現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 2025-26シーズンのラ・リーガが開幕。スペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、新シーズンのチーム状態および久保建英やメンバーの去就について言及してもらった。

【新シーズンの陣容】

 久保建英とレアル・ソシエダは、新たな挑戦と共に新シーズンをスタートさせた。コーチングスタッフ、スポーツディレクターなど、チーム編成を刷新し、セルヒオ・フランシスコ新監督の下、これまで大黒柱となっていた選手たちとカンテラーノを信じ、欧州カップ戦復帰を目指している。

久保建英はラ・リーガ新シーズンでスター選手としての役割を果た...の画像はこちら >>
 ロベルト・オラベ(前スポーツディレクター)、イマノル・アルグアシル(前監督)、マルティン・スビメンディ(アーセナル)がいない最初のシーズンへの不安はない。今までに築き上げたものや獲得した選手たちに信頼を寄せているため、選手の入れ替わりや補強投資の少なさはあるが、競争できるための要素は揃っていると考える。

 新監督はチームに対し、より縦に行くアプローチを加え、シーズンを通じてカメレオンのように変化し、予測不能なプレーを展開したいと考え、今夏のプレシーズンで3つのシステムを試してきた。

 メインは依然として4-3-3であり、バレンシアとのラ・リーガ開幕戦もこのシステムを採用した。これ以外にも、10番(トップ下)の役割を重視してボランチがそれを保護する4-2-3-1や、中盤ダイヤモンド型の4-4-2も選択肢として用意されている。しかし、これらのシステムはまだ調整が必要で、今のところサブオプションだ。

 現時点では決まったスタメンの11人は存在しない。バレンシア戦ではプレシーズン最後のテストマッチとなったボーンマス戦で試したスタメンとは異なり、アイエン・ムニョス、ドゥイェ・チャレタ=ツァル、ベニャト・トゥリエンテス、パブロ・マリン、アンデル・バレネチェアがサプライズでスタメン入りし、ホン・アランブル、イゴール・スベルディア、ブライス・メンデス、久保建英、ミケル・オヤルサバルといったレギュラー陣と共闘した。

 さらに、ルカ・スチッチ、アルセン・ザハリャン、ゴンサロ・ゲデス、オーリ・オスカールソン、ジョン・マルティン、セルヒオ・ゴメス、開幕戦を足首のケガで欠場したジョン・ゴロチャテギといった、ポジション争いに加わる重要な役割を担う選手たちも控えている。

 スビメンディの代役の座はトゥリエンテスとウルコ・ゴンサレス・デ・サラテも狙っているが、現時点でゴロチャテギが有力だ。昨季、ミランデス(2部)への期限付き移籍ですばらしいシーズンを送り、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)でのプレシーズンでハイレベルなプレーを披露したことで一歩リードしている。

しかし、クラブはさらなる補強を考え、アンカーとしてもプレーできるゲームメーカーを探している。

【久保はトップ下やセカンドトップの選択肢も】

 ゲデスは今夏、ラ・レアルが獲得した注目選手だ。バレンシアで華々しい活躍を見せたウインガーはイングランドとポルトガルで数年間低迷し、今季ラ・レアルでの復活を目指している。右利きで、電光石火の動きや強力なロングシュート、スペースを生かす能力を備えている。

 新監督のセルヒオ・フランシスコは現時点で彼を右ウイングに配置している。キャリアであまりプレーしたことがない場所だが、バレンシア戦ですでに同ポジションで途中出場しており、シェラルド・ベッカーの代役として今後、久保の競争相手になり得るだろう。

 ゲデスはベンチを温めるためではなく、レギュラーになるためにやってきた。理想的なポジションは左サイドだが、センターフォワード、セカンドトップ、トップ下でのプレー経験もある。さらに、バレネチェア、オヤルサバル、オスカールソン、そして攻撃的なMFの選手たちも試合に出るための能力を持ち合わせているため、前線のポジション争いは激化する。

 久保はラ・レアルのスター選手だが、ヨーロッパのカップ戦出場がない今季は試合数が少ないため、その地位を維持するためには、コンスタントにその実力を証明し続けなければならない。

 久保を中でプレーさせる選択肢もあるが、オヤルサバルが時折そのポジションで起用されていることや、ブライス・メンデス、スチッチ、ザハリャン、ミケル・ゴティなどがいることを考えると難しいだろう。一方、チームが中盤ダイヤモンド型の4-4-2を採用した場合、久保がトップ下やセカンドトップとして起用される選択肢があるかもしれない。

【チームの強化を会長に要求】

 今夏はスビメンディ以外にも何人かが退団すると思われていたが、実際は比較的落ち着いたものとなった。現時点でアレックス・レミロ、ブライス・メンデス、久保に加え、クラブの下部組織出身のオヤルサバル、バレネチェア、スベルディアといった主力選手たちは残留している。

