【世界に勝つための"手札"】
8月13日、都内。バレーボール日本女子代表は、22日からタイで開幕するバレーボール女子世界選手権(世界バレー)に向け、精力的に調整を行なっていた。
「相手の状況をしっかり見て!」
コートに立つ選手に向け、フェルハト・アクバシュ監督の熱いゲキが飛ぶ。
そのチームのキャプテンで、エースとも言える石川真佑は、気力に満ちた様子でコートに立っていた。強豪チームとの対戦を想定し、男子大学生が入ったブロックにシャットアウトされたあとだった。精悍(せいかん)な顔つきをあえて柔らかくし、トスを上げた選手に対して右手の人差し指を上げながら"もう少し上で"という口の形をした。集中した様子でトレーニングと対峙していた。
〈改善し、進化する〉
それは、石川がイタリア挑戦で続けてきた日常なのだろう。その練磨によって昨シーズンは、リーグではチーム最多344得点を記録し、CEVカップ(ヨーロッパカップ戦のひとつ)で優勝という結果を残した。今や堂々たる日本女子バレーの看板選手だ。
「VNL(バレーボールネーションズリーグ2025)が終わってから質の高い練習を重ね、今まで出た課題だったり、相手に対する対策だったり、少しずつ準備に入っているところです」
そう粛々と語った石川は、世界バレーでさらなる進化を遂げる――。
石川はイタリアを本拠に、"世界"を日常に生きている。それは生き残りをかけた戦いで、体格、高さ、パワー、リズムの違いなどへの適応を意味する。もっと言えば、駆け引きの勝負だ。
「(世界バレーでは)自分たちよりも、高さがあるチームが多いので、そこでの攻め方が大事ですね」
さらに彼女は、こう続けている。
「勝負どころで、どう攻めたら相手が対応しづらいか。攻撃の精度を高めていかないといけません。たとえば得意なコンビのところで(相手に)絞られてしまい、対応されることもすでに経験しているので、自分たちで打開策を見つけていけるように。
"ここのプレーでは、スパイクもこういう打ち方をする"というトライはいくつもしてきたし、場面によって何ができて、何を使えば決まるか、の練習も積んできました」
8月13日の練習でも、石川はさまざまなスパイクを打っていた。駆け引きをするだけの"手札"は十分にある。レフトからクロス、ストレートに打ち分けるだけではない。たとえば、佐藤淑乃からの2段トスを打ってブロックされながらも、決まるまでスパイクを続けていた。また、男子大学生ふたりが入った3枚ブロックもブロックアウトで得点する場面もあったが、長い滞空時間でコースを見極めた一撃だった。
【パリ五輪から1年、世界との差は縮まったのか】
率直に言って、彼女が放つ迫力はパリ五輪の当時と比べると、段違いだ。たった1年で、彼女は成熟してダイナミズムを身につけた。
だからこそ、投げたい質問があった。
――パリ五輪、最後のケニア戦直後、「オリンピックでは、相手は目の色が変わっていた」とおっしゃっていました。今回のネーションズリーグでもオリンピックと同じブラジル、ポーランドと戦いましたが、その差は縮まったでしょうか?(ネーションズリーグでは予選ラウンドでポーランドに勝利も、準決勝でブラジルに敗退。3位決定戦でポーランドに敗れて4位)
彼女は目を大きくして言った。
「勝負どころで勝ちきらないと、上に行けない。やっぱりブラジルには強さを感じました。ポーランドも、ファイナルラウンドはホームならではの観客の一体感もあって......。
ただ、自分たちが何もできなかったかというと、違うと思っています。あと少しの精度だったり、自分たちのミスが出てしまったり、そこの差はあまり大きくないかなって個人的には感じています。そこでの勝負強さ、たとえば"チーム全員で戦う"のは日本の強みだと思うので、そこをもう一段階上げられたらと思っています」
そう説明した石川は、しっかりと勝ち筋を見据えていた。
「日本のバレーは繊細、丁寧で、そこは他の国のチームよりもいいところであり、ストロングポイントだと思っています。そこの一本一本の精度を上げられるかどうか。今のチームであれば、(スパイクを)打てる選手がたくさんいるので、セッターが(トスを)上げる精度でも大きく変わってくる。
だからこそ、石川はこの日の練習でもトスの細部にこだわっていたのだろう。どんなトスも託された限りは打つ。しかし、そこの呼吸が合わなかったらメダルに届かない。
「世界バレーでメダル獲得に近づくためにも......VNLで出た課題もあるので、そこに向き合うことからひとりひとりの意識が変わってくると思います。世界バレーが次にもつながっていくはず。ロス(2028年ロサンゼルス五輪)に向けた土台作りとしても、全員がアグレッシブに戦えるようにしたいです」
世界バレー、石川は手練れの女傑たちをねじ伏せる準備ができている。
(今の日本代表の「明るさ」を象徴するリベロ岩澤実育 高校の後輩でキャプテン・石川真佑を「親目線で」気づかう>>)