8月27日午前10時(現地時間)、マドリード郊外に位置するレガネスの練習場の門が開かれると、平日にもかかわらず、レガネスB(5部)対ラージョ・マハダオンダ(4部)のプレシーズンマッチを観戦に訪れた熱心なファンがスタンドを埋めていく。

 スタンドの反対側にあるロッカールームから、両チームの選手たちが姿を現わすと、スタンドからはひとしきり大きな拍手が送られた。

その拍手の先には、今季からレガネスBに所属することになった中井卓大の姿もあった。

 かつて柴崎岳鹿島アントラーズ)も在籍したスペイン2部のレガネスが、6月末でレアル・マドリードとの契約が終了していた中井卓大の獲得を発表したのは8月21日。ただし登録されたのはセグンダ(2部)を戦うトップチームではなく、リザーブチームとなるレガネスBで、今季の主戦場は5部、テルセーラ・フェデラシオン(3aRFEF)のグループ7となる。

【現地レポート】中井卓大、レガネスBで初先発し勝利に貢献 ス...の画像はこちら >>
 新監督のもとでプレシーズンマッチを重ねてきたレガネスBは、この試合までの4試合で3勝1敗。うち2試合は格上である4部のチームから勝利を挙げていた。新監督がチームをうまく率いていることの表われだろう。それは加入が遅くなった選手にとってもチームに溶け込むうえでマイナスに作用しない。

 すでに8月23日の試合で後半途中から加入後初出場を果たしていた中井は、以前、レンタル移籍で在籍した古巣でもあるラージョ・マハダオンダが初先発の相手となった。序盤は主力組を減らしていたラージョ・マハダオンダに攻め込まれる場面も多かったが、危ない場面を何度かしのいだレガネスBは、給水タイムで監督から受けた指示が功を奏し、一気に試合を盛り返し始めた。

「試合前には60分と言われていた」(中井)出場時間だったが、70分まで出場。交替前には得点も生まれ、そのままラージョ・マハダオンダの反撃を抑え込んだレガネスBがプレシーズンで3つ目の"金星"を獲得した。中盤底2枚の左側を受け持った中井も攻守に機能し、チームの勝利に貢献した。

【レガネスBの最大のメリット】

 5部にあたる3aRFEFは全18グループ(17の自治州ごとにグループがあるが、スペインの飛び地を含むアンダルシア州は2グループ)からなり、各グループがそれぞれ18チームで構成されている。あえて日本のサッカーカテゴリーに当てはめると、各地域の1部リーグ(関東リーグなど)に相当する。プレー環境はさまざまで、地域やグループによって差はあるが、例えば3aRFEFだと人工芝のピッチを使用するチームが多くなる。レガネスBは天然芝のピッチ(トレーニング施設内のスタンド付きピッチ)を持つ数少ない例外だ。

 3aRFEFはセミプロリーグという位置づけになるが、それはどういうものなのか。ひとつ下のカテゴリーになるが、6部のクラブ(コスラダ)でアナリストを務めている一戸隆太氏に「リアルな話」を聞いた。

「スペインは我々のような6部のチームでも、フルタイムの契約を結ぶごく限られた一部の選手を除くと、仕事や学業に就きつつ、基本給+インセンティブ(出場、勝利、ゴール給など)、さらにチームや選手によっては住宅補助があるなどの、日本でいうセミプロとして契約を結ぶのが普通です。5部の3aRFEFなら、日本で地域リーグに参加している純粋なアマチームはないでしょう。チームのオーナーやスポンサーの金回りがよければ、6部のチームのほうが5部のチームよりも実質の給料が高い場合もあるし、昇格するために上位のカテゴリーから選手を引き抜いてくることもあります」

 そういう面では、選手・チームともセミプロという範疇に収まらず、実にプロ的だ。

 一方、一昨シーズンまでレガネスの下部組織で指導者を務めていた伊藤弘太氏(今季はアラバカBの第2監督)は次のように語る。

「レガネスBも他のプロクラブ同様、基本は23歳までに芽が出なければそれ以上の契約は更新せず、放出・移籍です。3aRFEFは外国人枠の問題はありませんが、1チームの登録人数の上限は決まっているので、23歳を待たずに解雇や移籍させることも当然、あります」

「リーグ戦を戦うにはチーム全体の継続性が不可欠ですが、ケガなどでトップの人手が足りなくなると、シーズン中でも選手を引き抜かれるのがリザーブチームの宿命です。

今季のレアル・ソシエダBのように2部まで上り詰めるリザーブチームもありますが、結局は定着できず、翌シーズン降格する理由のひとつです。ただし、それらの問題はリザーブチームの最優先事項である『トップへの人材供給』という命題の前では些末なことです。

 最大のメリットはすぐ目の前に『トップチームへの扉』があることです。他の町のクラブがいくら好条件の契約を用意できたとしても、これだけは絶対に用意ができません。実際にチームを率いていても、素材はよくても巡り合わせが悪くてカテゴリーを落としてきた選手が機会を得て、また飛躍していくケースがたくさんありました。

 日本での声を見ていると否定的なものも見受けますけど、いきなりトップに昇格してすぐに定着できるのはほんのひと握り。リーガは甘くないです。キャリアの上下がありつつも、そこで経験を積んで、23~24歳で頭角を現わすというのはごく普通のこと。中井選手もここで経験値とチャンスをつかんでほしいですね」(伊藤氏)

 スタンドには観客に混じり、スカウトとおぼしき姿も多く見受けられた。夏の移籍市場はまだ閉まっていない。この試合で出場していた選手が、ここから移籍ということもあり得る話なのだ。中井には、このカテゴリーの試合であっても市場の一端を担っているということを意識して、レガネスBで研鑽を積んでもらいたい。

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