現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
レアル・ソシエダは今季開幕から2試合続けて引き分けるも、久保建英は好プレーを見せている。
今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏が、新シーズンの久保のベストポジションおよび、去就の噂が頻繁に出ることについての見解を示した。
【右ウイングから中に切り込む】
ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)における久保の理想的なポジションについては、一定の議論が存在する。エスパニョール戦後、彼自身にその質問が投げかけられた。
「チームが僕をサイドで必要とするならサイドでプレーするし、中で必要とするなら中でプレーする。すべては勝ち点を積み重ねるためだ。状況次第でどちらのポジションがいいか変わってくる。僕が今季望むのは数字を残すこと。そのためには中でプレーするほうがいいだろう。でも僕たちは今日、中でスペースを作るのに苦労した。そんな日はサイドでドリブルを仕掛け、その後、中に入り込んで逆サイドの優位性を探るのも悪くない。チームが求めることをやるだけだ」久保はラ・レアル加入後、常に右サイドでプレーしてきたわけではない。前監督のイマノル・アルグアシルがマルティン・スビメンディ、ブライス・メンデス、ミケル・メリーノ、ダビド・シルバを中盤に、アレクサンダー・セルロートを前線に配置した中盤ダイヤモンド型の4-4-2では、セカンドトップとして活躍したこともあった。
セルヒオ・フランシスコ新監督が、今夏のプレシーズン中に使用する可能性を示したこのシステムを復活させた場合、久保はセカンドトップだけでなく、トップ下として起用される可能性もあるだろう。そこは開幕のバレンシア戦でゴラッソを決めた位置であり、より多くの数字を残すのに適していると宣言したポジションだ。
しかしそこは、ブライス・メンデス、ミケル・ゴティ、アルセン・ザハリャン、ルカ・スチッチ、さらにはミケル・オヤルサバルと、最も多くのライバルがいるポジションだ。
今のところ、ラ・レアルでの久保のベストポジションは中に切り込む傾向がある右ウイングだ。よく知られた選手に例えるなら、バルセロナ時代のリオネル・メッシのような存在だろう。
久保の役割は依然として重要であり、危険なエリアでの自由な判断が許されている。今季開幕からの2試合はともに右サイドからスタートしたが、攻撃の全エリアを動き回る姿が確認できた。常に複数のマークがつくため、サイドでドリブルを多用せざるを得ないが、それは監督の指示というよりも試合展開によるものだ。
また、久保が言う「チームメイトを助けるために1対2の不利な役割を担う」という点について、彼は明確に理解して取り組んではいるものの、さらに磨きをかける必要があるだろう。
セルヒオ・フランシスコは「前線の選手たちが連係してプレーすることを望んでいる」と公言している。これはウイングが頻繁に中に入るプレーを明確に求めており、それは久保にとって有利な状況だ。例えば、バレンシア戦のゴールシーンでブライス・メンデスとポジションを入れ替えたことからもそれが伺える。
【久保の人気を利用しようとする者がいる】
欧州カップ戦の出場権を逃した失望感や監督交代に伴う不透明な状況から、昨季終盤から現在に至るまで、久保の今夏移籍の可能性が度々報じられてきたが、サン・セバスティアンでは現在、ラ・レアルを離れる可能性は極めて低いという見方が強い。
ラ・レアルがどのクラブとも交渉するつもりがないという点で、久保の状況は他の選手と大きく異なっている。その理由は、ラ・レアルが彼の移籍によって得たキャピタルゲイン(購入価格と売却価格の差による収益)の50%をレアル・マドリードに支払わなければならないためだ。
さらに、久保は優秀な選手であり、メディアの注目を浴びているが、彼の成績はまだビッグクラブが6000万ユーロ(約102億円)を支払うほどの水準には達していない。機会がある度に自らも話しているように、ゴールやアシストを記録するという点を向上させる必要があるのを自覚している。それを達成できれば、彼はどのクラブにとっても魅力的な選手となり、その時にはラ・レアルが引き止めるのは非常に難しいだろう。
