【不甲斐なかった初の世界選手権で救われた古賀の言葉】
ネーションズリーグの活躍で、佐藤淑乃は一躍日本女子バレー界のニューヒロインになった。
試合が終わればミックスゾーンで多くの記者やカメラに囲まれ、多くのファンからサインや写真撮影を求められる。その一つひとつに対していつも丁寧に応じ、試合になればサーブやスパイクで存在感を発揮する。
8月22日にタイで開幕する(日本の初戦は23日)世界選手権でも活躍が期待される選手のひとりであることは言うまでもない。佐藤自身も4位で終えたネーションズリーグを振り返り、「メダルを目前にして勝ちきれなかったのはすごく悔しかったけれど、今後の課題が見えた」と明かしながらも「サーブは世界に通用する武器にできた」と手ごたえも示した。自身二度目となる世界選手権でもその武器で勝負する、と強い意志ものぞかせている。
きっと大舞台で、さらなる飛躍を遂げるだろう。予感ではなく確信として抱く理由がある。
10代や20代の選手たちがきっかけを得て、劇的に成長する姿を何度も見たからだ。高校から大学、大学からVリーグ、SVリーグ、そして日本代表と戦うステージが上がっていくなかで見せるプレーや、顔つきがまるで別人のように変わっていく。
佐藤も、まさにそんなひとりだった。
初めて取材したのは、日本代表に初選出された2022年、薩摩川内での合宿時だった。サーブの効果率を高めるべく、個々がサーブ力向上に取り組むなか、小気味よく狙った場所へサーブを打ち続けていたのが、当時最年少だった佐藤だ。
体育館から宿舎まで、5分にも満たない時間ではあったが、話を聞くと目を輝かせながら「学ぶことばかりで、毎日刺激だらけです」と笑顔を見せた。千葉の敬愛学園高在学時はアンダーカテゴリー日本代表に選出されることはなく、筑波大3年にして初の日本代表。
だがその後、8月から9月に開催された世界選手権を経て、全日本インカレに向けた注目選手のひとりとして再び佐藤の取材に訪れた時は、薩摩川内で見せた顔とは少し違った。
礼儀正しく、問いに対しても明確な言葉で応える姿は変わらなかったが、自身初の世界選手権の話になると少し視線が下を向いた。
アウトサイドヒッターの佐藤に与えられた役割は、リリーフサーバー。すぐに出場機会は訪れたが、大会前半は相手を崩し、効果を上げるどころかミスが続いた。2戦目のチェコ戦を終えた後、自分の不甲斐なさが悔しくて、泣いてしまったことがある、と明かした。
「全然ダメだ、と思ってしまって。もともと私、すごくネガティブなのでうまくいかないと落ち込むタイプなんですけど、(当時の主将の古賀)紗理那さんが『大丈夫だよ、まだ始まったばっかりだし、たとえミスしても攻めてくれれば勢いは絶対につく。ミスを怖がって打つよりも、思いきって打ってくれたほうがチームに勢いがつくからそれでいいんだよ』と声をかけてくれたんです。
キャプテンで、エースで、すごく大変なのに私のサーブがうまくいかないこともちゃんと見ていて、トスの位置やジャンプの位置に対してもアドバイスをしてくれた。ダメダメだった自分に対してもこんなふうに接してくれて、『本当にすごい人だな』ってあの時、あらためて思わされました」
【成長した実感を胸に、2度目の世界選手権へ】
うれしさよりも苦い記憶が残った世界選手権を終えてからも、筑波大のエースとして活躍。2023年にはユニバーシアード日本代表で銀メダルを獲得し、4年時には全日本インカレを制し「人生で初めて」の日本一に輝いた。
ジャンプやスピードを向上させるべく、身体づくりに時間を費やしたことに加え、身体の動かし方や使い方に対しての知識も得た。漠然と「いいサーブを打つ」「強いスパイクを打つ」と量だけをこなす練習ではなく、どうやって打つのか、そのためにどう動くのか。一つひとつをひも解きながら取り組むことで、格段に進化を遂げた。
SVリーグの長いシーズンを戦い続けてもパフォーマンスが落ちるどころか、日本代表でネーションズリーグに臨んでも落ちることなく成長する。その成果を佐藤自身が実感していた。
「3年前の世界選手権を経験してから、『もう一度代表で勝負したい』という思いがあったんですけど、当時の代表で戦う人たちを見て、自分との実力差をすごく感じて、苦しい時期がありました。Vリーグや世界で戦うほかの選手たちと大学にいる自分の差がもっと開いていく気がして、『もっと早く成長したい』と焦ったこともあります。でも、NECに入って自分が想像した以上にいろいろな経験をして、成長することができたのかなと思っています」
昨年末、12月に中国で開催された世界クラブ選手権では、日本代表セッターの関菜々巳が在籍したイモコ・コネリアーノ(イタリア)と対戦した。試合はセットカウント0-3で敗れたが、対戦相手にはブラジルのエースで、佐藤も「憧れ」と語る"ガビ"ことガブリエラ・ギマラエスがいた。
試合後には少し話をする機会もあったが、分け隔てなく接するガビの姿に「劣勢時の周りに対する振る舞いや、ディフェンス力もすごい」と称賛しながらも、ネーションズリーグで互いが国の代表として対峙した際は「絶対に勝ちたい相手だから憧れを捨てて臨む」と笑顔で話す姿に、新たな逞しさが見えた。
悔し涙をその都度次への力に変え、経験を重ねて得た自信。
二度目の世界選手権で、佐藤はどんな姿を見せるのか。念願だった場所に立ち、さらに強いエースへ変貌を遂げていく。
きっと、見るたび胸躍る姿が見られるはずだ。
(石川真佑が語る世界との差 悔しいパリ五輪から1年、日本の強みを「もう一段階上げられたら」>>)