今季10試合目の先発登板となった8月7日の阪神戦でプロ初勝利を挙げた、中日のドラフト1位ルーキー・金丸夢斗。同じくルーキーのドラフト4位捕手、石伊雄太も出場試合が増えている。
【奮闘するルーキーの評価は?】
――プロ初勝利を挙げたドラ1位ルーキーの金丸投手、ここまでのピッチングをどう見ていますか?
今中慎二(以下:今中) 勝ち星はついてきていませんが、ピッチングの内容は予想以上にいいんじゃないかと思います。落ち着いて投げていますよね。失点するにしても1試合のなかで1イニングくらいで、ほかのイニングはだいたいゼロに抑えています。例えば、初回に4失点しても以降は全部ゼロに抑えて踏ん張れるのですが、それは経験のあるピッチャーでも難しいことです。
それと、ストレートがいいですね。変化球の使い方はまだまだかなと思いますが、これから試合に慣れていくうちに、どこかのタイミングでコツをつかんでいくでしょうし、まずは経験を積むこと。「このボールを投げておけば大丈夫」といった決め手となるような変化球は、シーズンオフの期間に身につけるんじゃないですかね。
――関西大学時代に故障した腰の状態を心配されていましたが、ピッチングを見ていて不安はないですか?
今中 見ている限り、腰は大丈夫そうです。球数もだいぶ投げられるようになりましたし、中6日での登板でも心配なさそうですね。先発ローテーションで投げている経験を、来年以降にもつなげていってほしいです。
――ルーキーでいうと、ドラフト4位の捕手・石伊雄太選手が捕手としてチーム最多の58試合に出場。
今中 頑張っていると思います。盗塁阻止率はリーグ2位の.405ですし、いい送球をしますよね。リード面に関してはまだまだこれからでしょう。結果が出る時、出ない時がありますが、それは経験値。特に、リリーフのピッチャーをリードする時の経験が大事かなと。
先発ピッチャーは長いイニングを投げるので、いろいろなボールを何球か受けているうちにいいボールとよくないボールを選別していけばいいのですが、リリーフのボールは一瞬で判断しなければいけません。先発ピッチャーはよくないボールも投げてイニングを重ねていかなければいけませんが、1イニングしか投げないリリーフにはよくないボールを要求してもダメ。そういう時のリードも経験を積んで覚えていくものだと思います。
あと、結局投げるのはピッチャーなんですよね。真ん中に投げたボールをいかに打ち損じさせるかが一番大事なので。
――打撃面はいかがですか? 主な成績はここまで、打率.255、2本塁打となっています。
今中 ある程度試合慣れしてきて、それに伴ってバッティングもよくなったと思うんです。結局は、一軍のピッチャーと対戦することが大事なんですよ。ファームの成績がよくても、それが一軍の成績に直結するとは限らないので。試合に出続けて一軍のピッチャーのレベルを経験できていることが大きいです。
【エースの髙橋は「もっといいパフォーマンスを発揮できる」】
――ルーキーが奮闘している一方で、5勝9敗と負けが先行しているエースの髙橋宏斗投手の状態はいかがですか?
今中 最近は抑えていますが、シーズン全体で見ればよくないと思います。本来の力を考えれば物足りない印象です。真っすぐがよくないんですよ。本人もそれなりに考えてやっているんでしょうけどね。
試合を壊さない部分はいいのですが、彼の場合はもっといいパフォーマンスを発揮できるはず。勝ち負けは打線との兼ね合いもありますけど、ボールの質という点では、まだまだ高める余地はありますよ。それができて、仮にクライマックスシリーズに出られるとなったら、短期決戦で彼のようなピッチャーは脅威になるはずです。
――ここ数試合は2試合で完封するなど抜群の安定感を見せています。
今中 (完封した)8月2日の広島戦は、あまり力感がなかったのがよかったですね。ただ、悪いなりにずっとローテーションを守っていますし、疲労なども当然あるでしょう。メンタル面では、結果が出れば乗っていけますが、悪いと一気に疲れが出ます。
あと、防御率は2点台(2.70)ですが、最近は2点台がよしとされるのかどうか。両リーグで1点台のピッチャーが増えていますからね。なので、防御率うんぬんよりも、勝てるピッチングができるかどうかじゃないですか。自分の勝敗よりも、チームに勝利をもたらせるかどうかが求められていると思います。
――シーズン終盤になると、よりチームの勝敗の重みが増してきますね。
今中 独走している阪神のようなチームは個人成績を考慮するかもしれませんが、中日をはじめ、巨人、DeNA、広島もCS進出争いの真っただ中ですからね。「先発ピッチャーに勝ちをつけてあげよう」といったことは、6月まで。今の時期はやっぱりチームのために勝てるピッチングができるかどうかですよ。そうでなければ、なかなかチームは上がっていきません。
――チームが勝てるピッチングとは、どのようなピッチングでしょうか?
今中 この時期は疲れが溜まっていますし、どのピッチャーもベストな状態でマウンドには上がれません。それでも、悪いなりに先制点は与えないとか、「ここで踏ん張れるか」という試合のポイントとなる場面で抑えられるかどうか。そこで失点すると、チームは勝てません。
――味方が点を取ってくれた直後のイニングで失点しない、といったこともそうでしょうか?
今中 そうです。それをやっていけば勝率は上がりますよ。逆に、点を取ってもすぐに取られたら、相手に「まだいける」と思わせてしまいます。あと、味方がチャンスを潰した後に我慢できるかどうか。失点すると相手に流れがいってしまいますし、要所要所で踏ん張れるかどうかが、チームを勝たせるピッチングだと思います。それが何回に訪れるかはわかりません。初回でもそういうことはあるので。
そういった点も含め、髙橋は求められているものが多いピッチャーです。今年だけではなく先のことも考えると、一本立ちしないといけません。
――先ほど、金丸投手が失点した後に引きずることなくゼロで抑える、と評価されていましたが、それも勝つために大切な要素でしょうか。
今中 そうですね。ルーキーでできるのはすごいです。ただ、本人が意識しているのかどうかはわかりません。たまたま、という可能性もありますが、これからいろいろな試合を経験するなかで、意識し続けていけるといいですね。
【プロフィール】
◆今中慎二(いまなか・しんじ)
1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多勝賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。