8月21日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の17歳、久保瑛史がJ1セレッソ大阪に入団することが正式に発表された。背番号は26に決まった。

 日本のスポーツ紙がすっぱ抜いたあと、スペイン大手スポーツ紙も次々にこの移籍を伝えていた。久保瑛史はすでに家族と住んでいた家を引き払って、セレッソの練習に合流していたという。その点、予定どおりといったところか。

 久保瑛史は、決して有名な選手ではない。しかし、言わずと知れた日本代表、ラ・レアルのエースである久保建英の弟である。大きなニュースとして扱われるのも当然だろう。

 2022年8月、久保瑛史は横浜F・マリノスの下部組織からラ・レアルの下部組織スビエタに籍を置き、着実にカテゴリーを上がってきた。そこで3シーズンを過ごし、来月で18歳になる。早ければ今月中のリーグ登録(最短で8月23日のヴィッセル神戸戦)になるという。兄は左利きのアタッカーで、弟は右利きのMFだ。

 はたして、久保の弟はどんな選手なのか?

セレッソ大阪に入団した久保建英の弟 レアル・ソシエダの顔が語...の画像はこちら >>
 一昨年、スビエタ(ラ・レアルの総合練習場)で取材を行なったとき、久保瑛史は関係者の注目を浴びていた。

「自分はトップ下ですが、ボランチのエイジはタイミングよく、いいボールをつけてくれました。

すごく視野が広くて、うまい選手で、一緒にプレーして、やりやすかったですね」

 ラ・レアルのユースでともにプレーした金髪のチームメイトは、久保瑛史についてそう語っていた。

 当時は10代の選手の将来を守ろうと、クラブはメディアからの取材も受けずにガードしていた。過度の期待は、選手のストレスになってしまう。『Sportiva』のご意見番でもあるミケル・エチャリは、20年間もラ・レアルでダイレクター、育成部長、スカウト、育成監督を歴任するなど、今もチームの"顔"だけに、ひっきりなしに電話がかかっていた。

「エイジはどんな選手か?」――それについてコメントがほしいのである。

 筆者も、ユースの選手について記事を書くことには逡巡があった。しかし、プロ選手になるなら、そのフェーズは過ぎた。社交辞令を口にしないエチャリは、久保瑛史について好意的だった。

【シャビ・アロンソと同じポジション】

「エイジはタケ(久保建英)とは違う。ドリブルで切り込んでいくような選手ではない。ただ、日本人の選手の多くがそうであるように、俊敏だし、技術的にも高く、プレービジョンもあると感じた」

 エチャリは、現地でシャビ・アロンソを発掘した慧眼として知られる。18歳でアンティグオコ(当時、ラ・レアルが提携していたユースクラブ。

チームメイトにアーセナルの監督であるミケル・アルテタがいた)に入団した当時、実は兄のほうが評価は高かったが、エチャリは「アロンソは見えている景色が違ったし、それを実現するだけの技術を獲得していた。モノが違った」と将来性の高さを誰よりも見抜いていた。

 1年目のアロンソは不遇を受けたが、2年目に2部エイバルに貸し出されてから半年で戻ると、中盤に君臨するようになった。

 久保瑛史のポジションはアロンソと同じアンカーが基本だが、ボランチ、もしくはインサイドハーフも担当できるタイプだろう。ラ・レアルは過去、ミケル・アランブル、アシエル・イジャラメンディ、マルティン・スビメンディなどのプレーメイカーを輩出しており、その系譜と言える。単純な比較は避けるべきだが、スビエタがそうした有力な司令塔を生み出してきたことだけは間違いない。

 久保瑛史が、Jリーグで勇躍する可能性は十分にある。

 しかしながら、ユース年代でやっていたプレーはトップでは通用しない。駆け引きや強度がまるで違う。ひとつの技術は通用するかもしれないが、それを90分、1シーズン続けるのは簡単ではない。現時点ではあくまで17歳の少年で、楽観論を煽るのは控えるべきで、まずは見守るべきだろう。もし、彼が大人を相手にも対等のプレーができるのだとしたら、サンセ(ラ・レアルのBチーム。

現在ラ・リーガ2部)で出場機会を与えられていたはずだ。

「ユース年代の選手は各カテゴリーを上がりながら、力を証明し続けるしかない。そうした選手だけが、トップチームで出場会をつかめる。才能がある、というのは、必ずしもトップで活躍できる、ということではない」

 エチャリは常々そう言っているが、まさにそのとおりだろう。

 世界最高のMFと言われるようになったアロンソも、プロ2年目で2部での武者修行を経て、プロとして成熟したという。下部リーグで荒っぽい接触プレーを重ねるなか、ようやく自分の技術を出せるようになった。プロの洗礼を浴び、生き残れる者しか、ピッチに立ち続けられないのだ。

 久保瑛史には、これからがプロサッカー選手としてのスタートになる。

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