ヤクルトファーム 灼熱の戸田物語(4)

 戸田球場はケガをした選手たちがリハビリをスタートさせる場所でもあり、池山隆寛二軍監督は、そうした選手たちに対して、「できるだけ明るく、気を遣わないようにしています」と見守り続けている。

「ケガをして野球ができないつらさは、本人にしかわからないことだけども、自分も現役時代にそのつらさを経験しているのでね。

時間をかけて治していかないといけないんだけど、ひとつケガをしてバランスが崩れてしまうと、次々とケガにつながることもあります。だから、選手たちが焦りがちな部分をしっかりケアしながら見守っています」

【今は野球の楽しさを実感】

 2年目の西舘昂汰(24歳)は、「ほとんど1年ぶりでした」と7月30日にブルペンで捕手を立たせて20球を投げた。

 2023年のドラ1右腕は、昨年、二軍で6試合に登板。150キロを超える力強い真っすぐに期待は膨らんだが、右ヒジのケガで離脱。9月にトミー・ジョン手術を決断。今年は背番号が「14」から「014」となった。

「傾斜は平地で投げるのと違って、やっぱり難しいですね。斜面なので、体が前に流されちゃう感じがしました(笑)。数値だけだったら球速も130キロくらい出ていたので、最初にしてはよかったのですが、バランス的なところはまだまだでした。でも、今までピッチングは練習メニューになかったので、また一歩前進したのかなという気持ちになれました」

 西舘は本当に地道な練習を繰り返していた。ほかの選手とのランメニューのラスト一本をトップで走り抜けると、「基礎体力がついてきたので、自分でも楽しみです」と笑顔を見せた。昨年の新人合同自主トレでは、後半になると決まってバテていた姿からは、大きな成長がうかがえる。

「リハビリを続けるなかで、トレーニングのパフォーマンスは徐々に上がってきています。

ほかの選手の平均値と比べても上位に入っているので、リハビリの成果が出ているのだと思います。これからは技術練習も始まるので、基礎体力をさらに高めながら、それを野球にどう結びつけていくか工夫していきたいです」

 チームメイトからは「ダテさん」と親しみを込めて呼ばれ、今はひとりで練習する時間はなくなった。

「全体練習に入れるのがもう楽しくて(笑)。フィールディング練習とか、野球をしているという感覚に近づくので、今は野球の楽しさというのを実感しています」

 西舘がいま一番大切にしているのは、「焦らないこと」だ。

「調子がいいからといって無理に上げて、投げられなくなるのが一番よくないと思っています。一定の調子を保ちながら、目の前のやれることを継続していけば、実戦復帰も見えてくるはずだという気持ちで取り組んでいます。自分はまだ一軍の雰囲気を味わえていないので、来年のキャンプは沖縄に行けるように、今年の成果を来年につなげたいと思っています」
    

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【くよくよしても仕方ない】

 塩見泰隆(32歳)は昨年5月、プレー中に左膝前十字靭帯と半月板を損傷する大ケガを負った。手術と長いリハビリ期間を乗り越えて、今年3月のオープン戦で復帰を果たすも、再び左膝前十字靭帯を損傷。

 2021、22年のリーグ戦連覇に大きく貢献したリードオフマンが、戸田球場に久しぶりに姿を見せたのは、7月9日のことだった。肌の色について本人は「だいぶ白い(笑)」と苦笑い。その表情は「苦しいことが多いけど、楽しい」と語るように、思うように野球ができなかった日々を物語っていた。

「オープン戦で一軍に上がる時、二軍の池山監督や城石(憲之)コーチらに『お世話になりました。

次にお会いするのはシーズン終了後だと思いますので、ありがとうございました』と挨拶したんです。でも、すぐに戸田に戻ってきてしまって(笑)。ただ、今はこうして笑い話にできるくらい順調に回復しています。くよくよしても仕方ないですし、前向きにやる。これに尽きますね」

 塩見が復帰を目指して取り組むトレーニング風景を見れば、来年への期待は高まる。練習中は張り詰めた緊張感を漂わせ、隙のない姿を見せる一方で、持ち前の天真爛漫さで周囲に笑顔をもたらしている。

「これまではひとりで黙々とやることが多かったんですが、こうして外に出て、いろんな選手やコーチ、スタッフと関わりながら話をすることで、僕自身のモチベーションにもつながっています。人と接しながら野球、というかトレーニングをしていると、『やっぱりチームっていいなあ』と思いますね」

 復帰のプランについては、「10月、11月には......」と、次のように話した。

「まずは復帰とかではなく、バッティングはほぼ100パーセントできます、ダッシュもノックもほぼ100パーセントこなせます、試合での出力はまだちょっと落ちるけど、出られますよ、くらいのイメージです」

 実戦という意味では、10月にはフェニックスリーグが宮崎で開催される。

「そこが一番の目標ですね。チームに迷惑がかからない程度に試合に出させていただけるなら、出たいなという思いがあります。今年中に実戦ができれば、ケガ明けの自分への自信にもなりますし、オフの3カ月にフェニックスで感じたことをトレーニングに生かせるので、かなり大きいんじゃないかと。

出られないとしても、リハビリの方法はたくさんあるので、いずれにせよ来年に向けてやっていくという感じです」

 塩見の真っ白だった肌は、今ではいい色に日焼けしている。連日の強烈な暑さについて尋ねると、「暑いです。暑いでしょ」と笑った。塩見は若手時代の多くを、この戸田で過ごしてきた。

「ひと夏を越して、『ああ、ちょっと慣れたな』と思うじゃないですか。でも新しい夏が来ると、『ええ、去年より暑いじゃないか』って。だから、なかなか慣れないですね。そして冬は寒い。まあ、それが戸田ですから(笑)」

 戸田の空は高く広がり、どこまでも青い。リハビリ期間を終えた、山野太一(26歳)、山本大貴(30歳)、田口麗斗(30歳)、石山泰稚(37歳)は二軍で実戦を重ね、高橋奎二(28歳)は、ブルペンで捕手を座らせてのピッチングで順調な回復をアピール。5年目の並木秀尊(26歳)はチーム練習に合流し、塩見は今日も地道なリハビリメニューで汗を流している。

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