織田翔希の初球を見た瞬間、脳天が痺れるような電撃が走った。

 右打者の外角低めに突き刺さるストレート。

捕手を務める駒橋優樹(3年)のミットがピクリとも動かず、見る者に爽快感を与える。その重力に逆らうような美しい軌道と、ボールからほとばしる圧力もインパクト十分。たった1球に、この2年生右腕の末恐ろしい潜在能力と魅力が凝縮されていた。

 電光掲示板には、「152キロ」という球速が表示された。甲子園球場のスタンドは「おぉ~」とどよめいた。だが、スピードガンの数値など、織田のストレートの中身の濃さに比べれば、無機質な数字でしかなかった。

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【1点ビハインドの4回から登板】

 8月14日、横浜(神奈川)対綾羽(滋賀)の甲子園2回戦。横浜が0対1とビハインドで迎えた4回裏、マウンドに背番号10をつけた織田が上がった。

 織田は村田浩明監督から「ピンチでいつでもいけるように」と言われ、準備していたという。「チームに流れを持っていきたい」という思いを初球のストレートにダイレクトに込めた。

「本当に、あのボールはかかりがよかったです」

 織田はそう振り返る。普段から「球速は意識しない」と語っているように、球速より球質を重視する投手だ。それだけに、この1球にはよほどの手応えがあったのだろう。

 前回登板だった8日の敦賀気比(福井)戦では、甲子園での初完封勝利を挙げていた。しかし、ストレートに関しては、凄みを感じるような球は少なかった。結果的に無失点に抑えたとはいえ、被安打は7を数えた。奪三振数も3個に留まっている。

 織田自身、この日の投球内容について、「指のかかりが悪かった」「自分の思い描いた軌道で投げられなかった」と振り返っている。ただし、見方を変えれば、指のかかりが悪い状態で実力校を完封してしまうところに、織田の恐ろしさがある。

 しかも、この試合は降雨のため、4回の時点で1時間7分の中断を挟んでいる。マウンドがぬかるむ悪条件のなか、緊張感を保ちづらい中断時間を経ても9イニングを投げ切った。投手としてのたくましさを感じさせた、価値のある勝利だった。

 柔軟性を見せた敦賀気比戦から一転、綾羽戦の織田は「凄み」を見せつけた。

【ストレート中心の配球で無失点】

 5回一死から3者連続三振を奪うなど、5回1/3を投げ、被安打3、奪三振6、与四球1、失点0。捕手の駒橋が「相手打線は織田の真っすぐへの反応が悪かったので」と語ったように、ストレート中心の配球だった。

 8回以降には、織田にある変化が現れた。今夏の織田は、投球フォームを従来のセットポジションからノーワインドアップの始動に変更している。この日も基本的にはノーワインドアップで投げていたのだが、途中からランナーがいなくてもセットポジションで投げるシーンが見られたのだ。

 理由を尋ねると、織田はこう答えた。

「今日はフォームのバランスがよかったので。以前のセットの投げ方でも(バランスよく)投げられるようになると、調子が悪い時に使い分けられるようになるので」

 このしたたかさも、織田の将来性の一端と言っていいだろう。捕手の駒橋は、ノーワインドアップに変えたことで「ボールにバラつきがなくなって、球数を抑えられるようになった」と証言する。織田は着実に、一流投手への階段を上がっている。

 今春のセンバツを含め、今までの甲子園で一番の投球ができたのではないか。そう尋ねると、織田はキリッと引き締まった表情でこう答えた。

「自分の結果がすべてではないので。チームの勝利に貢献できるピッチングができたのは、よかったと思います」

 その顔には、横浜のマウンドを託された男の責任感が滲んでいた。

織田は自分の状態や結果の良し悪しで、野球をやっていない。もはや、そんな次元を卒業しているのだ。

 投手としてのタイプは異なるが、いずれは偉大なOB・松坂大輔(元・レッドソックス)を超える存在になる可能性は十分にある。

 織田翔希はこの夏、どこまで階段を駆け上がるのか。その爽快なストレートを堪能しながら、じっくりと見守りたい。

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