【MLB】菅野智之が復調したターニングポイント 35歳のルー...の画像はこちら >>

前編:菅野智之が2ケタ勝利にたどり着いた理由

 ボルチモア・オリオールズの菅野智之が調子を上げている。メジャー1年目にして10勝に到達し、特に8月19日までの先発5試合では3勝0敗、防御率1.90。

チームが低迷するなかでも、エース格として先発ローテーションを守ってきたことは評価されていい。

 そんな菅野も常に順風満帆だったわけではない。6月は5戦に先発して防御率6.20と苦しんだ。試合のたびに打ち込まれ、その時点ではメジャーの強打者たちに見極められてしまったかと思えた。しかし、そこから35歳のオールドルーキーが復調した要因はどこにあったのか。

 その秘密を知るため、オリオールズのドリュー・フレンチ投手コーチの単独インタビューを行なった。菅野とも信頼関係を築く41歳のコーチは今夏、シーズンの流れを変える重要な話し合いが行なわれていたことを明かしてくれた。

*インタビューは現地時間8月24日、オリオールズの本拠地カムデンヤーズで収録

【好調の要因は"自分はやれる"と信じられるようになったこと】

――今季、ここまでの菅野投手の働きをどう見ていますか?

ドリュー・フレンチ(以下、DF) : メジャーリーグでの最初のシーズンというのは、まずは慣れるための期間だ。リーグに適応していく一方で、リーグ側も新しい選手を研究してくる。修正や方向転換を求められる部分もあるが、最終的にはトモは自分らしさを失わず、常に自分に忠実であり続けていると感じている。トモはとても冷静な性格で、いい質問をたくさんしてくれる。試合中も登板間隔の調整のなかでもすぐに対応できる。彼は球威で押すタイプではないが、制球力やコンビネーションに優れている。

その武器をバランスよく発揮していると思う。いまはシーズンのなかで最もよい2カ月間に入ってきているように見える。

――最近は特にすばらしい投球をしていますが、その要因は?

DF :大きな要素は"自分はやれる"と信じられるようになったことだ。これまでテレビで見てきたアーロン・ジャッジとヤンキースタジアムで実際に対戦するのは大変なことだ。頭のなかでイメージしてきたことを、いま現実にやっているわけだ。そんななかでどう気持ちを整理し、どう理解していくか。今の彼は精神的に落ち着いていて、自信と信念を強めていると思う。

――ここに至るまで、苦しい時期もありましたが、菅野投手にとってのターニングポイントはどこにあったのでしょう?

DF :今年一番大きなミーティングは7月、アトランタへの遠征中に行なわれたもので、独立記念日(7月4日)前後のゲームの時だったと思う。トモの日本時代の映像を一緒に見返して、彼自身が"昔はこういう投げ方をしていた"と話してくれたんだ。たとえば左打者に対して内角に変化球を投げたり、右打者にももっと内角を攻めるといったことで、それは今季前半戦ではあまりやっていなかったことだった。我々は"これは打者にとって厄介な課題を増やせる"と一致した。その会話を境に、右打者への対応がこれまで通り安定していただけでなく、左打者からも三振を奪えるようになり、数字が改善した。

【彼が自分の携帯に入れた映像を持ってきた】

【MLB】菅野智之が復調したターニングポイント 35歳のルーキーが好調な理由をオリオールズ投手コーチが語る
これまでの菅野の奮闘ぶりを間近で見続けてきたフレンチ投手コーチ photo by Sugiura Daisuke

 現地8月8日。ホームでオークランド・アスレチックス戦の3回に二死1、3塁のピンチを迎えた時のこと。菅野は左打ちの新人王候補ニック・カーツを、カウント2-2から内角低めのスイーパーで見逃し三振に斬ってとった。その試合後、「オールスター前、左打者のインサイドは攻めきれていなかった。最近よくなってきたのがあの打席にすべて詰まっている」と手応えに満ちた表情で述べていたのが印象的だった。それに至る過程として、フレンチ投手コーチとの話し合いが存在していたのだ。

 菅野自身に確認しても、7月上旬にミーティングが催されたことを認めていた。"バレル(ホームランや長打になりやすい理想的な角度と速度の目安)を狙ったスイングで捉えられやすい"、という意味では、危険な左打者への内角攻め。制球力抜群の菅野だからできるこの配球を導入したことが大きな分岐点となり、最近の背番号19は充実した投球を続けるようになった。このやり取りからは、1年目で早くも養われた菅野とフレンチ投手コーチの信頼関係もはっきりと見えてくる。

――左打者の内角にも思いきって変化球を投げるという方向転換のあと、実際に成果が出ているんですね?

DF :直近5試合ほど、特に左打者相手の被打率が下がった。三振が増え、四球が減り、強打を許すケースも減っている。

つまり左右両打者に対して優位に組み立てられるようになったということ。選手が必要な修正を信じ、積極的に話し合い、実行するのは大事なことだ。最終的にプランを実行するのは、マウンド上の投手本人だからね。トモは信じて実行し、結果を出したというわけだ。彼にとって今年最大の転機は、あのアトランタでのミーティングだったと思う。

――そのミーティングを行なうという発案者は、菅野投手自身だったのでしょうか?

DF :そうだ。彼が自分の携帯に入れた映像を持ってきてくれて、一緒に確認した。日本時代の映像は、今は手に入れにくい。オフにいくらかはあったが、現在はYouTubeくらいしか頼れない。だから彼が自分で持ってきてくれたのが一番の資料だった。

 選手が強い信念を持って話すと、すぐに伝わる。"自分はこうしたい"と断言できるのは理想的な姿であり、あの時の彼の言葉には確信があった。

だからこそ、我々は"これは実行すべきだ"と判断した。その際、彼はいい質問をしてくれて、いくつかをスタッフに調べてもらった。すると予想以上に良好な答えが返ってきて、それがトモだけでなく、先発ローテ全体にとってもプラスになった。すべては一度の会話から始まり、そこからいい流れが広がっていったというわけだ。

――最近の菅野投手はより確信を持って投げているのが伝わってきます。

DF : つけ加えると、オールスター休暇で11日間休めたのも大きかった。日本では基本的に週1登板で、中4日や中5日で投げることはほとんどない。だからリセット効果があったのだろう。オールスター明けの登板では新鮮さとエネルギーを感じた。我々のチームの状況は決して楽ではないが、選手たちが細かな修正を積み重ねて戦い続けている姿は誇らしい。今の彼は精神的にも肉体的にも本当にいい状態にある。

つづく

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