WTTチャンピオンズ横浜2025 女子編

(男子編:張本智和が中国の「天敵」を撃破して頂点へ 「得意ではない戦い方」に見出した活路>>)

【パリ五輪後の"シーズン2"を戦う早田】

 8月7日から11日にかけて行なわれた、卓球の国際大会シリーズ「WTTチャンピオンズ横浜2025」。豊富な選手層を誇る日本女子は、張本美和(木下グループ)、伊藤美誠(スターツ)、大藤沙月(ミキハウス)、早田ひな(日本生命)に、ワイルドカードとして橋本帆乃香(デンソーポラリス)を加えた5選手がエントリー。世界トップ10に複数の選手が入っていることから、「打倒・中国」の一番手として考えられていただろう。

【卓球】早田ひなが張本美和との試合翌日に明かした体の状態 五...の画像はこちら >>

 昨夏のパリ五輪からおよそ1年。団体で銀、シングルスで銅メダルを獲得した早田は、2028年のロサンゼルス五輪を目指すなかで"シーズン2"と呼ぶ新たなフェーズに入っている。エースとして躍動したパリ五輪で左腕を負傷し、実戦復帰後もケガと向き合いながらの日々を過ごしてきた。

 しかし、今大会前には「コンディションは悪くない」と語り、腕の状況についても「精度はまだまだですけど、パリ五輪の時にできていた技術がほとんどできるようになってきた」と、回復への手応えを感じるなかで初陣を迎えた。

 シャオ・マリア(スペイン)との1回戦では第3ゲームを奪われ、「バックハンドの調子はよくなかった」と振り返りつつも、ゲームカウント3-1で競り勝ち。「勝てばいい、という世界のなかで泥臭く戦うことが重要」と、ハイレベルな猛者が集結した大会ゆえに勝利のみを見据えて戦っていく思いを語った。

【張本美和との日本人トップ2対決は思わぬ展開に】

 2回戦は張本との日本人対決になった。全日本選手権の決勝でも2年連続で戦うなど、ここ数年の女子卓球界を牽引してきた両者の戦い。国際大会で1勝6敗と大きく負け越していた張本は、「正直、ドローが出た時は『また早田選手のところか......』」と語っていた。

 そんな日本女子の"トップ2"による戦いは、第1ゲームから白熱した攻防が展開された。中国トップ勢にも引けを取らない張本のラリーに、早田は鋭いバックハンドを見舞うなどして最初のゲームを奪取。一方の張本も、第2ゲームの9-9からタイムアウトで熟考し、YGサーブ(逆横回転をかけるフォアサーブ)を使うなどサービスの変化で揺さぶって重要なゲームを取りきった。

 そんな両者の戦いは、フルゲームにもつれたところで意外な展開を迎えた。

 張本が4-2とリードした時点で、早田はタイムアウト。その後、審判のもとに駆け寄ってメディカルタイムアウト(MTO)を要求し、試合は重要な局面で中断された。その前後に、普段は早田のベンチコーチも務めるフィジカルトレーナーの岡雄介氏が駆け寄り、早田の腕にマッサージを施した。

 この中断中、張本はベンチでひとり、身体を動かしながら戦況を見守った。

「リードしているし、このままいけるように。気持ちの部分で左右されないように自分に言い聞かせて準備をしました」

 しかし結果的に、その中断は早田に優位に働いた。7-7の同点から4連続ポイントで勝負を決したサウスポーが、注目の日本人対決を制することになった。

 早田は試合後、左腕のしびれの症状について明かした。2カ月ほど前の飛行機での移動中に、尺骨神経を圧迫されたことによる症状だという。

 7月の「USスマッシュ」ではMTOを使わずに敗退していたこともあり、「後悔していたので、もう1回同じこと(判断ミス)はしたくなかった」と、今回は使用を決断した。
 
 敗れた張本は試合後、涙ながらに審判団からの明確な説明がなかったことや、ベンチコーチも兼務する岡氏が治療を施した点を疑問視するなど、最終ゲームのこのワンシーンは議論を呼ぶことになった。兄の智和も「ナショナルチームの、中立の立場のマスターが(治療を)やるべき」と意見するなど、MTOの課題が浮き彫りとなった。

【「自分をすべて解放できた」】

 そんななかで早田は、大藤とともに準々決勝に進出し、世界ランキング3位の陳幸同(中国)と対戦した。世界選手権では0-4で敗れていた相手に対し、序盤から鋭い両ハンドで攻勢をかけるなど、11-6、11-6と2ゲームを連取した。

 しかし、陳幸同の修正力と堅実なプレーの前に、徐々にペースを握られる。第4ゲームは逆転を許すなど、4ゲームを連続で奪われた。世界選手権のリベンジを逃した早田はベスト8で終戦となった。

 早田は試合後に「まだまだ力不足だった」と、途中からペースを握られた戦いを振り返りつつも、「今日は自分をすべて解放できた試合だった。ひさびさにやりたいことをやって試合をすることができた。負けたんですけど、うれしかったとも思います」と充実感を語った。

 気になるのはコンディション面だが、左腕のしびれの症状については「治療を進めているので、徐々によくはなっている」と言及。一方で、パリ五輪で負った左腕のケガについては「基本的にテーピングについては、引退するまで予防としてつけておくと思います。『もう完治はしない』と言われている。そこは自分の体と相談しながら、頑張っていきたいです」と自身のスタンスを明かした。

 日本では初開催となったWTTチャンピオンズ横浜では、中国からも多くの観客が詰めかけるなど、連日大盛況のうちに幕を閉じた。そんな大会を、紆余曲折を経ながらも戦い抜いた早田。新たなフェーズを戦う25歳サウスポーの奮闘は続く。

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