 久保には6000万ユーロ(約102億円)の契約解除金が設定されており、ラ・レアルが久保を他のクラブに売却した場合、レアル・マドリードはそのキャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差による収益)の50%を得る権利を保有している。ラ・レアルとしては契約解除金を満額支払ってもらわなければ大きな利益を得られないため、どのクラブとも交渉するつもりはない。複数のクラブから関心は持たれているものの、具体的な話は何もない状況だ。

 さらに久保が最近、代理人事務所を変更したことで移籍の憶測が飛んだ。明確な理由は公式発表されていないものの、ラ・レアルを去る意図があったからの変更ではなく、彼の父親と前の代理人事務所の間で些細な問題があったためと報じられている。

 今年の5月と7月の久保のコメントは明確な残留の意思が感じられるものだった。イマノルがまだ在籍していた5月、彼は次のように述べている。

「今のところ契約が残っている。僕の考えはラ・レアルでプレーを続け、ラ・レアルがよりよくなることだ。でも監督と同じように、将来は何が起こるかわからない。今は契約があり、僕はラ・レアルでプレーを続けている」

 そして7月にチームがプレシーズンで日本ツアーを行なった際には、残留することを前提に公然とチームの強化を会長に要求した。

「今のところ誰も来ていないので、誰が加入するのかを知りたい。

僕は前に、今季は変化のある年になるだろう、そしていい変化であればそれはいいことだと発言した。新監督が就任し、意欲溢れる若い選手たちがいるが、経験豊富な選手やチームに新しい風を吹き込む選手も必要だ。いい選手でチームにプラスになるなら、スビエタ出身(レアル・ソシエダの下部組織)でも、外から来た選手でも構わない。僕たちには重要な試合でチームを勝利に導く、ダビド・シルバのような人材を必要としている」

「(移籍の)噂については知っているが、何も聞いていない。代理人を変えたことは事実だし、嘘をつくつもりはないが、今のところここにいる。僕は常々、移籍するなら堂々と去るべきだと話してきた。僕がここに来た時、ダビド・シルバ、ミケル・メリーノ、スビメンディ、ブライス・メンデス、アレクサンデル・イサクなどがいたので、それほど大きな責任を負っていなかった。僕は今、より大きな責任を負う覚悟がある。会長によると、クラブは毎年リーグ優勝を目指しているとのことだが、そのためには何か特別なものが必要だと思う。上層部がその点に取り組んでいることを願っている。まだ彼らとは話していない」

 その後、ゲデスとチャレタ=ツァルが加入した。ラ・レアルはさらに、監督が唯一補強を求めているポジションであるMFをあとひとり獲得するつもりだ。

これまでアントニオ・ブランコ(アラベス)や、高額な移籍金により除外されたエセキエル・フェルナンデス(アル・カーディシーヤ)の名前が挙がり、今はジャンヘル・エレーラ(ジローナ)が話題になっているが不透明な状況にある。

 現時点では戦力外の選手を放出できていないため、メンバーは明らかにオーバーブッキング状態だ。ウマル・サディク、ハビ・ロペス、ベッカー、アルバロ・オドリオソラはクラブの明確な意思表示により、異例のことだが背番号を与えられていない。間違いなく去ることになるだろう。

 また、中盤の補強が実現した場合、久保の親友であるトゥリエンテスや、デ・サラテのような若手MFが出場時間を得るために移籍する可能性も否めない。今季は試合数が少ないことから、可能性は低いもののセンターバックのジョン・パチェコやセンターフォワードのジョン・カリカブルも同様の状況にある。

【スター選手としての役割】

 久保はバレンシアとの今季開幕戦で1-1とする同点弾を記録し、引き分けの立役者となり、幸先のいいスタートを切った。ラ・レアルは堅固で粘り強い相手に苦戦し、レミロのふたつのミスとDFの遅れを突かれ、ディエゴ・ロペスに先制点を許すも、久保がすぐさま同点にした。

 久保はペナルティーエリア手前でブライス・メンデスからボールを受けると、強烈なシュートで今季の初得点を挙げた。これによりラ・レアル加入以降、リーグ戦102試合に出場し、どの選手よりも多い30得点(22得点8アシスト)を生み出している。

 ラ・レアル4季目を迎えた久保が、開幕戦でゴールを決めたのはこれで3度目だ。彼は常に開幕戦を良好な状態で迎えている。

しかし、この日は久保にとって最高のゲームとはならなかった。主役になろうとボールを要求し、何度も仕掛けたが、ほとんどうまくいかず、判断ミスも多かった。

 それでもスター選手としての役割を果たし、決定力を発揮した。久保の改善すべき点は得点面やアシスト面をもっと向上させ、すばらしい試合をしていない時であっても決定的な存在になること。彼は今回、チームの勝ち点獲得に貢献してそれを成し遂げた。

髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)

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