林陵平×下田恒幸 プレミアリーグ2025-26展望 前編
新シーズンのイングランド・プレミアリーグが8月15日に開幕。試合中継の解説と実況でお馴染みの林陵平と下田恒幸両氏が、リバプール、アーセナルなどのビッグクラブの陣容と今季への期待を語った。
【4冠を狙える陣容のリバプール】
林 いよいよ新シーズンが始まりますね。今シーズンのプレミアリーグは移籍で選手もすごく動いています。
下田 近年稀に見る補強の動きがあって、ビッグ6がかなり動いていて、ちょっと本気を出している感じがします。
林 これから新シーズンの展望をしていきたいと思います。ビッグ6を中心に話していきたいと思いますが、まずは昨シーズン王者のリバプール。どうですか?
下田 すごいですよね。昨シーズン、あれだけ隙のない戦いをして優勝しているのに、継続じゃなくて、それを打ち破って次にいくぞという感じがすごいなと。
林 プラスアルファのものを出してきていますよね。昨シーズンはターンオーバーの部分ができなかったと思うんですよ。
下田 あれは、やったほうがいいのにやらなかったんですか?
林 多分、アルネ・スロット監督の考え方だと思うんですけど、基本的にはベースは変えたくなくて、選手をすごく入れ替えるタイプじゃない。でも今シーズンは、ポジションごとにふたりいるぐらいのチーム力になっていると思います。
下田 リバプールはこれだけ獲って、アレクサンデル・イサク(ニューカッスル)も獲るの? というのが移籍期間最後までの大注目ですね。ウーゴ・エキティケを取ったならいらなくない? と思ったんですけど、どう見てますか?
林 正直、タイプは同じ感じだと思うんですよ。
下田 4冠狙ってますよね?
林 狙えるだけの力があります。あとリバプールにはフロリアン・ビルツが来ました。
下田 ドイツ人のトップクラスの選手は、誰もが一度はバイエルンのシャツを着たいというのがあるらしくて、みんな行くんですよ。だから僕は、ビルツは絶対にバイエルンだと思っていた。でもバイエルンのフロントがゴタゴタしていて、ビルツが嫌ったなんて記事も出ていました。それがあったにしても、ホントに? という感じです。
ビルツはどこで使うんですか?
林 間違いなくトップ下じゃないですか。ビルツが入ったことで、僕はドミニク・ソボスライの使い方がどうなるのか気になります。プレシーズンではボランチでも、サイドバックでもプレーしていました。
下田 でも、中盤の真ん中は回せたほうがよくないですか? 昨シーズンは途中から固定っぽくなっちゃって、選手に疲労が見られたところがありました。
林 ビルツも入ったことで、うまくローテーションはすると思います。あとはサイドバックですよね。
下田 だいぶキャラクターが変わりませんか? 特に右サイド。
林 そこが使い方として、どうチームに組み込んでいくのか。右のジェレミー・フリンポンと左のミロシュ・ケルケズは縦の推進力があるタイプ。今まではアンドリュー・ロバートソンが後ろに残って3バック気味になって、右だけ高い位置とかやっていたけど、それはなかなかできにくくなるかもしれません。上下動させるのか、違う作り込みにするのかは、期待して見てみたいですね。
それと、右サイドはトレント・アレクサンダー=アーノルド(レアル・マドリード)がいなくなりましたけど、コナー・ブラッドリーがいます。ブラッドリーは中に入るプレーもできるし、悪くないですよね。
下田 ブラッドリーが育ってきてるから、そこまで気にする必要はないですかね。話していると盤石ですね。
林 盤石ですよ。
下田 それを聞こうと思ってました。足りなくないですか?
林 足りないですよね。フィルジル・ファン・ダイクとイブラヒマ・コナテのコンビですが、ジャレル・クアンサー(レバークーゼン)が移籍してしまったのでちょっと足りない感じです。ジョー・ゴメスは最近ケガが多いですし。
下田 センターバックいなくなった時に、コスタス・ツィミカスと遠藤航でバックアップはOKですかね?
林 もう1枚ぐらい欲しいですよね。長丁場ではちょっと不安があります。でもリバプールは基本的には最強というか、間違いなく優勝候補ですよね。
【効果的な補強でリーグ優勝を狙いたいアーセナル】
林 それでは2チーム目は、昨シーズン2位だったアーセナルです。
下田 ここも補強は気合い入ってないですか? ビクトル・ギェケレシュはいいですよね。
林 大きいと思います。もう間違いない選手なんで。
下田 でも、そうしたらカイ・ハヴァーツはどうするのか?
