レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英には、とにかく驚かされる。
ラ・リーガ2025-26シーズン開幕戦のバレンシア戦で、アウェーでの貴重な同点ゴールを決めている。
「久保がラ・レアルを救う!」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の見出しのひとつは、少しも大げさではない。試合は1-1で引き分け、セルヒオ・フランシスコ監督新体制の船出を黒星にしなかった。
振り返ってみれば、好成績を収めた2022-23シーズンと2023-24シーズンも、久保は2シーズン連続開幕戦で得点を決めていた。それだけに、チームにも彼にもいい兆候と言える。「久保がゴールを決めたら、ラ・レアルは負けない」
その神話が続いていることも証明した。
2022年7月の入団以来、久保はラ・レアルに幸運をもたらしている。2022-23シーズンは自身が得点を決めた9試合すべてでチームは勝利。「久保がゴールすれば勝つ」神話が誕生した。2023-24シーズンは6試合7得点で、一度だけ引き分けたが、やはり負けてはいない。
ラ・レアルにとって、久保が欠かせない選手であることがあらためてわかる。
「タケ(久保)と自分はお互いよくわかり合っている。我々がよくやる動きというのがあって、それは十分に理解しているからね。彼はシュートまでいけたし、それがゴールになって、チームの勝ち点につながった」
アシストしたブライス・メンデスがそう語っているように、コンビネーションがはまった時の久保は無敵に近い。ゴールを叩き込む胆力も特筆に値するだろう。ふてぶてしさは諸刃の刃とも言えるが、英雄的選手が持つ種類のものだ。
【チームの現状を承知しているからこそ】
開幕戦の久保について、『アス』は淡々とこう書き綴っている。
「久保はラ・レアルのシーズン初ゴールの記録者になった。決していいプレーをしていたわけではないが、今シーズンは『ゴールとアシストを増やす』と約束し、そのとおりに一発目のチャンスでゴール正面、エリア外から鋭い一撃を突き刺した。守備の場面ではもっとサポートが必要だったが、たとえいい試合ではなくとも、違いを見せられることを示した」
また、スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は久保に対し、端的に「Letal」という表現を使っている。スペイン語で「致命的な」という意味だが、「死を招く」という意味もあって、相手にしたら最悪の存在と言えるだろう。
おそらく久保本人はドローにも満足していないだろう。実際、勝てる可能性は十分にあった。アシストも記録できたはずなのだ。
たとえば前半25分、バックラインからの長いボールに久保はゴールラインで追いつき、スペイン代表左サイドバック、ホセ・ルイス・ガヤのチャージもものともせずキープし、ペナルティエリアを横切るパスをアンデル・バレネチェアにとおしている。バレネチェアはボールをコントロールし、シュートを打ったが、惜しくも左へ外れた。
77分には、ショートコーナーから久保がコースを見つけ、速い弾道のクロスを左足で送っている。交代出場していたオーリ・オスカールソンが頭で合わせようとしたが、毛髪に触れただけでボールはアウトになった。シュート性のクロスで、相手ディフェンスに抑えられてもいたが、決定機だったと言えるだろう(オスカールソンはGKとの1対1も外している)。
今シーズンも、久保自身が得点にアプローチするしかない。かつての僚友、アレクサンダー・セルロート(アトレティコ・マドリード)のようなストライカーは獲得できなかった。本人が一番、現状を承知しているからこそ、同点ゴールのシーンも躊躇なく振り抜いたのだろう。
オフシーズン、久保の周囲は移籍の噂が絶えなかった。今も火種はくすぶり続けている。つい先日も、アトレティコ・マドリードへの移籍の噂がまことしやかに報じられていた。しかしながら、その移籍の構図は「もし成立したら、ウルトラC」と言えるほどのレベルだろう。
アトレティコにとってまずはEU外選手の放出ありきだし、ディエゴ・シメオネ監督本人は南米の選手を優先するはず。さらにラ・レアルは6000万ユーロ(約100億円)の移籍違約金をビタ一文まけるつもりはない。取引先としてもプレミアリーグのクラブのほうが有力なはずだ。
喧噪のなかでも、久保は堂々たる姿で新たなシーズンに踏み出している。