石毛宏典が語る期待の野手とCS争い 前編
109試合を消化した時点で49勝58敗、パ・リーグ5位の西武。期待されていた若手野手たちがようやく頭角を現わし、昨年の歴史的な低迷で最下位になったチームが活性化している。
クライマックスシリーズ進出圏内の3位のオリックスと6ゲーム差だが、チームの現状について、1980年代中盤~1990年代中盤の西武黄金時代に、長らくチームリーダーとして常勝軍団を牽引した石毛宏典氏に聞いた。
【西川愛也の打撃で気になる「右腕の緩み」】
――今季に飛躍した選手のひとり、西川愛也選手は98試合に出場して打率.266、7本塁打、26打点、20盗塁。リーグ3位の106安打(2025年8月21日時点/以下同)。現在は離脱中ですが、ここまでをどう見ていますか?
石毛宏典(以下:石毛) (8月2日のロッテ戦では)6打数6安打を記録しましたが、技術がしっかりしていなければ6安打も打てません。1点気になるのが、構えている時、バットを振り始める時に右腕が緩んでいることです。
例えば、同じ左バッターの近本光司(阪神)は、右足を上げてグリップを後ろに引いた時に右腕が伸びてピーンと張るので、バットのヘッドの可動域が広くなって強い打球が打てます。西川の場合は右腕が緩んだままバットを振り始めるので、ヘッドの可動域が狭い。つまり、ヘッドが走らず、ボールに力があまり伝わらないんです。長打が出るとしても、引っ張った時がほとんどじゃないですかね? 逆方向(レフト方向)への長打は少ないと思いますよ。
――ヘッドの可動域を広げれば、逆方向の長打が増える?
石毛 体格もいいし力もありそうなので、右腕を伸ばしてヘッドを走らせれば、もう少しホームランも増えるんじゃないですかね。遠くに飛ばせるバッターは、前の腕(左バッターの場合は右腕)が伸びているのが特徴なんです。最も伸びていたのは王貞治さん、大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)もそうだと思います。
佐藤輝明(阪神)も、今年は右腕がだいぶ張るようになりました。
【今後に期待の選手たちの課題】
――75試合に出場している、ドラフト2位ルーキーの渡部聖弥選手のバッティングはいかがですか?
石毛 肩、腰、膝、足首など体全体を水平に回すことができるのが、一番いいところかなと。バットを水平に近い軌道で振れますし、ボールを点ではなく線でとらえることができます。ミートする確率が上がるんですよね。体の使い方やスイングの軌道が牧秀悟(DeNA)に似ているかもしれません。今はプロのピッチャーの壁を感じているようですが、ここを乗り越えればいいバッターになっていけると思います。
――ここまで107試合に出場と今季に起用が増えた、プロ5年目の長谷川信哉選手はどう見ていますか?
石毛 バッティングに関して、軸足となる右膝を曲げすぎているのが気になります。タメを作ろうとしてそうしているのかもしれませんが、曲げすぎると重心移動がスムーズにできません。その場で回る意識が強いと、体の開きが早くなります。軸足は"力をためる足"ではなく、"前足(右打者の長谷川の場合は左足)に力を伝える足"なんです。
長谷川の場合も、やはり体の開きが少し早いです。開くのが早いと、ボールを打つインパクトの瞬間に力が逃げてしまって強い打球が打てませんし、変化球に弱くなります。
【「使いきる価値がある選手」とは?】
――ここまでに挙げた選手以外で、注目している若手野手はいますか?
石毛 2年目の村田怜音です。彼がいた皇学館大学の森本進監督は、私が駒澤大学3年の時に1年だったこともあり、よく知っています。そういうつながりもあるので、村田のことは以前から注目していました。
今年は一軍でホームランを打ちましたが、やはりパワーが魅力の選手です。打順は7番や8番でいいので、故障がない限りは「使いきる価値のある選手」なんじゃないかなと。まずはプロのスピードや変化球に慣れることが大事で、そこからどう変わっていくかですね。
万波中正(日本ハム)も、高校時代からバックスクリーンにぶち込んだりしていましたが、そういうバッティングを見るとやっぱり使いたくなりますよね。問題はそこからで、少し起用して下に落とすのではなく、一軍で使いきってみること。万波も日本ハムの首脳陣が使いきって経験を積めたことで、20本くらいホームランが打てるようになったんだと思います。
――村田選手は身長197cmの内野手。遠くに飛ばせるのは、やはり魅力ですね。
石毛 遠くに飛ばすためには、打ち方も当然あると思いますが、持って生まれた能力も大きいと思うんです。今のまま使い続けると打率が2割を切るかもしれませんが、それでもいいんです。
――ちなみに、使いきる価値がある選手かどうか、どう見極めるものなのでしょうか?
石毛 打てないけれど、守れて走れるタイプ。走れないけど、打てて守れるタイプといったように、走・攻・守のうち2つの能力を備えていることが理想です。また、複数ポジションを守れる選手であれば使いやすいでしょうね。
そういった能力がある選手かどうかの見極めは、コーチら首脳陣というよりも、スカウトの仕事かもしれません。あとはチーム事情ですね。今の西武には"和製大砲"が求められていると思いますし、そこに村田は合致しています。
ただ、村田みたいなバッターは、いい時はいいけど、好調がそれほど長続きしない傾向があるんです。そこで「長続きしなかった」「チャンスを与えたけどダメだった」とすぐに下げてしまっても、選手をとっかえひっかえする状況がループし続けるだけです。技術面からサポートしていくことも必要だと思いますし、そこはコーチら指導者の仕事になってきます。村田に限らず、「これだ」という選手は使いきってみることも一考だと思います。
(後編:西武はどう変わった? 重要な戦力の源田壮亮と外崎修汰は「老け込む歳じゃない」>>)
【プロフィール】
石毛宏典(いしげ・ひろみち)
1956年 9月22日生まれ、千葉県出身。駒澤大学、プリンスホテルを経て1980年ドラフト1位で西武に入団。黄金時代のチームリーダーとして活躍する。1994年にFA権を行使してダイエーに移籍。1996年限りで引退し、ダイエーの2軍監督、オリックスの監督を歴任する。2004年には独立リーグの四国アイランドリーグを創設。同リーグコミッショナーを経て、2008年より四国・九州アイランド リーグの「愛媛マンダリンパイレーツ」のシニア・チームアドバイザーを務めた。そのほか、指導者やプロ野球解説者など幅広く活躍している。