学校での部活を取り巻く環境が変化し、部員数減少も課題と言われる現在の日本社会。それでも、さまざま部活動の楽しさや面白さは、今も昔も変わらない。
この連載では、学生時代に部活に打ち込んだトップアスリートや著名人に、部活の思い出、部活を通して得たこと、そして、今に生きていることを聞く──。部活やろうぜ!
連載「部活やろうぜ!」
【バレーボール】木村沙織 インタビュー後編(全3回)
撮影中、木村沙織は自在に表情を変えた。カメラを向けられた緊張による強張りは、彼女にはまったくなかった。
「あまり緊張はしないです」
カメラのファインダーに向かって言う彼女は、満面の笑顔だった。その愛らしさは天性のものだろう。現役時代、圧倒的な人気を誇ったアスリートだったことも頷ける。もっとも、木村を特別な存在にしたのは、彼女が絶対的な勝者だったからだ。
「目の前の敵には負けたくない、勝ちたい」
その衝動は純度が高く、揺るぎない常勝精神になった。事実、高校時代からあらゆるタイトルを獲り、Vプレミアリーグ(現・SVリーグ)でもそれは変わらなかった。そして日本代表としても数々の大会に参加しただけではなく勝ち星を重ね、2012年ロンドン五輪では日本女子バレー28年ぶりのメダル獲得の原動力となった。
そんな彼女の骨格となったバレー少女時代とは?
【"木村沙織"をつくってくれた高校の部活】
ーー現役時代の木村さんは、とにかく勝ち星が似合う選手でした。困難な状況も笑顔で乗り越えられるというか。多くの一流アスリートは、勝負のなかにある理不尽にも強い気がしますが、部活はそのルーツになっているのでしょうか?
木村沙織(以下同) 自分の場合、成徳学園(現・下北沢成徳高校)で早い時からいろんな経験をさせてもらえたと思います。
他の高校の選手のプレースタイルを見ると、「どこそこの高校らしさ」というのがありますが、成徳ではそれがありません。人それぞれのキャラクターでの伸ばし方をしてくれて、私は伸び伸びやらせてもらってよかったと思います。もちろん成徳は「オープンバレー」というプレースタイルはあるのですが。
ーー木村さんはタフな選手でもありました。
成徳は、体力強化によるパワーも特徴的。ウエイトトレーニングやラントレがボール練習より多く、先生は先を見越して指導してくださっていたんだろうなと思うんです。
自分はパワーで勝負する選手ではありませんでしたが、いなすことは反対されませんでしたし、(体力強化で)ケガに苦しむこともありませんでした。長く伸び伸びとバレーができたことに感謝ですね。
【プリクラが大好きな「普通の女子高生」】
ーー成徳は多くのバレーボール選手を輩出し、大山加奈、未希さんの姉妹や荒木絵里香さんとも同じチームで木村さんはプレーしました。同じチームにレベルの高い選手がいると、刺激される、鍛えられる感じですか?
鍛えられるというか......部活のみんなは家族みたいな感じです。(荒木)絵里香さんは高校からでしたが、チームメイトのほとんどは中学の時から高校まで(中高一貫)6年間ずっとバレー部で一緒でした。
成徳は、寮はありませんが試合の少し前になると校内合宿といって学校に泊まっていました。
ーーバレーボール漫画『ハイキュー!!』でも、バレー部の高校生たちが"買い食い"をするシーンは青春の象徴ですが、木村さんも同じチームの仲間たちと肉まんやアイスを食べたりしていたんですか?
していましたね(笑)。成徳は朝練があったので、下北沢駅を降りてからコンビニに寄って......本当は寄っちゃいけないのですが、寒い冬は小学生時代のクラブから一緒のめぐって子とおでんを買って学校に行っていました。
それを食べてから朝練して、昼ごはんのために母親がつくってくれたお弁当を朝練後に食べてしまうので、お昼は食べるものがない(笑)。だから、いつもスティックパンを買って食べて過ごしていました。安いのに8本くらい入っているんですよ! そんな毎日でしたね。
ーー校内合宿もみんなでにぎやかに活動していましたか?
はい! 当時は金曜だけがオフで帰れたのですが、みんなとプリクラを撮ってから家へ帰るのが日課でした。合宿中、夜は学校でお弁当が出て、朝食代は母親からお小遣いをもらっていましたが、ごはんはとにかく安く抑えて、プリクラ代を捻出することばかり考えていました。
当時はプリクラが流行っていて、1回400円でした。だから、みんなで「あそこのスーパー、食パン8枚切りが安かったよ!」と情報交換して倹約してました。おにぎりだと一日で食べ終わってしまうのですが、8枚切りのパンだと節約できて、プリクラ撮れるんです(笑)。
【高校時代の自分に言いたい「肉を食べろ!」】
ーー強豪校の生徒同士、「将来は日本代表で活躍する選手になろうね」とか約束したりしたんですか?
いえ、普通の女子高生でした。バレーを熱く語るとかはあまりなかったですし、「春高バレー、絶対に優勝しようね」とかもなくて。どこにでもいる女子高生でしたし、当時、何の話していたんですかね......(笑)。
バレーをやる時、やっていない時のメリハリがある高校ではありました。先輩、後輩の上下関係も他の高校に比べたらありませんでしたし、敬語じゃないといけないということすらありませんでした。同級生だけでなく、1年生と3年生の仲がよく、休みの日に先輩と遊びに行くこともありました。
私も(大山)未希さんがよく誘ってくれて、一緒にプリクラやマクドナルドに行きました。下北沢だったので渋谷方面派か吉祥寺方面派に分かれて買い物して帰るとか。おしゃれな下北沢の町をみんな練習着にローファーで歩いていましたね(笑)。
ーー最後の質問です。プリクラ代捻出のために食パンをかじっていた女子高生の"沙織ちゃん"とタイムマシンで会うことができたら、木村さんはなんて声をかけますか?
「食パンで済まさず、もう少し栄養とれ」って言います(笑)。現役の後半、29~30歳の時に足をつってしまうことが多かったんです。
ーー"沙織ちゃん"は、なんて返してくると思いますか?
たぶん、無視すると思います(笑)。
終わり
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【profile】
木村沙織 きむら・さおり/1986年生まれ、東京都出身。2003年、アジア選手権で代表デビュー。2005年、東レアローズに入団。2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得。2012年に世界最高峰リーグであるトルコの「ワクフバンク」に移籍し、ヨーロッパチャンピンズリーグ優勝を経験。2016年リオデジャネイロ五輪でキャプテンとしてチームを牽引した。2017年に引退。現在は、子育てとともにメディア出演などマルチに活躍する。夫は元バレーボール選手の日高裕次郎氏。