柏レイソル
リカルド・ロドリゲス監督インタビュー(後編)
――今季ここまでで、リカルド監督がチームとして手応えを感じた試合はありましたか。
「ハハハ(苦笑)。今、苦笑いしたのは、その質問で頭に浮かんできた試合が、必ずしも結果がよかったというわけではないからです。それゆえ、苦い思い出でもあるのですが、ホームの京都サンガF.C.戦(第21節/3△3)と、アウェーの鹿島戦(第24節/2●3)です。
京都戦は上位対決で、お互いに譲らずドローでしたが、ゲーム自体は完全に支配して戦うことができました。鹿島戦は負けてしまいましたが、後半はチームとして戦って、選手がすばらしいパフォーマンスを発揮してくれました。この2試合は、今までの成長がさらに一歩進んだのを実感することができた試合でした。
シンプルにいい試合と言えば、6月にルヴァンカップ(プレーオフラウンド/第1戦=3〇0、第2戦=2〇1)とリーグ戦(第20節/3〇0)で東京ヴェルディと対戦した3試合ですね。3月にホームで対戦したヴェルディ戦(第7節/0△0)は苦しい試合でしたが、それから約2カ月半後の3試合はすべて勝利。チームとして成長した姿を表現できたと思います」
――そうしたなか、ヴィッセル神戸、FC町田ゼルビア、そして鹿島など、インテンシティの高いパワー系のチームには苦戦している印象があります。実際、それら3チームとの対戦ではすべて敗れています。
「アウェーの町田戦(第17節/0●3)については(ピッチ上に)水たまりができるほどの悪コンディションでの試合でした。それが、我々のプレーに大きな影響を与えました。ホームの鹿島戦(第5節/1●3)、ホームの神戸戦(第19節/1●3)は、チームとしていいプレーができていなかったですし、相手が我々を上回っていたことは感じました。
しかしながら、先にも触れたアウェーの鹿島戦では、我々が0-2からどのようにリアクションしていったのか。それを含めて、(負けた試合がすべて)負けるにふさわしい試合だったのかというと、決してそうではなかったと思います」
――このあと、神戸と町田とはまだ対戦が残っています。タイトルを手にするためには、重要な試合になるのではないでしょうか。
「J1で優勝するためには、その2チームとの戦いだけではなく、すべての試合で勝つことが求められます。また、攻守にわたって完成度が高いチームになることも必要です。それができないと、タイトルを獲得するのは難しいでしょう。
そのためには、たとえばトランジションをより速く行なっていくこと。セットプレーでは点が取れていないので、点が取れるようにデザインし、精度を高めていくことなども必要です。いずれにしても、一段とチームの完成度を高めていかなければいけません。
チームには、まだまだやるべきことがたくさんあります。でも、今の柏はそれができるチームだと思っています」
――リカルド監督が就任して1年も経たずして、ここまで戦術が浸透し、強い柏になりつつあるのは、どういったところにポイントがあると思いますか。
「選手が真面目で、エゴイスティックな選手がいないからでしょう。選手全員がチームのためにプレーし、チームに『貢献したい』という気持ちを持って戦い続けています。これは、柏の大きな武器のひとつだと思います。
そういう選手が集まって、戦っている――今のチームの雰囲気は、私が徳島ヴォルティスでJ2優勝を果たした時のチームとよく似ています」
ところで、リカルド監督は2017年に来日し、以降継続して日本のサッカーを見てきているが、スペイン人指揮官の目には、日本のサッカーや日本代表がどのように映っているのだろうか。
――リカルド監督が徳島で指揮を執り始めた2017年以降、日本サッカーは成長していますか。
「日本のサッカーは、とても成長していると思います。特に大きいのは、選手一人ひとりの、個々の成長でしょう。海外のクラブでレギュラーを獲得している選手が増え、彼らは高い評価を得ています。
そうした選手が集う日本代表も、危なげなくW杯予選を突破。国際ゲームでもいい結果を収めています。
――確かに、代表選手のほとんどが海外組で、その数はさらに増えています。ですが、ビッグクラブでプレーしている選手はまだまだ少ないです。そのあたりは、どう見ています。
「(各選手にとって)ビッグクラブが最適な選択なのか? というと、監督目線で言わせてもらえば、必ずしもそうとは限りません。選手の成長を促すうえで大事なのは、環境でしょう。高いレベルで拮抗した試合をどれだけ経験できるか。それを積み重ねていくことが重要だと思います。
ただし、代表チームの成長を促すことを考えると、W杯のアジア予選が代表の強化につながるかどうか? というと、そうではないと思います。アジアは欧州に比べて、まだ戦力的な格差が大きいですし、そのなかで日本は抜けた存在なので」
――代表選手をはじめ、日本人選手の多くが、少しでもレベルの高いクラブ、リーグへと移籍したいという気持ちを抱いてプレーしています。そんななか、スペインのトップリーグに在籍している選手は、久保建英(レアル・ソシエダ)と浅野拓磨(マジョルカ)のふたりだけ。これは、スペインでは日本人の能力がそこまで評価されていないのでしょうか。
「それは(日本の)選手の能力がどうこうではなく、ひとつはスペインのクラブのマンパワー不足によるところが大きいと思います。ドイツ、イングランド、イタリア、フランスの各クラブは、基本的にスタッフの数が多く、スカウティング部門に10名ぐらいのスタッフがいるところもあります。
一方で、スペインのクラブのスタッフは少人数で、スカウティングのスタッフが2名しかいないところも......。あるスペインのクラブ強化担当の話では、『なかなか日本市場まで手が回らない』ということのようです。
そんなスペインとは裏腹に、5大リーグではない国のクラブは、日本をはじめ、アジアに注目しています。イングランド2部にあたるチャンピオンシップのクラブも、Jリーグの選手への関心を深めています。日本には金銭的にリーズナブルで、若くて才能のある選手がそろっているのを、彼らは知っていますから」
――さて、リカルド監督は柏で自らのスタイルを完成させてタイトルを獲ることが、現在の目標であり、ノルマだと考えていると思いますが、その後の"野心"などはありますか。
「私はこの柏で最高の仕事をして、多くのタイトルを獲りたいですし、アジアで戦う姿も見たいと思っています。正直に言うと、クラブの歴史を塗り替えるぐらいのタイトルがほしいですね(笑)」
(おわり)
リカルド・ロドリゲス監督
1974年4月3日生まれ。スペイン出身。若くして指導者の道を目指して、最初はスペイン下部リーグの各クラブを指揮。その後、サウジアラビアの代表スタッフを務め、タイ・プレミアリーグのクラブでも手腕を発揮した。