WTTチャンピオンズ横浜2025 男子編

【日本開催ゆえの緊張感】

 卓球の国際大会シリーズ「WTTチャンピオンズ横浜2025」が、8月7日から11日にかけて神奈川県の横浜BUNTAIにて行なわれた。日本では初開催となった、世界ランキング上位者によるシングルスの頂点を目指した戦い。そこで日本男子のエース・張本智和(トヨタ自動車)は圧巻の強さを見せつけた。

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 7月に行なわれた「USスマッシュ」で、張本は世界ランキング1位の林詩棟(中国)から勝利を奪って決勝に進出。今大会は第3シードとして名を連ねた。日本開催の国際大会では、昨年11月の「WTTファイナルズ福岡」で準優勝しているが、今回は2022年のハンガリー大会以来となるWTTシリーズでの優勝を目指した。

 初日の1回戦に登場した張本は、初対戦のフィン・ルー(オーストラリア)をストレートで退ける順調な滑り出し。2回戦の相手は、昨夏のパリ五輪の男子団体準決勝の最終試合で敗れた因縁の相手、アントン・シェルベリ(スウェーデン)だった。「アントン選手はすばらしい人間力を持っていて、すばらしい選手だと思います。だけど、勝ったほうは忘れても、負けた選手は一生覚えている」と、1年前の悔しさを胸に抱いたまま挑んだ。

 過去対戦で6勝5敗だったシェルベリを相手に、張本は第1ゲームに7連続ポイントを奪うなど安定した立ち上がりを見せて11-5でモノにする。続けて第2ゲームも奪って勝利に王手をかけた。

 第3ゲームはゲームポイントを与えるなど相手の時間を作られたが、「自分が通用しているところは変えずに、やられたところだけ修正した。10-7からの3本を思いきっていけたところはよかった」と、緊迫したなかでも落ち着いた試合運びが光り、結果的にストレートで下した。

「もちろん、(日本開催で)知ってる人が観に来たりして、プレッシャーはあります。

でも、いろんな緊張感を感じるなかで、日本ならではの緊張感を楽しむしかない。これは、ほかの大会では感じることができないですね」

 地元開催に対する思いを口にした張本だが、準々決勝でもそのプレッシャーを力に変えた。世界ランキング9位の向鵬(中国)の強気の攻めにゲームカウント1-2とリードを許すも、「フォアもバックも調子がよかった」と、中盤以降は安定したラリーや台上での手堅いブロックが光り、4-2で逆転勝ち。男女通じて、日本勢では唯一のベスト4進出を決めた。

【優勝のために準備してきた"秘策"】

 準決勝のカナック・ジャー(アメリカ)戦も安定したラリーを軸に4-1で退けた張本が、決勝での対戦を熱望していたのが世界ランキング2位の王楚欽(中国)だ。5月の「世界選手権ドーハ大会」を制したNo.1サウスポーで、昨年の「WTTファイナルズ福岡」の決勝では0-4と完敗している。

 しかし、張本は当時、「王楚欽 撃破」を誓っていた。

「来年は王楚欽と、フランスの(フェリックス・)ルブランに1回は勝ちたいと思います。ほかの選手に対しては、絶対に勝てるわけではないですけど、それなりの試合はできる。でも、彼らに対しては0-4や1-4という試合ばかりなので、フルゲームまでいくような1年にしたいです」

 張本が王楚欽に対して準備してきたのは「得意ではない戦い方」と口にした"秘策"。持ち味であるチキータでのレシーブを序盤は封印し、フォアでのツッツキやストップを主体に相手の出方をうかがった。

 立ち上がりから勝負を仕掛けた戦術は功を奏した。

王楚欽は何度もショットをミスし、首を傾げるシーンも。第1ゲームは9-9からの攻防を制し、終盤に迫られた第3ゲームもタイムアウトを使いながら11-8でモノにした。完璧といってもいい試合運びで、ゲームカウントは3-0に。中国ファンも多く詰めかけた横浜BUNTAIは、異様な空気に包まれた。

 王手をかけた張本だが、「そこからの2ゲームが、彼が一番強い時間帯。負けを覚悟して思いきって振ってくる」と試合後に語ったように、第4ゲーム以降の反撃も頭に入れながら試合を進めた。第4、5ゲームを奪い返され、迎えた第6ゲーム。膝をひねった影響でメディカルタイムアウト(MTO)を使いながらも11-4と圧倒し、優勝を決めた。

 張本は「本当に信じられない」と連呼しながら"天敵"相手の勝利を振り返り、「ここ日本で、横浜で優勝できたことは、ほかの大会より価値があるのでうれしい」と喜びを口にした。さまざまなプレッシャーを背負う日本の22歳が、苦しみながらつかんだ横浜での栄冠だった。

 今回、張本が世界王者を撃破したなか、パリ五輪でメダルなしに終わった日本男子にとって、2028年のロサンゼルス五輪に向けて求められるのはチームとしての底上げ。世界トップ5をキープする張本に続く存在の台頭は待たれるところだ。

 その点では、今大会でベスト8入りを果たし、ドイツ・ブンデスリーガでの武者修行を続ける戸上隼輔(井村屋グループ)や、1回戦の李尚洙(韓国)との戦いで0-2のビハインドを逆転した現全日本王者の松島輝空(木下グループ)といった選手が候補に挙がる。彼らが常に世界のトップ20に顔を出し、強豪と対等に戦える力を身につければ、"張本依存"からの脱却とチーム力アップの双方を実現できるだろう。

 中国のサウスポーエースを相手に進化を見せつけ、チャンピオンズ日本初開催に華を添えた張本の栄光を称えつつ、日本男子全体の力が上がってくれることを待ちたい。

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