後編:ドジャースが目指す史上初の観客動員400万人
『ONE PIECE(ワンピース)』『鬼滅の刃』、そして『ハローキティ』。
ロサンゼルス・ドジャースが世界的人気を誇る日本生まれの漫画・アニメやキャラクターとのコラボイベントを積極的に実施し、ドジャースタジアムに多くの観客を呼び込んでいる。
その意図と狙いとは何なのか?
前編〉〉〉大谷翔平もルフィに反応 ドジャースが『鬼滅の刃』など日本の人気作品とコラボする理由
【ホームゲーム4試合中1試合以上でボブルヘッド人形を配布】
ドジャースタジアムでのコラボイベントの仕掛け人となっているのがドジャースのチーフ・マーケティング・オフィサー、ロン・ローゼン氏だ。
2012年から現職に就き、ドジャース・ブランドの再活性化を牽引。世界規模でのファン拡大戦略や積極的なデジタル成長戦略を展開している。2013年以降、ドジャースタジアムの年間観客動員数はMLB30球団で首位に君臨し続けており、チームの好成績に加え、ローゼン氏のプロモーション施策もその大きな要因となっている。
ローゼン氏は地元の名門、南カリフォルニア大学(USC)を卒業後、スポーツアリーナ「フォーラム」でキャリアをスタート。NBAロサンゼルス・レイカーズやNHLロサンゼルス・キングスに関わり、スペシャルイベント部門のプロモーション・ディレクターとして1980年から1987年まで7年間勤務した。その後、スポーツマーケティング会社「ファースト・チーム・マーケティング」を設立し、最初のクライアントはNBAの大スター、マジック・ジョンソンだった。
ローゼン氏が仕掛けたイベントのなかで、特に話題を集めたのが、大谷と愛犬デコピンのコラボによるボブルヘッド人形だ。昨年8月28日に配布された際には、スタジアムの外に長蛇の列ができ、その様子を地元テレビ局がヘリコプターで空撮して報道した。入手したファンのなかには、写真を撮ってすぐ転売に出す人も少なくなく、試合翌日には「Shohei Ohtani bobblehead」という検索が転売サイトのeBay(イーベイ)で1時間あたり1750回に達した。さらに、金色のレアバージョンは最高1200ドル(約17万4000円)で取引されている。
ローゼン氏は就任当初から、ボブルヘッドを積極的にマーケティング戦略に取り入れてきた。2012年には、ボブルヘッドのギブアウェイ(無料配布)が初めて二ケタとなる11試合に達し、その後も着実に増加。
スポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』によると、今年MLB全体でボブルヘッドが配布される予定の試合数は計175試合。ホームゲームの25%以上でボブルヘッドを配るドジャースは、まさに"ボブルヘッド天国"と呼ぶにふさわしいチームで、2位のニューヨーク・メッツ(12試合)、3位のヒューストン・アストロズ(9試合)を大きく引き離している。
【ギブアウェイと観客動員の相乗効果】
筆者は「昨年の愛犬デコピンとのコラボは大変な話題になりました。こういったアイデアはどのように決めているのですか」と質問を投げかけると、ローゼン氏はこう語った。
「私たちマーケティング部門がアイデアを考え、大谷選手に提案して了承を得ました。それどころか、本人が非常に乗り気になってくれて、ご存じのとおり、ファーストピッチ(始球式)ではデコピンがマウンドからボールをくわえ、捕手役の大谷選手の下まで駆けつけて、見事なストライクを投げました。大谷選手は『打席に立つよりも緊張した』と話していましたが、すばらしい演出のおかげでファンも大喜び。我々スタッフと大谷選手のボブルヘッドチームが一体となって実現できた成果でした」
年々ドジャースの「ボブルヘッド・デー」が増えている。その理由について、ローゼン氏はこう説明する。
「ファンの皆さんが本当に楽しんでくれているからです。過去に配布回数を増やした時も、反応はとてもポジティブでした。
今年はレプリカのトロフィーや優勝リング、チャンピオンパーカーなども配布してきました。さまざまなアイテムを用意していますが、ファンの反応がいいので、今後も工夫し続けていくつもりです」
実は今季のドジャースは、8月14日までのホーム62試合で309万人を動員しており、球団史上初となるシーズン400万人超えが射程圏内に入っている。達成には残り19試合で91万人を動員する必要があり、1試合あたり平均で約4万8000人が求められる。8月15日の『鬼滅の刃』とのコラボゲームには、5万3199人が来場した。
400万人の大台達成へ着実に歩みを進めている。