蘇る名馬の真髄
連載第9回:ゴールドシップ

かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。

ここでは、そんな『ウマ娘』によって再び脚光を浴びている、往年の名馬たちをピックアップ。その活躍ぶりをあらためて紹介していきたい。第9回は、ゴールドシップ。破天荒な伝説を何度も生み出して、絶大な人気を誇った。

『ウマ娘』では屈指の破天荒キャラ ゴールドシップが築いた栄光...の画像はこちら >>
『ウマ娘』において、屈指の破茶滅茶キャラであり、次から次へと奇行を繰り返す性格の持ち主と言えば、ゴールドシップである。公式サイトにも「思いつくままに行動し、面白おかしく生きる自由人」「トレセン学園一のトリックスター」といった謳い文句が並べられている。

 こうした異色の性格は、もはや説明するまでもなく、競走馬のゴールドシップを反映させたものだ。稀有な強さと凶暴さを併せ持った芦毛の問題児"ゴルシ"は、数々の栄光と失態の伝説を築いてきた。

 激しい気性の持ち主で、ふだんから隙あらば他の馬を威嚇したり、スタッフに悪さをしたり......。後脚で立ち上がって暴れる様子は、ゴールドシップのシンボルと言っていいほどよく見る光景だった。

 レースぶりも真面目さとは無縁。のっそりとスタートし、鞍上がいくら促しても動かない。

しかし、ひとたびエンジンがかかると、永遠に止まらないかのような力強い末脚を繰り出す。

 また、強いレースを見せたかと思えば、大凡走に終わることもしばしば。6歳となった2015年、悲願のGI天皇賞・春(京都・芝3200m)での戴冠を遂げたあと、断然の1番人気で迎えたGⅠ宝塚記念(阪神・芝2200m)では、ゲート内で立ち上がって大きく出遅れ。15着大敗を喫した。まさに山あり谷ありの競走馬キャリアだった。

 それでも、名ステイヤーである母父メジロマックイーンから受け継いだスタミナ、個性派として鳴らした父ステイゴールドから受け継いだ爆発力で、GⅠ6勝を挙げたのである。能力は間違いなく一級品だった。

 この馬の名シーンを挙げればキリがないが、ここでは初めてのGⅠ制覇となった2012年のGI皐月賞(中山・芝2000m)を振り返りたい。

 ゴールドシップは、デビューから5戦3勝、2着2回の成績で皐月賞に臨んだ。「牡馬三冠」の初戦には同世代の強豪が集結。グランデッツァやワールドエース、ディープブリランテといった良血馬が上位人気を形成し、ゴールドシップは4番人気だった。

 レースのポイントになったのは、馬場状態だ。

戦前にかなりの雨が降り、公式発表では「やや重」だったものの、芝コースは予想以上にぬかるんでいた。それまでたくさんの馬が通ってきた内側などは芝が掘れ、その分、水気を吸収して走りにくい状況だった。

 そのため、この日の芝レースでは馬場の荒れたインコースを避け、外を大きく回る馬が大半だった。レース後の各ジョッキーからも「インコースは馬がのめったり滑ったりする」といった声が聞かれ、皐月賞でも各馬が外を回る展開が予想された。

 迎えた皐月賞。ゲートが開くと、2頭の馬が先手を争って大きく引き離す展開に。ゴールドシップはスタートで加速せず、18頭の最後方を追走。向正面では先頭から最後方までは、20馬身以上はあっただろうか。相当な縦長の展開になっていた。

 各馬が3コーナーを回って、勝負どころに入っていくと、やはりほとんどの馬が外側に進路を取っていった。内側は、およそ4~5頭分が空いた状況。たとえ距離のロスがあっても、馬場状態の悪い内だけは避けたかったのだろう。

 そんななか、広く空いたインコースを突いたのが、ゴールドシップだった。コンビを組む内田博幸騎手のゴーサインに反応すると、猛々しい加速で最内を進んでいく。先ほどまで最後方にいた芦毛の馬体は、距離の利を使って、あっという間に5、6番手まで上がってきたのだ。この3~4コーナーにかけての凄まじい追い上げを、多くの人が「ワープ」と表現した。

 そこから直線に入ると、馬場のぬかるみなどまったく感じさせず、猛烈な勢いで先頭に。その脚色はゴールまでまったく衰えることがなく、外を回った有力馬が懸命に追い上げるも、ゴールドシップとの差が埋まることはなかった。

 それこそ異端児の真骨頂。ゴールドシップは、皐月賞の歴史に残る戦法で見事な勝利を飾った。

 その後、ゴールドシップは良馬場のレースしか走っていないが、比較的柔らかく力のいる馬場状態の時には盤石の強さを見せた。皐月賞同様、タフでスタミナのいるレースは大得意だったのである。

 この皐月賞の勝利は、以降も続く「ゴールドシップ伝説」の始まりと言えるだろう。破天荒な逸話、愛されるエピソードは、それからたくさん生まれていった。

その足跡をたどってみるのも、一興である。

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