昨季の人件費がマンチェスター・シティの約半額だった。

 そんなチームでELを制したポステコグルー前監督は称えられて然るべきだったし、フランク新監督がもしプレミアリーグやチャンピオンズリーグで躍進すれば、見事というほかない。まずはUEFAスーパーカップで、現在最強と呼び声の高いPSGにどんな戦いを見せるか。新生トッテナムのお手並みを拝見したい。

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