久保は母国で熱狂的な人気を誇っているという点でもメディアの話題になっており、それを利用しようとする者もいる。ラ・レアルを知る誰もがこの状況をよく理解しているにもかかわらず、久保の去就に関する噂が毎月のように流れている。
フェイクニュースが蔓延し、そのような情報を鵜呑みにしている人たちがたくさんいるこの時代において、全くプロ意識のない扇動的なウェブサイトが騒ぎ立てることで注目を集めている。なかでも『FICHAJES.COM』、『EL NACIONAL.CAT』、『GOL DIGITAL』といったウェブサイトは信ぴょう性に欠けるだけでなく、アクセス数を稼ぐため意図的に久保のフェイクニュースを流し続けている。
一方、スペインやイギリスの専門メディアが、久保に対して複数のクラブが興味を示していると報じたのも事実だが、それ以上の進展はない。なぜなら情報を掘り下げていくと、ジャーナリストたちは6000万ユーロ以下で移籍が成立しないと気づくからだ。
リバプール、バイエルン、パリ・サンジェルマン、アトレティコ・マドリード、エバートン、トッテナムなどのクラブはその資金を持っているが、ゴールやアシストでより具体的な貢献ができる選手、あるいはより価値が高い選手に投資することを好んでいる。
また、久保の前の代理人は常に彼の移籍を画策していた。久保は先日新しい代理人事務所と契約を結んだばかりだが、彼らも移籍市場で探りを入れている。
【エスパニョール戦でも確かな貢献】
久保建英はやはり久保建英だ。ラ・リーガとレアル・ソシエダのスター選手であり、その存在だけで相手チームの混乱を招くことができる。今季のホーム開幕戦となったエスパニョール戦ではベストパフォーマンスを発揮できなかったが、チームが攻勢を強めた時、確かに貢献していた。
セルヒオ・フランシスコは試合後、久保についてこう話している。
「タケは前半、特に立ち上がりがとてもよかった。姿をくらますことなくボールを求めている。前線の選手たちにはもっとゴールに近い位置でプレーしてほしい。なぜなら彼らが関与すれば何かが起こり、ゴールに近づけるからだ」
ラ・レアルは最初の10分間で相手を大きく上回り、目まぐるしく展開するなかで久保が右足で最初のチャンスを掴んだ。そして後半11分に最初の選手交代を行なったあとはさらに組織化され、攻撃に専念し2-2 の同点に追いついたのだ。
久保はフル出場するも得点やアシストはなかったが、キーパス4本、クロス3本、被ファウル5回(※実際にはPKの可能性があったものを含め、流されたファウルがいくつもあった)を記録し、好プレーを披露した。
久保は試合後、いつものように自己批判してよりよい結果を出すことを求め、チームには方向性を見失っていた、0-1の失点から選手交代までのパフォーマンスを改善するように要求した。
「前半の内容を除けばかなりよかった。僕たちはさまざまな形でうまく対応しているが、2試合ともリードを許したのは好ましいことではない。あまりにも簡単にやられた0-1の失点は本当に腹が立った。僕たちにもいくつかのチャンスがあったのに、何の変哲もないカウンターで攻め込まれてゴールを決められたことで、メンタル面が少し落ち込んでしまった。僕たちは若いチームなので、その点を修正する必要がある」
さらに久保は、次のように目標を語った。
「今季はもっと責任を負ってより主役を演じ、周囲の期待に応えられるように努めたい。今日は特に後半、チームに貢献するために少し下がってプレーを生み出し、チームメイトに有利な状況を作るため1対2の不利な役割を引き受ける必要があった。1点目も2点目もそうなったし、もし僕がそのような形でチームに貢献できるなら最高だ。昨日、(今季からアーセナルに移籍した)スビメンディの話を聞いたけど、彼は昨季、主力選手が移籍したことで、ラ・レアルでその役割を担わなければならなかったと言っていた。今季は自分の番だと思う」
髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)