セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(16)
いよいよヨーロッパのサッカーシーズンが開幕。来年夏に北中米ワールドカップを控えた重要な1年、日本代表の悲願ともいえる「ベスト8」達成のため、各国でプレーする日本人選手に期待したいのは、さらなる「個」のレベルアップだ。
【この1年間でどれだけ成長できるか】
サッカー日本代表の森保一監督は、来年の北中米ワールドカップでの目標に「優勝」を掲げている。個人的にはちょっと無理があると思うし、いままで一度もたどり着けていないベスト8が現実的な目標になるのだろうけど、いずれにしても、世界の強豪に勝たないと達成するのが難しいことには変わりない。そのためにも、この1年で個々の選手がどれだけ成長できるかだね。
ヨーロッパ各国のリーグが続々と開幕するなか、日本人選手を見ると、久保建英(レアル・ソシエダ)がいきなり開幕戦でゴールを決めて幸先のいいスタートを切った。フランクフルトに移籍した堂安律もデビュー戦となったカップ戦で2ゴール。相手が5部リーグのチームとはいえ、いいイメージを持ってリーグ戦に臨めるんじゃないかな。
このふたりに加えて、三笘薫(ブライトン)と鎌田大地(クリスタル・パレス)の4人がいまの日本代表の攻撃の中心。誰が見てもそうだよね。サッカー人気を盛り上げる意味でも、彼らには頑張ってもらわないと困る。
それぞれがシーズンを通して活躍するのはもちろん、ワールドカップ本番を見据え、チャンピオンズリーグで上位に進むような格上のチーム相手にどんなプレーを見せられるか。ワールドカップ前に、早くも来季からのビッグクラブ移籍を決めてしまうくらいのアピールを期待したい。
彼らのほかにも上田綺世(フェイエノールト)が開幕から2戦連続でゴール。
もっとも、今後が心配な選手もいる。中村敬斗(スタッド・ランス)と伊東純也(ゲンク)のふたりだ。
昨季ともに所属していたスタッド・ランスが2部に降格。中村は移籍したいのだろうけど、交渉がうまくいっていないのか、開幕後のいまもチームに合流していない。コンディションを考えると、日本代表の9月の北米遠征(メキシコ戦、アメリカ戦)への招集は難しい。7月のE-1選手権で存在感を見せた相馬勇紀(FC町田ゼルビア)が代わりに呼ばれるだろう。
伊東は無事に"脱出"できたものの、フランスよりもレベルの落ちるベルギーでどうなるか。彼ももう32歳。一時期は日本代表のエース的な存在だったけど、今は森保監督も先発で起用しなくなった。今季は踏ん張りどころだ。
確かに日本代表の右サイドには堂安、左サイドには三笘がいるけど、同じく右に伊東、左に中村がいることで森保監督の選択肢が増え、ワールドカップ最終予選でもうまく回っていた。それが崩れてしまうと痛い。
同様に、守備的なポジションを見ても、選手によって明暗が分かれている。
オランダの名門アヤックスに移籍した板倉滉は開幕戦に先発出場。いわゆる5大リーグではないし、近年のアヤックスはチャンピオンズリーグで上位進出を果たせていないけど、コンスタントに試合に出場できるなら悪い居場所ではないね。ベルギーからドイツにステップアップした町田浩樹(ホッフェンハイム)もカップ戦で先発フル出場デビューした。
一方で、前回のカタールワールドカップで不動のレギュラーだった冨安健洋はアーセナルを退団し、いまだチームが決まらないし、故障の状態もよくわからない。バイエルン・ミュンヘンの伊藤洋輝もずっとケガをしている印象だ。
僕は、日本の守備は強豪相手でもある程度の計算が立つと考えているんだけど、このふたりを欠くとなると選手層に不安がある。シーズン中に本来のプレーをできるまでに戻してほしいというのが森保監督の本音だろう。
【若手欧州組の突き上げが物足りない】
選手層という意味では、これまでの代表の主力の座を脅かすような新戦力が出現するかどうかも注目だ。
いまや数えきれないほど多くの日本人選手がヨーロッパのクラブに所属していて、この夏も多くの選手が海を渡った。
はっきり言って、チームやリーグを選ばなければ、いまは誰でもヨーロッパに行ける時代。移籍先であまり試合に出られなかったり、数字を残せていなかったりする"名ばかり欧州組"も多い。チャンスをもらって挑戦するのはよいけど、大事なのはそこからステップアップできるかどうか。実際、いまの日本代表の主力はそうしたキャリアを歩んできた選手ばかりだ。
その意味で、パリ五輪世代をはじめとする若手欧州組の突き上げは物足りなく感じるね。むしろ、ヨーロッパに渡ったものの、チーム(シント=トロイデン)と合わないと見るや半年で見切りをつけ、この夏、Jリーグに戻って早速ゴールを量産している小森飛絢(浦和レッズ)みたいな選手のほうが面白いよ。
いずれにしても、ワールドカップ前の大事なシーズン、選手たちには明るいニュースをたくさん届けてほしい。
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