夏の甲子園2025 スカウトの選手評~3年生編

 きわめて珍しい光景だった。春夏の甲子園といえば、各球団のスカウトが顔を揃え、ドラフト候補を視察するのが常。

自分の担当地区以外の選手も確認する「クロスチェック」も通例となっている。ところが今大会では、"欠席"するスカウトが相次いだ。いつもならスカウトで埋まる席に空席が目立ち、甲子園よりも大学のオープン戦を優先する球団も複数あった。あるスカウトは次のように語る。

「今年の甲子園は対象選手が少ないですから......。今年は大学生が豊作なので、それだったら上位候補が多数いるそっちを優先しようということになりました。万博の影響で大阪のホテルも高いですしね(笑)」

 今年は野手ナンバーワン評価の阿部葉太(横浜)、昨年の優勝投手である西村一毅(京都国際)らが早々と進学を表明していたこともあり、ドラフトという観点からすると寂しい大会になった。

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【進化する高校生ナンバーワン投手】

 そんななか、ドラフト1位候補としてスカウトの視線を一身に集めたのが石垣元気(健大高崎)だ。この夏は2イニング、わずか28球の登板だったが、甲子園最速となる155キロをマーク。成長ぶりをアピールした。

「出力のレベルが違う。歴代の高校生でもトップレベルじゃないでしょうか。見るたびに体も大きくなっているし、そういう意識の高さもかなり評価できます。

フィールディングとかまだやることは多いですが、どこも即戦力としては見ていないと思うので、じっくり育ててほしいですね」(パ・リーグスカウトA氏)

「高校生のピッチャーではナンバーワンと言っていいと思います。ストレートもさることながら、この1年で変化球がよくなった。カットボールとフォークですね。このふたつの変化球の精度が上がった分、真っすぐをそんなに放らなくてよくなった。今まではボール、ボールと続くと、真っすぐで抑えないといけなかったのですが、変化球でカウントを稼げるようになりました。成長を感じましたね。155キロも出ましたし、高校生であれだけ可能性があればほかに候補者もいないし、1位で競合するんじゃないですか」(セ・リーグスカウトB氏)

【夏の甲子園2025】3年生のドラフト候補が限られるなか、スカウトが挙げた9人の逸材 「出力のレベルが違う」と大絶賛されたのは?
仙台育英の左腕エース・吉川陽大 photo by Matsuhashi Ryuki
 残念ながら、石垣以外の上位候補は見当たらない状況だが、投手でほかに名前が挙がったのが吉川陽大(仙台育英)だ。

「ちょっとサイズが小さい(175センチ、73キロ)ですが、スライダーを投げるのがうまい。それって簡単に教えられることじゃないですからね。あと、打つほうでも当て勘があるというか、バットをうまく使えるセンスがある。道具をうまく使えるということは、結局は体をうまく使えるということ。それが空間認識力というか、変化球を投げるうまさにつながっている気がしましたね」(パ・リーグスカウトC氏)

 初戦敗退したが、プロ志望届提出を明言した早瀬朔(さく/神村学園)も148キロをマークして注目された。

「県大会ではもうひとつ調子が上がらなかったみたいだけど、甲子園ではよかったです。大舞台で力を発揮できるのは魅力。身長185センチで角度があるし、足を大きく上げられる柔らかさもある。まだ体は細い(78キロ)ので、これからでしょう」(セ・リーグスカウトD氏)

【昨年春の優勝投手・佐藤龍月の評価は?】

 未来富山を甲子園初出場に導いた左腕の江藤蓮は、180センチ、84キロの堂々とした体躯が魅力だ。

「サイズがあって、フォームも悪くない。84キロあるけど、脂肪ではない。いい体をしていますよね。馬力はあるので、プロで鍛えればもうちょっと出力は上がるはず。化ける可能性はあると思います」(セ・リーグスカウトB氏)

 江藤については、チームの4番に座るだけあって打撃を評価する声もある。

「バッティングは当て勘があるし、体重もあるから打球が飛ぶ。ピッチャーよりバッターとして面白いんじゃないかな」(パ・リーグスカウトC氏)

