後編:NBA/FIBA公認代理人・鴨志田聡インタビュー(全3回)
Bリーグは2026-27シーズンからB1~B3(1部から3部)の枠組みを外し、トップリーグはBプレミアとして昇降格なしの1リーグ制として再編される。1試合の平均観客数、年間売上高をはじめ、リーグが課した参加条件をクリアした計26チーム(初年度)で、スタートする。
同時に外国籍の登録選手が制限なく出場できるオン・ザ・コート・フリーとなり、戦力均衡化を目的にしたサラリーキャップ(1チームあたりの選手のサラリー総額制限)、そして日本人選手のみを対象にしたドラフト制度の導入も決定している。
Bリーグ開幕から10年間、各チームの成長は基本的に自由競争の下で成長を促されてきたなか、人件費の制限やドラフト制導入などチーム運営においてリーグの規則が適用されたことは、どのような影響を及ぼすのか。ベテラン代理人の鴨志田聡氏に聞いた。
前編〉〉〉Bリーグベテラン代理人が語る業務内容と報酬、富樫勇樹との出会い
中編〉〉〉複数年契約なのになぜ契約解除? ベテラン代理人が語るBリーグの契約Q&A
【サラリーキャップの影響】
――サラリーキャップ(1チームあたりの選手サラリー基準)導入については、どう思いますか? Bプレミア初年度のサラリーキャップの設定額は「フロア(最低額)が5億円、キャップ(上限)が8億円(税込)」に設定されました。キャップについては「低すぎないか?」という意見も耳にします。
鴨志田:フロア(下限)を5億円以上に設定したのは、非常にいいことだと思います。現状、Bプレミアに参加するチームでもフロアに達していないチームがあるので、経営面で成長を促すことは選手のサラリーに反映されることにつながるからです。
ただ、キャップ(上限)の8億円については文字どおり選手だけのサラリーに絞っても5~6チームがすでに超えていると推測できるので、残念に思います(最新資料の2023-24シーズンではコーチ、スタッフ、選手を含めた「チーム人件費」でも11チームが8億円を超えている)。
――外国籍選手3名、アジア特別枠または帰化選手1名という契約および登録人数は変わりませんが、同時に試合に出場できる外国籍選手の制限(最大2名)がなくなり、いわゆるオン・ザ・コート・フリーとなります。その点も含めて、サラリーキャップが日本人選手に与える影響も小さくありません。
鴨志田:サラリーキャップが設定されるなかでは、日本代表のトップクラスやお客さんを呼べるキャラクターを持つ選手を除き、外国籍選手からいい契約が提示されていく流れになると思います。上限が8億円となると、多くの日本人選手にとっては厳しい状況になる可能性はあります。
――サラリーキャップやドラフト制が戦力均衡を図る目的であることは理解できますが、球団売上の面でトップクラスを走るチームの人件費に、現状の支払額よりもかなり低い基準で制限をかけることは、選手、特に日本人にとっては不利益になる部分です。
鴨志田:自由競争のなかで売上を上げ、それに比例する形でチームが選手のサラリーに投資してきたなか、マックスで14億円近く払っているチームがあるわけですからフロアと同様にキャップもそれより上のレベルに設定してもいいと思います。特にここ2~3年の成長ぶりは著しいものがあるわけですから、やはりキャップの8億円は低いと思います。
【大学か、Bリーグかの難しい選択】
――サラリーキャップ、外国籍選手の出場制限撤廃のなかでの日本人選手のみ対象のドラフト制度という、リーグの規則内でのチーム編成が迫られます。現段階でそれらを導入する是々非々は置いておいても、そのふたつの制度があるのにトレード制度が設けられていない点は、違和感が残ります。
鴨志田:おそらく、サラリーキャップ制度の初期段階では、トレードした選手のサラリー換算までするシステムを作るのが難しいのかもしれません。ただドラフトを導入するなら、トレードや契約についての規則もリーグで導入すべきだと思います。
――制度の過渡期ということもあり、ドラフト対象選手になる前に大学を辞めて自分が望むチームに入団する事例が続いています。それに対していろんな意見が出ていますが、その傾向をどのように見ていますか。
鴨志田:少し前までは、強豪大学はプロチームと同等、もしくはそれ以上の環境を備えていましたが、今は一気に差がついてしまった印象です。B1、B2に関係なく積極的に投資しているBリーグのチームは専用の練習環境があり、コーチもトレーナーも、それこそチームの先輩も日本のトッププロばかりで、外国籍の選手もいます。対戦相手のレベルも違います。成長する環境がそこにあるのです。
Bリーグか大学か、自分にとってどちらが1年間で成長できるのかを判断したうえで、Bリーグ入りを選んでいるのではないかと、個人的には感じています。
スカウトに関しては、声をかける年齢、時期がどんどん早くなっていることも間接的に影響しているのではないでしょうか。例えば、トップクラスの高校生なら3年生になった早い段階、場合によっては高校2年や1年の段階で強豪大学から声をかけられることも予想されます。
トップクラスの高校生なら年明けから大学入学までの3カ月、特別指定選手(22歳以下の現役高校生・大学生の日本人選手がBリーグの試合に出場できる制度)としてプロを体感できる機会があるわけですが、もし身を置いたプロチームのほうが自分にとっていい環境と感じても、大学入学が決まっているとなると、難しい決断を迫られることになります。
――もしくは大学に入ってみたものの、やはり高いレベルでプレーしたほうが自分のためになると感じて、近年は大学を中退してプロ入りする選手も増えています。
鴨志田:私自身はそれぞれの事例についての背景を知り得ないので、何とも言えません。ただ、Bリーグと大学側が何か取り決めを交わしているわけではない以上、感情論だけで良し悪しを決めるのも違う気もします。プロ入りするにしろ、大学でプレーするにしろ、選手本人が成長できる環境を選び決断している、という捉え方をしています。
――今後、代理人の立場から見て、Bリーグはどのような方向に向かっていくと思いますか。
鴨志田:新リーグのスタートに伴い、昇降格制度の廃止、サラリーキャップ制度の導入、そしてドラフト制度など、さまざまな新しい要素が入ってきます。それによって良し悪しが出てくると思っておりますが、変化をしていくなかでも「日本人選手の成長」が加速されるようなリーグになってもらいたいと願っています。