ラ・リーガ開幕戦、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は敵地で「久保劇場」に沸いた。
バレンシアのホーム、メスタージャ・スタジアムで久保建英が突き刺した左足ゴールは、敗色が漂っていたチームを見事に救った。
新シーズン、久保がラ・レアルにとって欠かせない選手であることがあらためてわかったが―――。
久保に関しては、9月1日の移籍期限まで「新天地はどこ?」の話がくすぶり続けるだろう。しかし、ほとんどの情報ソースは信用度が低く、話題稼ぎに過ぎない。主要メディアの番記者は静かなものである。8月下旬の段階でも契約が成立していないという現実は、「(昨シーズン、ラ・リーガ5得点はやや寂しい数字で)ビッグクラブのファーストチョイスではなかった」ことを示す一方、ラ・レアルに「手放す気はない」ことも同時に意味している。
「アトレティコ・マドリードへ移籍か?」
一時はそんな話題で持ちきりになったが、これも現実性が乏しい。
アトレティコはすでに300億円以上も補強に使っており、久保を獲得した場合、400億円以上に膨れ上がる。ラ・レアルは6000万ユーロ(約100億円)の移籍違約金をビタ一文まけないだろうし(レアル・マドリードが移籍金の半分を取得する契約になっている)、EU外選手枠(ラ・リーガでは3人まで)の問題などハードルが高い。また、ディエゴ・シメオネ監督は久保との親和性は低く(久保と同じポジションにシメオネ監督の息子のジュリアーノがいる)、おそらくは他の選手を獲得するためのダシに使われたのだろう。
もっとも、久保サイドには移籍実現に向けた動きが見られる。
【今季の補強も及第点に及ばず】
久保自身、ラ・レアルの枠に収まりきらなくなりつつあるのは事実だろう。
ジャパンツアーではチームの補強に苦言を呈し、それはさまざまな形で受け止められている。その内容は、筆者がこれまで書いてきたことと同じで正論でも、ひとりの選手がチームに対し公然と注文をつけることは、反発も引き起こす。彼の性格を知っている者であれば、悪気がないことは十分に理解できるが、傲慢な意見だとも受け取られるのだ。
「自己批判が旺盛な一方、要求も大きい」
スペイン大手スポーツ紙『アス』のコラムでは、久保のパーソナリティに理解を示しつつ、言動に疑問も呈している。また、ラ・レアルの関係者からも、「タケは純粋なのだろうが、思ったことを言葉にし過ぎる。試合後のコメントや行動も含めて、内部での関係性が心配になる」という懸念の声が聞こえる。それはラ・レアルだけでなく、スペインの多くのクラブでの標準的な感覚で、采配や戦い方への批判はタブーなのだ。
ひるがえって、シーズンオフの補強は久保が満足できるものだったか?
客観的に評価するなら、「批判するほど悪くはないが、及第点には届かない」といったところか。
司令塔であるマルティン・スビメンディがアーセナルに移籍し、原稿執筆時点で、代わりのMFは獲得できていない。
そもそも久保のラ・レアル入団後、彼以外に獲得した選手で額面通りのプレーができたケースはひと握りだろう。大金を使ったウマル・サディクは大外れ。FWオーリ・オスカールソン、シェラルド・ベッカー、MFアルセン・ザハリャン、ルカ・スシッチ、セルヒオ・ゴメス、DFアルバロ・オドリオソラなど、ことごとく戦力になりきっていない。右サイドバックはアマル・トラオレやジョン・アランブルが一定の成功例と言えるが、もともといたアンドニ・ゴロサベルでも十分に稼働できたはずだ。
久保にとって4年目のシーズンになるが、多くの戦友が去った。ダビド・シルバが引退し、アレクサンダー・セルロート、ロビン・ル・ノルマン(ともにアトレティコ)、ミケル・メリーノ(アーセナル)、そしてスビメンディと次々に主力が移籍。代わりになるべき選手は低調だ。
久保が不満を覚えるのもわからないではない。
ただ、ラ・レアルは欧州トップクラブのなかで、最も下部組織出身選手が多くを占める。
新監督に就任したセルヒオ・フランシスコは昨シーズン、サンセ(ラ・レアルのBチーム)を2部に昇格させた(プレーオフは別の監督だったが)。下部組織スビエタの功労者で、イマノル・アルグアシル前監督の後継にふさわしい。
開幕戦は4-3-3を選んだが、4-4-2の中盤ダイヤモンド型も準備し、停滞打破の兆しもある。スビエタ時代に指導した選手たちが多数いる点もアドバンテージだ。
8月24日(現地時間)、レアレ・アレーナ。ラ・レアルはホーム開幕戦で、エスパニョールを迎え撃つ。久保は2試合連発で4年目のシーズンに向けて腰を据えることになるか。もし移籍が決まった場合は、ホーム最後の一戦となる。