【男子バスケ】複数年契約なのになぜ契約解除? 1年ごとに継続...の画像はこちら >>

中編:NBA/FIBA公認代理人・鴨志田聡インタビュー(全3回)

選手の代理人としてチームと交渉を行ない、契約交渉をまとめる役割を担う代理人(エージェント)。Bリーグは来るシーズンで10年目を迎えるが、それ以前からNBA公認・FIBA(国際バスケットボール連盟)公認のライセンスを持つ代理人として業務にあたってきた鴨志田聡氏の目に、この10年の日本バスケットボール界の変化はどのように映っているのか。

長年携わってきた経験を基に、業界の変化に伴うメリットとデメリット、近年、オフシーズンに問題提起される選手とチーム間の契約のあり方、そしてトップリーグの再編として2026-27からスタートするBプレミアも含めた今後の展望についてうかがった。

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【Bリーグの誕生と成長により選手サラリーが上昇】

 2016年に開幕したBリーグはリーグの理念を全チームに共有しながら、各チームの収益追求は自由競争で促し、発展を遂げてきた。その間、男子日本代表の45年ぶりとなるオリンピック出場(2021年開催の東京大会)、沖縄での2023年ワールドカップ、自力出場を果たしたパリ五輪での奮闘が相乗効果となり、その成長は加速度的に進んでいる。

 そんななか、2009年から代理人として活動する鴨志田氏は、Bリーグ誕生、そして今日の繁栄に伴う「選手・コーチのサラリーの上昇」を肌で感じてきた。

 Bリーグが公表している資料を確認すると、開幕初年度(2016-17シーズン)の全クラブの営業収入は約150億円、その直前のシーズンは前身リーグであるbjリーグとNBLの全クラブ合計のそれは約83億円。その数字からも、選手のサラリーが一気に上がったことが推測できる。

 また、選手のみのサラリー総額は公表されていないが、その目安となるB1のチーム平均人件費(選手、コーチ、現場スタッフのサラリー含む)は初年度の約2億円(10万円以下切り捨て、以下同)から8年目の2023-24シーズンには約7億2600万円に。チーム別で最も高かったのは初年度が千葉ジェッツの約3億6900万円、2シーズン目以降は7年連続でアルバルク東京がトップとなり、2023-24シーズンは約13億5100万円を計上している。

 チームの経営力や資金力により差が生じるのは自由競争ゆえのこと。経営面で全体のボトムアップがなされることで選手のサラリーが上がることは、自然な流れでもあった。

 一方でその金額が上がれば上がるほど、選手とチームの関係性に変化が及ぶのも常だ。そのため、金額の多少より、選手の契約形態や移籍方法において、一般のファン、ブースターから見ても疑問に思う事例も複数生じている。

【契約解除にはさまざまな形がある】

――まず、Bリーグのレギュラーシーズンは10月から翌年の4月下旬~5月上旬で組まれていますが、次シーズンの契約交渉が1月1日から解禁となるのはなぜでしょうか。

鴨志田:Bリーグを含めた日本のバスケットボール界はFIBAのカレンダーに基づいて規則がつくられているのが大きな理由だと思います。

FIBAで何か統一したルールが設けられているわけではありませんが、特に外国籍の選手やコーチは、NBAを除く世界中のチームと同じような時期から交渉を始めていきます。

――一方で選手の契約内容に関する情報は、あまり公開されない印象があるなか、「契約解除」という概念もよく目にします。NBAに親しんでいるファンからすると、いま一つ抽象的な印象を受けますが、FIBAベースのリーグでは一般的なことなのでしょうか。

鴨志田:そうですね。例えば外国籍のヘッドコーチや選手が早い段階で他国のチームと次シーズンの契約について合意しても、あとからいい条件があれば、破棄(契約解除)するケースもあります。

 契約解除についてはその権利を選手側、チーム側のどちらに付するかによって、いろんな形があります。選手側が1カ月ごとに解除する判断をできる契約もありますし、選手のパフォーマンスが悪かった場合はチーム側が1カ月分多く給料を払えばいつでも契約解除できるという条項なんかもあります。

