【新チームのカラー「明るさ」を象徴するリベロ】

 8月13日、都内。円陣になった一角で、フェルハト・アクバシュ監督が英語で静かに淀みなく話していた。感情表現豊かなトルコ人らしく、身振り手振りも熱っぽかった。

 8月22日からタイで開幕するバレーボール女子世界選手権(世界バレー)に向け、バレーボール日本女子代表は準備を重ねていた。

 その日は、ジョギングからスイング用のバーを使った体幹トレーニングでスタート。片足立ちで引っ張り合い、笑顔も見られる。明るい雰囲気のなか、集中力が徐々に高まっていった。

「君にいいことがあるように」

 aikoのヒット曲『ストロー』(作詞・作曲aiko)の歌詞が会場には流れていた。

〈明るさ〉

 それは、アクバシュジャパンのカラーと言えるだろう。アグレッシブ、前向き、楽しむ、などにも言い換えられるが、いわゆる"愛されるチーム"の体質である。ポジティブな波動が出ているのだ。

 明朗なチームを象徴するのが、リベロの岩澤実育かもしれない――。

【女子バレー】今の日本代表の「明るさ」を象徴するリベロ岩澤実...の画像はこちら >>

 バレーボールネーションズリーグ(VNL)2025、日本代表に選ばれた岩澤は、ディグ(スパイクレシーブ)で際立った技量の高さを見せている。予備動作に優れ、俊敏で、ブロックと連動して的確にボールを上げ、チームを救う。日本ラウンド(7月9~13日)では、強豪ポーランド戦で勝利に貢献するスーパーディグも披露している。

 3人のリベロ(岩澤の登録はアウトサイドヒッター)が切磋琢磨する状況だが、岩澤は謙虚で、少しもエゴが見えない。

「ディグはネーションズリーグでも『武器にできるな』と思えたところで......感覚的には、フェロー(アクバシュ監督の愛称)も迷ってくれているんだな、と思っています。だから少しでも(リベロの起用で)監督を迷わせる、考えてもらえる要素になれるように、自分の持ち味を出せていければと思っています」

 岩澤は言うが、彼女たちリベロの安定感は欠かせない。"世界"で勝ち上がるには、日本女子バレー特有の繊細さ、丁寧さ、組織力を最大化するしかないだろう。そこで生み出される総合的なディフェンス力=とにかくボールを落とさない、は土台となる。

【コート内では地味な仕事、コート外では応援でチームを鼓舞】

 岩澤のディフェンスは派手なディグだけではない。目立たないブロックフォローだったり、ギリギリのボールに挑んで拾う姿勢を見せられたり、むしろ地味な仕事にあるという。

「あまり目立たなくても、"そこの一本がなかったら、この点数が取れない"というプレーが大事です。たとえば、ブロックフォローにしっかり入っていたから、スパイカーがまた同じところに打てる。カバーに入っていたから、スパイカーが一歩早く助走に入れる、とかですね」

 その献身的な哲学が、前へ進む力をチームに与える。チームは悪い波に飲み込まれそうな時が必ずある。そこで踏みとどまらせるのは、何気ないプレーなのだ。

 その点、コート外でも岩澤の姿は際立つ。

「フェローも、選手に『アグレッシブにやってほしい』と言っているので、コートに立った時のプレーはもちろん、プレー以外でもチームを鼓舞することができたらと思っています」

 岩澤はそう説明するが、フォア・ザ・チームの姿勢が明るさにつながっている。コートサイドの応援でも、彼女は本気で体を動かす。チアダンスのような陽気さで、チームに下を向かせない。

「そこ(応援)で動いているから、いつでも(試合に)出られます(笑)」

 本人がそう語るほどのポジティブさだ。

【"戦友" 石川真佑と「一緒に楽しく試合ができています」】

 VNLでも、下北沢成徳高校時代からの"戦友"である石川真佑キャプテン(岩澤がひとつ年上で、当時はともに春高バレー連覇を経験)を盛り立てるような姿が注目を浴びた。ふたりで弾けたように笑顔になる場面もあった。チーム全体に、勝負を楽しむ雰囲気が生まれた。

「(石川)真佑とは成徳の時、ずっとしゃべっているような間柄ではなかったんですけど......お互い、卒業してから時間も経って、真佑はイタリアで、私も(埼玉)上尾で経験を積んで、今はフランクに、バレーのこともプライベートのことも話すようになりましたね」

 岩澤はそう言って、快活な笑顔を見せる。

「真佑が代表でキャプテンをすることになって、彼女は真面目だから『背負いすぎて、自分のプレーができなくならないように』と思って......なんか、もう親目線ですが(笑)。でも、いい意味でオープンになって真佑らしくプレーしている姿があって、自分も一緒に入って楽しく試合ができています。とてもいい雰囲気のチームだと思います!」

 楽しむ姿勢は、相手に脅威となるはずだ。

「自分たちがやるべきことをやって、楽しくやることで勢いをつけられたらって思っています。

そうなったら、きっと相手もやりにくい。そこが上位のチームに勝っていくカギになると思っています。楽しくプレーできたら、自ずと体も動くし、声も出るし、プラスのことしかありません。私は下から持ち上げられるように頑張っていきたいです!」

 コートに立ったら、岩澤はレシーブでチームを救う。コート外では、全力でチームに明るさを与える。

「プレーしているほうが楽しかったら、見ているほうもワクワクドキドキすると思うんです。まずは、やっている選手本人たちがバレーを楽しまないと、勝ってもつらいし、負けたらもっとつらい。バレーするのが苦しくなってしまうので。楽しむっていうのは忘れないように」

 岩澤はそう言って、邪気のない笑みを洩らした。

 世界バレー、日本の戦いは8月23日のカメルーン戦で火ぶたが切られる。

編集部おすすめ