ヤクルトファーム 灼熱の戸田物語(1)

 ヤクルト二軍の戸田球場(埼玉県戸田市)は灼熱の猛暑が続き、8月2日にはグラウンドの気温が42度にまで達したという。過酷な環境のなか、ベテランから中堅、若手、新人、育成、リハビリ組まで、それぞれの立場で一軍を目指し、選手たちは汗を流していた。

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【立場は若い選手と一緒】

 プロ24年目の大ベテラン・石川雅規(45歳)は、戸田の夏について「毎年、暑いっちゃ暑いですね。本当に昼間の一番暑い時間に試合をするので......」と苦笑いした。

 7月29日、「今日の戸田はやばい」というほどの暑さに見舞われるなか、石川は巨人戦のマウンドに立った。

「まぁ体に堪えるというか、本当に暑かったですね。でも、自分のなかでは35度でも38度でも、投げてしまえばもう一緒です(笑)。だからこそ、しっかり寝て栄養を摂るといった体調管理が大事なんです。トレーニングももちろん大事ですが、それ以上に休息をしっかりとることをすごく意識しています」

 石川の朝は早く、自宅から車で40分ほどかけて、7時前には戸田の選手寮に姿を見せる。

「車の中では、野球のことをめちゃくちゃ考えます。自分の年齢や立場を踏まえて、どうすれば一軍に戻れるのか、そして一軍で投げるだけではなく、そこで勝つためには何が必要なのかを考えます。一日、一週間、一カ月単位で気持ちの浮き沈みはありますが、そうした感情と向き合いながら運転することが多いですね」

 話を聞いた時点で、今季の石川は一軍で5試合、二軍で7試合に先発していた。

「戸田には(一軍での)次の登板予定が決まっていて行くわけではありません。ファームで投げながら、チャンスをうかがっている状況です。プロは実力の世界ですから、結果を出せば一軍のチャンスはもっとあるでしょうし、今はその少ないチャンスをいかにものにするかが大事です。

一軍への思いは数値化こそできませんが、確実に強くなりますよね」

 石川のキャリアを考えると、一軍が神宮や東京ドームの試合の時には帯同しながら、二軍戦に投げて次のチャンスを待つことも可能ではないかと聞くと、「そういう考えはないですね」と即答した。

「先ほども言いましたが、僕は次の登板が決まっているわけではありません。そういう状況のなかで一軍にいるのは嫌なので。立場は若い選手と一緒ですし、戸田は一軍に上がるための場所なので、みんな仲間ですけど、やっぱり自分の野球人生ですから。みんなもそうだと思いますけど、競争意識を持ってやっています」

 石川は8月7日、一軍の巨人戦に先発。勝敗はつかなかったが、6回2失点の好投。打者としては24年連続安打を記録した。15日には二軍の楽天戦に先発。予定の2回を無失点に抑え、次回の一軍登板のチャンスをうかがっている。

【成長続ける北海道出身の3年目左腕】

 3年目の坂本拓己(21歳)は、昨年までは中10日以上の間隔を空けての登板だったが、今年は中6日も経験するなど着実に成長を続けている。7月には「二軍にはない緊張感を味わうことができました」と、一軍の練習に参加した日もあった。

「いろんな方に練習の取り組み方などを聞きました。髙津(臣吾)監督からは、ピッチャーに大事なのはコントロールで、コースの四隅に投げることがいかに重要なのかということを教えていただきました」

 この期待の先発左腕の最速は、1年目の148キロから151キロにアップ。

平均球速は140キロから146キロまで上昇した。

「ストレートの質に取り組んできて、7月くらいから球威が上がってきました。変化球も、特にスライダーがよくなってきて、ゾーン内に決まり出して、空振りも取れるようになりました。ここまで先発として中6日で投げてこられた。出力が上がっても、それに耐えられる体ができてきたのかなと」

 その一方で、「今はできたりできなかったりが多いので......」とも話した。

「どの球種でもストライクが取れ、ちゃんと構えたところに投げられるように、そこを詰めていきたいです。今年一軍で投げられなくても、10月のフェニックスリーグ(宮崎)や秋季キャンプで結果を出して、来年の春季キャンプで一軍スタートできたらと思っています」

 北海道の奥尻島で生まれ育った坂本は、プロ1年目の夏、戸田の容赦ない暑さの前に「北海道とは全然違いました」と、熱中症で倒れたこともあった。

「奥尻はいっても30度くらいなので、それよりも5度も6度も暑いとなると......。今はこの環境にもだいぶ慣れてきたなと実感しています(笑)」

【19歳のルーキー・田中陽翔の可能性】

 今年1月の新人合同自主トレ。田中陽翔(19歳)は「体幹を意識して、何事も垂直に」と、厳しいランメニューでも姿勢を崩すことなく走る姿が強く印象に残っている。

 開幕すると打率は1割台から2割台前半がつづき、「守備もまったく自信がないです」と、プロの壁にぶつかっているようだったが、試合を重ねるごとに数字を伸ばしていった。

57試合 打率.249 43安打 2本塁打 9二塁打 4三塁打 22四球 出塁率.340

 特筆すべきは、出塁率の高さだ。

7月8日には、高卒新人では12球団で一番乗りとなる一軍昇格。田中は「貴重な経験ができたとともに、自分に足りないものが見えてきました」と一軍での時間を振り返った。

 プロ初打席の相手はDeNAの剛腕、ローワン・ウィック。初球159キロの真っすぐに「見たことのないボールで手が出ませんでした」と目を丸くし、3球三振に終わった。

「一軍のピッチャーの球を初球から思いきってスイングできなかったことや、そのための準備の仕方など、役割をしっかり考えて行動できなかったと思います。でも、そのあたりは近距離バッティングや(ボールの)速いマシンでの練習を重ねれば、できるようになると思います」

 翌日は中川颯の前に最後は見逃し三振に倒れたが、試合後は落ち込むことなく「昨日より自分のスイングができたし、打てると思ったんですけどね。昨日より今日、今日より明日とやっていきたいです」と、充実した表情を見せた。

 身長183センチ、体重88キロの大型遊撃手は、今は戸田で鍛錬を続けている。

「守備では守備範囲の広さや前への打球への対応、打撃では初球をしっかり捉えることなど、まだまだ足りない部分が多いので、しっかり取り組んでいきたいです。二軍では3割近い打率を残すことが目標で、そこでまた一軍に上がれて、結果を残せたら今年の内容としてはいいと思います」

 8月9日、ファームの西武戦で田中は初回に先頭打者ホームランをライトへ放った。再び一軍昇格を目指して、アピールを続けている。

つづく

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