 江藤自身、初戦敗退を喫し「このままじゃ上で通用しない。もう一度考えたい」と言っていたが、どんな決断を下すのか注目だ。

 トミー・ジョン手術から復帰した昨年の選抜優勝投手・佐藤龍月(りゅうが/健大高崎)もプロ志望届を提出する予定だという。

ヒジを痛める原因となったインステップは以前より修正され、球速も夏の県大会前の復帰登板で自己最速を更新する147キロをマークしている。

「よく復帰しましたよね。体は本当に大きくなりました。手術して上半身が使えないなか、おそらく下半身トレーニングを相当やったのでしょう。太ももはびっくりするほど変わりました。苦しい時に頑張れる子なんだと思いました」(パ・リーグスカウトA氏)

「(173センチ、77キロと大柄ではなく)積んでいるエンジンを考えると、大学で鍛えてから勝負してもいいんじゃないかと思いますけどね」(セ・リーグスカウトD氏)

 ただ、佐藤の現状は30球が目安の投球制限があり、復帰過程にある。「故障明けの選手を獲るのはリスクがありますし、ギリギリまで見たいというのが本当のところです」という声が多かった。

【夏の甲子園2025】3年生のドラフト候補が限られるなか、スカウトが挙げた9人の逸材 「出力のレベルが違う」と大絶賛されたのは?
打者としてスカウトから高い評価を受けた横浜・奥村頼人 photo by Matsuhashi Ryuki

【打者として最も評価された選手は?】

 一方の野手は、投手に輪をかけてドラフト候補が少なかった。今年春の選抜では、ドラフト候補として注目された赤埴幸輝(天理)も、「この体(181センチ、74キロ)ではできない。体をつくって、3年後にプロを目指したい」と社会人入りを表明。スカウトから野手の名前はなかなか挙がってこなかった。

 そのなかで、最もプロの視線を浴びたのが奥村頼人(横浜)だ。

最速146キロをマークする左腕だが、スカウトからは打者として評価する声が多かった。

「(2試合で3本塁打を放った)神奈川大会で覚醒したなと思いましたね。バランスを崩されても、意外と打球が飛んでいく。ボールの運び方を知っているというか、手首の使い方がかなりうまいですね」(パ・リーグスカウトC氏)

「タイミングを取るのがうまいし、コンタクト力もある。高校生にしては、打球の強さもある。打者に必要な能力をすべて持っています。左投左打で足も速くないけど、これだけ打つセンスがあれば、獲る球団はあるんじゃないでしょうか」(セ・リーグスカウトB氏)

【夏の甲子園2025】3年生のドラフト候補が限られるなか、スカウトが挙げた9人の逸材 「出力のレベルが違う」と大絶賛されたのは?
前チームからチームの主軸を担う神村学園・今岡拓夢 photo by Matsuhashi Ryuki
 投手としての評価はこうだ。

「低めのストレートの質はいいと思います。それがあるから、チェンジアップで空振りが取れる。ただ、スライダーとかの曲がり球があまり上手じゃないんですよね。腕の振りが鈍いし、下半身のキレももうひとつ。それが今後どうなるか」(セ・リーグスカウトD氏)

 チェンジアップ以外の変化球の精度が、今後の課題になる。

準々決勝敗退後、本人は今永昇太(カブス)の名前を挙げて投手希望を口にしたが、はたしてどこまでレベルアップできるか今後の行方を見守りたい。

 このほかの野手では、神村学園のショート・今岡拓夢には「サイズがあるし(180センチ、80キロ)、右打ちの打てる内野手というのは魅力」(セ・リーグスカウトB氏)、京都国際のサード・清水詩太には「右打ちの大型内野手(180センチ、78キロ)。ミート力が高く、木製バットにも対応している」(セ・リーグスカウトD氏)、豊橋中央の捕手・松井蓮太朗には「技術的にはまだまだだけど、体が強い。プロの練習に耐えられるだけの体があるのが魅力。プロで鍛えたい」(パ・リーグスカウトC氏)という声が聞かれたが、人材不足は否めなかった。

 選抜王者の横浜を破った県岐阜商の快進撃など甲子園は盛り上がったが、ドラフト的視点から見ると例年よりも明らかに対象選手が少なく、スカウトの表情も曇っていた。

 ただ、今大会は2年生で目立った選手が多かっただけに、来年はドラフト的視点からも盛り上がる大会になることを期待したい。

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