林 プレシーズンを見ると、まだコンディションが戻っていないですね。
下田 ウイングは今までは、左がガブリエウ・マルティネッリ、右にブカヨ・サカ。片方がケガをしているとちょっとどうかなというのがありましたが、ここも新しく獲ったノニ・マドゥエケがいるとだいぶ変わりますよね?
林 変わります。でも、チャンスメーカーで点を取るタイプではないから、突破した時にギョケレシュがハマればうまくいくのかなと思います。
下田 あと中盤は、アンカーでマルティン・スビメンディを獲ったのは、相当大きいですか?
林 大きいとは思うけど、ラ・リーガとプレミアは違うと思うので。力は間違いなくありますけど、カウンターの時のリスク管理やオープンな展開でのスピード勝負になった時にどうなのかなと不安はあります。なにしろプレミアには、もうえげつないレベルのウイングプレイヤーしかいないですから。
下田 そうですよね。
林 でも、ゲームをコントロールする部分では抜群の選手です。自分たちが持つべきなのか、速く攻めるべきなのか、それが時間帯や点数によって使い分けられる選手で、ピッチにひとりいるとめちゃくちゃ助かる。
中盤はデクラン・ライスとマルティン・ウーデゴールにスビメンディ。しかもミケル・メリーノもいますね。
下田 ここもセンターバックはどうですか?
林 ウィリアン・サリバとガブリエウ・マガリャンイスが鉄板ですね。冨安健洋がいなくなったりで足りない感じはしますけど、やはりセンターバックってなかなか代えづらいところがありますよね。
下田 新加入のクリスティアン・モスケラはどうですか?
林 アスリート能力が高いタイプでポテンシャルがありますね。あとセンターバックはヤクブ・キヴィオルがいますね。
下田 リッカルド・カラフィオーリはセンターでは使わないですか?
林 基本的には左になるのかなと思います。器用だからどこでもできますけど。それに左サイドはマルイズ・ルイス=スケリーですか。右サイドはユリエン・ティンバーとベン・ホワイトですね。
下田 これは4冠狙いますね。
林 でもプレミアを取りにいってほしいですよね。ずっと2位ですから。
【シティの今シーズンにかける思いは強い】
林 次は、マンチェスター・シティです。
下田 ちょっと注目ですね。チーム全体が一回ちょっと落ちたじゃないですか。ケビン・デ・ブライネ(ナポリ)も抜けて、顔だった選手が少し入れ替わったなかで、タイアニ・ラインデルス、ラヤン・シェルキを足してますけど、これでどのぐらい圧倒した時期のシティっぽさが戻るのか。
林 シティはモチベーションの部分だと思うんですよ。結局ずっと勝ち続けてきたのが、昨シーズン無冠だったわけじゃないですか。今シーズンにかける思いは、ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ監督)も含め選手たちもかなり強いんじゃないかなと。
ラインデルスも確かだし、あとはシェルキがどれぐらいハマるか。ベースがしっかりあるなかで、選手たちがある程度休養を得て、新シーズンのモチベーションが足されれば、間違いなく強いチームだと思います。基本的にやはりボールを持てるし、相手を圧倒できるから、そこでしっかりゴールを決めきれるかというところ。それと、昨シーズンもそうでしたが、守備のリスク管理ですよね。攻めている時にどれだけ後ろがカウンターを受けないようにするか。そこだけだと思う。
下田 ロドリの状態はどう思いますか?
林 クラブワールドカップではかなりプレータイムを管理されていましたね。彼がしっかり戻ってくれば盤石だと思いますけど。でも、やはり前十字靭帯のケガからの復帰は簡単ではないので。
下田 ニコ・ゴンサレスを昨季途中で獲りましたが、ロドリとうまく使い回してという感じにはなりますかね?