 そうした詳細な条項はほとんど公に説明されないので、ファンからすると「なぜ解除されたのか」と疑問が生じるケースもあると思います。これまで日本人選手は1年間の完全保障が基本であること、その一方で外国籍選手は1~2カ月の単位で契約解除条項が盛り込まれるケースもあり、一概には説明できない部分もあるので、理解しづらいかもしれません。

――このオフには、広島ドラゴンフライズと中村拓人選手のやり取りで、物議を醸しました。複数年契約を結んでいた中村選手が2年目の来季も広島でプレーするとチーム側が発表したのち、中村選手が自身のSNSで移籍についてシーズン中から協議を続けているのにチーム側が契約継続のリリースを出してしまった旨を明かしました。最終的には中村選手が広島との契約をバイアウト(買い取り)して群馬クレイグサンダーズへ移籍。

広島、中村選手双方が合意しての移籍という結論になりましたが、時系列で追っていくと違和感は拭えない部分が残りました。

鴨志田:私自身が当事者ではないので、是々非々については判断しかねますが、基本的に選手は雇われる側なのでどうしても弱い立場にあります。そのうえでもし仮にシーズン中から移籍に関して協議していたのであれば、チーム側から継続について発表された時は相当困ったと思いますし、自身の意図とは異なる方向で話が進まないよう、自分の立場を自ら発信すべきと判断したのだと思います。

 一連の流れで判断すれば、複数年契約期間中の中村選手が何らかの理由で契約をバイアウトして移籍しているわけですから、広島との契約には契約解除条項が含まれていなかったことが推測できます。

 チームの経営方針にもよりますが、複数年契約を結ぶ場合、私なら契約解除条項を含める希望を出すことが多いです。

【複数年契約と情報公開による透明性】

――複数年契約を結んでいるのに、1年ごとに「契約継続」とリリースを出すチームが多いですが、正直、違和感はあります。仮に複数年契約のなかにプレーヤーオプション、チームオプション(選手、チームのいずれかがある時期に契約継続の意思を決めることのできる権利)などが付帯されているのであれば、契約を締結した際に付帯条項も併せて発表すれば、のちのち外から見ていても物議を醸す要素を減らす効果もあると思うのですが。

鴨志田:逆に、複数年契約を結んでいても、そのことを公表していないケースがあります。そして、そのような類の情報を出す、出さないはチーム側の判断で行なっていることで、Bリーグとして決まり事をつくっているわけではありません。おそらく、複数年契約であろうとなかろうと、「A選手が契約しました」という情報を出すことでブースター(ファン)を喜ばせる意図があるのだと思います。 ‎

 複数年契約は最長4年まで可能で、これまではその詳細を明かされないことが多かったのですが、近年は、4年とか2年とか契約年数は公表されるようになってきています。

 おっしゃるようにここまでリーグが成長して、いろんな契約形態があるので、たとえば、4年契約のうち3年目以降はプレーヤーオプションの付帯条項がつくなど、もう少し詳しい内容も公表したほうが、透明性は出てきます。

――とにかくBリーグは移籍が多いです。その理由はどのように考えていますか。試合に出場できるのが5人と他のプロリーグのある団体競技に比べても少ないことが一因にあるとは思いますが。

鴨志田:それゆえ、プレータイムや戦術との相性が移籍の主な理由になると思いますが、1年契約が多いことがベースにあると思います。

 また、選手の成長とチームの成長が一致していない状態が続いてきたこともあります。つまり選手のプレーレベルや意識が高くなっていくなかで、選手の要望に応えられる環境(練習場やバックアップ体制など)整備ができているチームが限られていたということです。一部のエリートチームに全員が行けるわけではないので、自分が選べる最善の選択を繰り返していく、という意味で、多くの移籍が行なわれているという構図です。

 2シーズン後から始まるBプレミアでは、練習場などのインフラも参入条件に盛り込まれているように、選手を取り巻く環境整備が進み、どのチームも複数年契約選手が主流となれば、移籍の数は今より減っていくと思います。

つづく

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