【まさかの先発起用に相手が戸惑い】

 春のセンバツと夏の甲子園とでは戦い方が違う。

 2023年春のセンバツを制した山梨学院(山梨)は、2024年の春にベスト8進出、2025年も1勝を挙げている。しかし、夏の甲子園にこの10年で5度出場しながら、2016年に1勝したのち、4大会で初戦敗退を喫していた。

【夏の甲子園2025】山梨学院は2年生の「二枚看板」で苦手な...の画像はこちら >>

 センバツはコントロールのいいピッチャーがいれば接戦に持ち込めるが、暑さの厳しい夏はそれだけでは戦うことができない。強打者を揃えた打線を抑えるためには"力"が必要だ。選手の起用法、ピッチャーの継投のうまさに定評のある吉田洸二監督であっても、夏の甲子園では苦しい戦いを強いられてきた。

 甲子園常連校である聖光学院(福島)との2回戦の先発マウンドに上がったのは、山梨大会の準決勝、決勝で先発を任された技巧派サウスポー・檜垣瑠輝斗(ひがき・るきと)ではなく、194cm・100kgの巨体から最速152キロのストレートを投げ込む菰田陽生(こもだ・はるき)だった。

 これに戸惑ったのは聖光学院だった。「檜垣くんが先発だと思って対策してきたんですけど、意表を突かれました」と斎藤智也監督は語った。

 緊張感を漂わせながらマウンドに上がった菰田だが、味方のエラーで招いた初回のピンチを落ち着いて抑えた。その後は、7回表に初ヒットを打たれて六番・鈴木来夢のタイムリーヒットで同点に追いつかれて降板するも、それまでノーヒットに抑える好投を見せた。

 1対1で迎えた7回裏に山梨学院が勝ち越し、8回裏に4点を追加した。9回表にエラー絡みで1点を失ったものの、リリーフの檜垣が試合を締めて夏の甲子園で9年ぶりの勝利を手にした。吉田監督は「夏は力で勝負できるピッチャーじゃないと。甲子園で何回も跳ね返されてきたので、今回は菰田が先発で」と、菰田を起用した理由を語った。

【3年生キャッチャーから見たふたりの2年生ピッチャーの印象】

 2年生の菰田、檜垣のふたりをリードするのが、キャッチャーで四番を務める3年生の横山悠だ。U-18日本代表候補でもある。

 菰田の先発を聞かされたのは試合前日の夜だった、と横山は言う

「菰田は、はじめ緊張していたんですけど、それをほぐすような声がけをした結果、よく投げてくれました。公式戦になったらやってくれるというタイプなので、心配はありませんでした」

 最速の152キロには及ばなかったが、力強いボールで強打の聖光学院打線を封じ込めた。

「スタミナ面を考えて少し抑え気味に投げていたのかもしれませんが、それでも抑えられたのは体がデカいからだと思います。少し甘いところにボールが来ても、キャッチャーとしては心配ありません。

 菰田の球種はストレートとスライダーで、ストレートが中心です。ボールに角度があるし、質もいい。甘く入ってもファールになることが多く、一発でとらえられた経験はありません。だから、ストライクゾーンで勝負ができる。コースよりもテンポを大事にしています」

 7回途中までに投じた球数はわずか80球。奪三振は1だったが、被安打2、自責点1の見事な投球だった。

 リリーフとして初めて甲子園のマウンドを踏んだ檜垣は2安打を許したものの、自責点0。落ち着いて勝利を手繰り寄せた。「檜垣のよさは変化球の精度、細かいところに投げられて、変化球で三振を取れるところ」と横山は言う。

 9年ぶりに夏の甲子園で勝利をつかんだ山梨学院は、8月16日の3回戦で岡山学芸館(岡山)と対戦する。タイプの違う2年生投手が実力を発揮できるかどうかは、横山のリードにかかっている。

「それぞれのピッチャーに特長があって、調子のいいボールはその日によって違う。調子のいいボールを早く引き出してリードしたい」

 横山は四番打者としての重責も負う。

「僕は1打席目がよかったらノッていくタイプ。打撃がよければいいリードができる。うちは個人の能力よりは打線のつながりで勝負してきた。大振りするんじゃなくて、つなぐことを意識することが勝利につながるはずです」

 2024年、2025年のセンバツでは巧みな継投策で勝利をつかんだが、今回は左右の二枚看板で勝負する。

 吉田監督は言う。

「看板になっているかどうかはわからないけど(笑)、ふたりで力を合わせて、あとは打線の援護を待つ。

 初戦独特の前半のもどかしさを、終盤に打って振り払うことができた。ひとつ勝てたことで、次の試合で立ち上がりから終盤のような野球ができる確率が上がったのかなと思います。次は気負い過ぎないでほしいですね」

 夏の甲子園の連敗を力で止めた山梨学院の快進撃がここから始まる。

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