ヤクルトファーム 灼熱の戸田物語(3)

 今年のヤクルト二軍・戸田球場では、村上宗隆(25歳)をはじめ、一軍主力選手のケガが相次ぎ、「まるで神宮にいるみたいだ」と錯覚してしまう日もあった。復帰までの進行速度に違いはあっても、選手たちに共通しているのは「一軍に戻って活躍すること」と「野球ができる喜び」という思いだ。

「焦っても(復帰までの)日にちが短くなることはないので、今日1日をしっかり過ごすことを目標に頑張ってやっていました」(村上)

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【野球ができていることに感謝】

 チームの「4番」は、3月下旬に上半身のコンディション不良で一軍を離脱。4月18日の阪神戦で復帰したものの、その試合でケガが再発。約1カ月後に戸田球場でリハビリをスタートさせた。

 村上はリハビリ期間中のことを、「野球ができていることにすごく感謝しています」と振り返った。

「ケガをするとバットを振りたくても振れない日が続くので、そうなると1回スイングできることの楽しさや、毎日練習できることのありがたさを強く感じることがありました。野球ができることが、本当にありがたいなと」

 今から7年前の2018年、村上は二軍で98試合に出場し、打率.288、17本塁打、70打点と、高卒新人とは思えない成績を残した。

「1年目だったので、本当に必死にくらいついてやっていました。プロでさまざまなことを感じるなかで、いろいろなコーチの方と出会い、いい環境で過ごさせてもらえました。当時のコーチの方には、本当に感謝しています」

 その村上の目に、戸田で一軍を目指す若手選手たちの姿はどう映ったのだろう。

「限られた環境のなかで必死に練習していると思いますし、すごく期待できる選手もいたので、なんて言うんですかね、一人ひとりがもっと意識を高く持ってレベルアップしないといけないところもありますし、頑張ってほしいと思っています」

 村上は7月29日のDeNA戦で一軍に復帰。第1打席で東克樹からレフトスタンド中段へ本塁打。8月3日の阪神戦ではホームランを含む4安打の固め打ち。12日のDeNA戦ではサヨナラ2ランをバックスクリーンに叩き込み、17日の広島戦でも一発。

復帰してから7本塁打をマークするなど、特別な存在感を見せつけている。

【替えの効かない選手になりたい】

 長岡秀樹(24歳)は4月26日の中日戦で、右ひざの後十字靭帯を損傷。戸田の室内練習場や球場で費やした時間を、一軍復帰が近づいた頃に「どうにかして自分のプラスにとらえようとした3カ月でしたね」と語った。

「本当に試合に出たい気持ちはありましたが、起きてしまったことは仕方ありません。だから、『つらい思いをしてよかったな』と思えるようにしたい。それだけでしたね」

 プロ1年目、2年目はコロナ禍に見舞われ、「最初は右も左もわからないなか、この暑さで育成練習をやっていたんです」と、戸田球場で毎日のように過酷な練習と向き合った。今回のリハビリでは、自分とどのように向き合ったのか。

「ただやらされていた当時と比べれば、今は自分の時間をある程度とらせてもらえますし、自分で考えられるようになった。自分で課題を決めて、結果も気になりますが、内容とか質とか、こういうスイングができたかどうかといったことを意識しています」

 試合前練習では声出しでチームを活気づけ、バント練習する新人の松本龍之介に「一球で泣くし、一球で喜ぶしね」とアドバイスする姿が印象に残った。

「僕にしかわからないことがあれば伝えていきたいですし、ここにいるメンバーが上で活躍しなければ、ヤクルトは強くなれませんし、勝ち続けることもできないと思うので一緒に頑張りたいですね。そのなかで、自分は将来的に替えの効かない選手になりたいというのが一番ですね」

 長岡は8月1日の阪神戦から戦列復帰。第1打席でレフトへ二塁打を放った。

【一軍復帰に向け試行錯誤の毎日】

 ヤクルトの先発陣は、一見すると豊富に見えるものの実際には苦しく、左の中継ぎ陣では新人の荘司宏太(25歳)が孤軍奮闘している状況だ。

 2021年のドラフト1位左腕・山下輝(26歳)は、1月は戸田でリハビリチームからスタートしたものの、開幕からは先発投手として登板を重ねている。

ここまで14試合で2勝3敗、防御率3.91ではあるが、53イニングを投げて与四球はわずか10個、被本塁打も2と好材料が揃っている。

「去年までは、自分のなかでどう投げていいのかわからない感じでしたが、今年は調子の良し悪しにかかわらず、思い描いたボールをある程度投げられています。今は球速よりも、前に飛ばしてゴロアウトを取ることで球数を少なくすることが一番の目標です。『どうすればファウルが取れる強い球がいくのか』など、毎日試行錯誤しながら探しています」

 山下は1年目にプロ初勝利を挙げ、オリックスとの日本シリーズでも先発を果たした。しかし2年目はケガに泣かされ、それ以降一軍での登板はない。今シーズン、セ・パ交流戦期間中のある試合が中止になれば予備日での先発が予定されていたが、それも叶わなかった。

「残念でしたけど、一軍で投げないといけないですし、投げたいので結果を積み重ねていくしかないと思っています」

【今の状態をキープできればチャンスはある】

 7月13日、戸田のサブグラウンドでは、2年目の石原勇輝(23歳)が同じ年の奥川恭伸とキャッチボールをしていた。「むちゃくちゃサイドスピンがいい」「回転数も多い」など、周りから声が飛ぶ。

 中継ぎ左腕は、2月の一軍キャンプに抜擢されたものの、足のケガで途中離脱。4月17日の二軍でのDeNA戦で復帰登板するも、思うように状態は上がらなかったが、「今は徐々によくなってきています」と話した。

「平均球速も、昨年の140~142キロから144~145キロに上がりました。ただ、完璧に抑えられているわけではないので、今はそこを追い求めているところです。

まずはカウント負けせず、自分に有利なカウントにどう持っていくか。そして、追い込んでからの配球。ここがまだよかったり悪かったりするので、その確率を高めるために取り組んでいます」

 8月2日のオイシックス戦では、チーム事情もありまっさらなマウンドに上がると、3回を無失点に抑えた。

「初めて先発させていただいたのですが、僕自身は中継ぎでも先発でも、やることはどこでも一緒と思っているので、自分の今もっている力を出せればいいと投げました。今の状態をキープしていけば、チャンスはあると思っています。一軍に上がれたとしたら、まわりに流されるというか......。去年はやっぱりオドオドしていた部分があったので、今年は自分に信念を持ち、どっしりというか、覚悟を持っているので、そこを見てもらうことができたらいいなと思っています」

 石原は8月10日、一軍に昇格。阪神戦で中継ぎとして登板。2回を60球1失点(自責0)と苦しい投球だったが、今シーズン初めて一軍のマウンドに立った。

「やっぱり(一軍で通用する)決め球がないと感じたので、そこを一から頑張っていきたいです」と、今はまた戸田で自分の成長と向かい合っている。

つづく

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