プロフットボーラーなら誰もが、期待と不安を携えて新シーズンに臨む。昨季不振にあえいだ者は復活を期し、好調を維持した者は今までと異なるプレッシャーにさいなまれる。

 堂安律はすばらしいスタートを切った。今夏、3シーズン過ごしたフライブルクから昨季リーグ3位の強豪フランクフルトに移籍。DFBポカール1回戦のFVエンガース戦で早くも2ゴールを決め、周囲の期待に応えた。

【欧州サッカー】堂安律の移籍金35億円は安すぎる 中田英寿の...の画像はこちら >>
「ワンチャンスで点が取れ、我々に活力を与える頼もしい選手だ」

 ディノ・トップメラー監督は、新天地にやってきた27歳の日本人を高く評価した。

 開幕早々の好パフォーマンスによって、堂安には数多くのチャンスが与えられるだろう。重心が低く、切れ味鋭いドリブルは、ブンデスリーガでもトップクラス。開幕節のブレーメン戦でも右サイドハーフで先発し、果敢なボール奪取からゴールをサポートした。

 バイエルンが今季も優勝候補の筆頭であることに疑いの余地はないが、近年のブンデスリーガは群雄割拠だ。堂安がゴール、アシストともにふた桁を記録し、フランクフルトの19シーズンぶりのマイスターシャーレ獲得に貢献すれば、フライブルクに支払った2100万ユーロ(約35億円)の移籍金は多くのメディアに「バーゲン」と評されるに違いない。

 日本人選手の市場価値は、現状まだまだ低い。セリエAのパルマでプレーする鈴木彩艶は2000万ユーロ(約34億円/市場価値は『transfer merkt(トランファーマルクト)』参照)だ。プレーが不安定で危なっかしいマンチェスター・ユナイテッドのアンドレ・オナナですら2500万ユーロ(約43億円/同)なのに。

 マインツの佐野海舟も、鈴木と同額の2000万ユーロ。対して、佐野と同じ守備的MFで今夏にもマンチェスター・Uが契約するとの噂が絶えないブライトンのカルロス・バレバは4000万ユーロ(約69億円)だ。ちなみにクラブ側が設定したバレバの移籍金は1億200ユーロ(約175億円)である。

【日本人選手の移籍金最高額は?】

 市場価値はスタッツ、貢献度、将来性、知名度などに基づく評価であり、移籍金はクラブ間の交渉や契約、競争によって決まる実際の支払額だ。必ずしも一致するものではない。それでも、バレバの175億円はまさに桁違いである。

 モイセス・カイセド(チェルシー)、オーレリアン・チュアメニ(レアル・マドリード)、ブルーノ・ギマランイス(ニューカッスル)といったワールドクラスのボールハンターは、市場価値が8000~9000万ユーロ(約138~155億円)という相場だ。

 佐野のボール奪取能力、1対1の強さ、走行距離などは、すでに世界のレベルに届いている。それなのに2000万ユーロ? ドイツの老舗専門紙『kicker』は移籍金4000万ユーロ(約69億円)と高く評価している。

 日本人選手の移籍金最高額を記録したのは、中島翔哉(現・浦和レッズ)だ。2019年2月、移籍先のアル・ドゥハイル(カタール)がポルティモネンセ(ポルトガル)に3500万ユーロ(当時約44億円)を支払っている。

 ポルトガルで結果を残した中島は当時、ビッグクラブへのステップアップ間違いなしと言われていた。それだけに、カタールリーグへの移籍に誰もが首を傾げた。

さらに5カ月後の2019年7月、今度はFCポルトに1200万ユーロで移籍する。謎が謎を呼ぶ展開だった。

 過去の日本人選手なら、中田英寿のことも振り返りたい。2回の移籍でおよそ5000万ユーロを動かしている。1999年にペルージャからローマへの移籍で2169万ユーロ(当時約34億円)、2年後にローマからパルマに移籍した時は2840万ユーロ(当時約45億円)だった。

 特にローマでは、あのフランチェスコ・トッティを刺激するほどの活躍で、2000‐01シーズンには18年ぶりのスクデットに貢献した。ユベントスの息の根を止めたロングシュートは、今でも語り草だ。

久保建英は100億円超え?】

 中田のように正当に評価された日本人で言えば、バイエルンに移籍した伊藤洋輝も挙げていいだろう。昨年7月、日本人DFとしては史上最高額となる2350万ユーロ(約40億円)の移籍金でシュトゥットガルトからステップアップを果たした。

 度重なる負傷で欠場が続いているとはいえ、市場価値が抑えられがちなDFで、選手をみる目が厳しいバイエルンで「2350万ユーロ」は高評価の証である。ヴァンサン・コンパニ監督も「センターバック、左サイドバック、守備的MFでの起用を考えている。ヒロキの汎用性とビルドアップ能力、戦術理解度は、我々のポゼッションスタイルに欠かせない」と、日本代表DFの加入を喜んでいた。

 コンパニ監督の発言を借りるまでもなく、日本人選手の戦術理解度はヨーロッパの現場でも好評だ。

さらにテクニック、勤勉性、自己犠牲、自己管理の高さなどは、いくつかのクラブに栄冠をもたらしている。

 レスターの岡崎慎司、マンチェスター・Uの香川真司、ヴォルフスブルクの長谷部誠、セルティックの中村俊輔、リバプールの遠藤航は、リーグ優勝の貴重なピースとなった。

 そして現在、ビッグマネーを引き出す筆頭は久保建英(レアル・ソシエダ)だ。市場価値は3000万ユーロ(約52億円)でありながら、「スパーズが6500万ユーロ(約112億円)を用意した」「契約解除金は6000万ユーロ(約103億円)」とも噂されているだけに、日本人最高額の勲章を中島から奪い取るかもしれない。

「どうなるかはわからないんです」

 開幕節のバレンシア戦で同点ゴールを決めたあと、移籍に関して久保は言葉を濁した。ただ、ステップアップの時を迎えていることだけは、誰の目にも明らかだ。

 ブライトンの三笘薫にも、日本人最高額の可能性がある。市場価格は4000万ユーロ(約69億円)。クラブが設定した移籍金は1億750万ユーロ(約185億円)だという。2021年にフロンターレ川崎から獲得した際は300万ユーロ(当時約4億円)だった。三笘の価値は4年間で約36倍にも膨れ上がっている。

【将来は1億ユーロの日本人も】

 1億ユーロを超える高額を支払えるクラブは限られる。

三笘は「移籍するならレベルが高いリーグ」とつねづね語っている。彼のポジションは左ウイングで、バイエルンとリバプールの補強ポイントでもある。両クラブの資金は潤沢だ。

 ヨーロッパにチャレンジした日本人選手が、次々と爪痕を残している。久保や三笘、堂安、佐野をめぐり、高額の移籍金がやり取りされる時代が徐々に近づいてきた。

 冨安健洋はひざの故障でアーセナルとの契約を解除したが、市場価値1800万ユーロ(約31億円)はフリートランスファーのなかではナンバー1だ。「健康体なら3500万ユーロ(約60億円)」との評価もある。日本人として誇らしい。

 日本フットボールのレベルは確実に上昇している。近い将来、「1億ユーロの男」が現れたとしても、決して不思議ではない。

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