林 ニコも力のある選手ですし、ラインデルスが1列下がってプレーもできますね。そこをどういうふうにしていくかは楽しみですね。
ウイングは、ジェレミー・ドク、サビーニョ、フィル・フォーデンやオマル・マルムシュもいます。
下田 マルムシュは左右両方使えるのがいいですよね。
林 いいですね。マルムシュは昨シーズンの途中からの加入でしたが、今シーズンは1年間使えるのでどこまで爆発するか。シュート力もあって20点取れる選手だと思うので。
下田 右サイドバックは大丈夫ですか? 昨季途中でカイル・ウォーカー(バーンリー)が抜けました。今までもそんなに層は厚くなかったはずで、そこは長い間サイドバック然としたサイドバックって置き方じゃなかったところもあるので、そんなに問題ないのかもしれない。ただちょっと手薄感が気になります。
林 昨シーズンはマテウス・ヌネスが結構右サイドバック出て頑張りました。あとはリコ・ルイス。でも、ふたりとも守備の人ではないですよね。
下田 ヨーロッパのタイトルも取りにいく時に、あのポジションってトップクラブは対峙する相手に猛者がいるじゃないですか? そこをこれまではウォーカーのおかげで「ありがとう!」というシーンはありましたよね。
マヌエル・アカンジとかでは難しいですか?
林 できると思います。センターバックを4枚並べるでもいいし、やる可能性はありますよね。ナタン・アケ、ルベン・ディアス、ヨシュコ・グバルディオルがいますから。
下田 そうですよね。
林 左にはライアン・アイト=ヌーリもいます。この選手は面白いですね。
下田 プレーが読めないですよね、あの選手。
林 ペップのフットボールにめちゃくちゃ合いそうな感じもするし、独特な動きもできるんで、すごくいいなと思います。
【十二分なスカッドで優勝を狙うべきチェルシー】
林 次はチェルシーです。
下田 まず、クラブワールドカップ優勝おめでとうございます!
でも、また選手を増やしたじゃないですか。そのへんも含めてどうなんですか?
林 スリム化しようとしたんだけど、さらに増えちゃったみたいで。売りたい選手を売れていない。
下田 それでもシャビ・シモンズ(ライプツィヒ)やアレハンドロ・ガルナチョ(マンチェスターユナイテッド)を獲りたいって、獲りすぎですよ。
林 何チーム、作ろうとしてるんですかね(笑)。
下田 でも、徹底してるのは、みんな若いんです。チェルシーがアメリカ人オーナーに変わってからの方針は、若い選手と長期契約を結んでおいて、もしダメでも若いから売り直した時にそんなに値段が下がらないっていう発想。そう考えた時に、このやり方って意外と機能するんだというのがありました。
でも、獲りすぎですよね(笑)。
林 取りすぎですけど、もうスカッド的には優勝を狙わないといけない。
中盤の構成もエンソ・フェルナンデスをトップ下で使うこともできるんです。モイセス・カイセドは1シーズンフルで戦える。また、ロメオ・ラビアもいる。それにクラブワールドカップでやっていましたが、リース・ジェームズをボランチに上げちゃえば、エンソを1列前に上げられる。
下田 ジェームズのボランチはクラブワールドカップ仕様じゃなくて、シーズンも含めてあり得ますか?
林 エンツォ・マレスカ監督はやりますよ。クラブワールドカップでめちゃめちゃハマってたんです。そこで勝負して勝っちゃったみたいな。マレスカは昨シーズン通していろんな経験をしたことによって、すごい監督になりそうな感じが僕はしていますよ。
下田 ジェームズは右からクロスを入れてほしいな(笑)。
林 でも、右サイドはマロ・ギュストもいますからね。
前線は、ジョアン・ペドロがトップもできるし、左でもできる。リアム・デラップもいますから、トップ下もできると思います。
下田 そうするとコール・パーマーは右ですね。
林 後ろにはヨレル・ハトを取りました。左サイドバックでプレーしていますが、センターバックもできるタイプ。左利きのセンターバックになるので、そこがまた、うまく噛み合うといいですね。
チェルシーも今季は強いと。今まで話してきたチーム、全部強いですね。
下田 唯一アキレス腱があるとしたら、クラブワールドカップに優勝したことで、今シーズンどこかで軋(きし)みがこないかと。あの暑いなかでクラブワールドカップをあそこまでやって、新シーズンはすぐ始まっちゃうわけなので。チェルシーちょっと大丈夫かなって思ったりはします。
>>後編「トッテナム、ブライトン...注目クラブと日本人選手たちの見どころ」へつづく