仙女 ゼビオアリーナ仙台大会 後編

(前編:21歳になった元「中学生レスラー」愛海が語る葛藤と今後「自分も仙女を引っ張っていく力になりたい」>>)

 センダイガールズプロレスリングがゼビオアリーナ仙台でのビッグマッチ開催を発表した時、私の胸に浮かんだのはひとりの選手の顔――愛海だった。里村明衣子引退試合のタッグパートナーに抜擢されるほど期待されながら、今ひとつ殻を破れずにいる。

 ゼビオアリーナ仙台大会でも、試合順は第2試合。彼女は「第2試合で何を任されているか、考えなきゃいけない」と淡々と語った。その言葉には、位置づけに甘えない意志がにじんでいた。私は、決戦の日にどんな姿を見せるのかを確かめたいと思った。

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【クラウドファンディングで18歳以下は入場無料に】

 8月24日、大会当日。仙台市の予想最高気温は36℃。朝から猛暑となり、最寄りの長町駅から会場に着くまでに汗だくになる。13時30分開場だが、10時30分の時点ですでに仙女Tシャツを着たファンをちらほら見かけた。

 会場の外では、小さな出来事があった。長蛇の列に逆行するように、大会に出場する黒潮TOKYOジャパンが男の子と一緒に走ってきたのだ。「この子、高校生なんだけど、チケットを持ってなくて」と、スタッフに声をかける。

 仙女は7月1日から1カ月間、18歳以下の子どもたちに特別無料招待枠900席を設けるため、クラウドファンディングを行なった。目標金額300万円に対し、集まった支援金額は534万7000円。

「世界に挑む女性たちの闘いを通じて、感動、興奮、そして苦難に立ち向かう勇気のすばらしさを、東北の未来を担う子どもたちに伝えたい」――。仙女のその思いは、確かに届いた。

 黒潮は男の子をスタッフに託したあとも、しばらく遠くから見守っていた。スタッフが対応するのを確認し、急いで会場に戻っていく。その光景を目にした私は心が温かくなり、大会への期待が高まった。

 会場に入ると、すでに設営は終わっていた。想像を遥かに超える広さを前に、4年前の後楽園ホールの光景が蘇る。南側のオレンジシート――空席が悲しいほどに目立った。またあの時のような状況にならなければいいが......。

 リングの隅では愛海がじっと動かずにいた。岡優里佳が激しいロープワークを繰り返す傍らで、ロープに頭をつけ、精神統一しているようにも見える。声をかけようか迷ったが、その静けさを壊すことはできなかった。

【突然の試合中断。ピンチをチャンスに】

 開場時間を過ぎると、どんどん客席が埋まっていく。大会が始まる頃には、空席はほとんど見えなくなった。4年前の後楽園ホールを見たファンは、万感の思いで見守ったことだろう。のちに発表された観客動員数は、3920人。収容人数約4000人のゼビオアリーナを、ほぼ埋め尽くしていた。

【女子プロレス】悔し涙の後楽園ホール大会から4年 ファン激増の仙女が地元で浴びた大歓声
約4000人収容の会場は観客でいっぱいに photo by センダイガールズプロレスリング

 緊張感が漂うなか、大会が始まった。ピンクのスーツに身を包んだ里村明衣子がリングに上がり、「宮城県で女子プロレスの時代をつくる」と挨拶すると、会場の空気は一気に熱を帯びる。

 第1試合は、ウナギ・サヤカ&岡優里佳 vs なつぽい&スターライト・キッド。華やかな入場、スピード感ある攻防で観客の視線をさらい、会場は徐々に温まっていった。

 そして第2試合、愛海の登場だ。バブルを思わせる入場曲『Twilight Zone』が流れると、オレンジの扇子を振りながらノリノリで現れる。

お決まりの「フォー!」のポーズを掲げ、リングサイドを一周。観客を巻き込む力は彼女の持ち味だ。

 だが、ゴングが鳴る前、タッグパートナーのセイディ・ギブスが突然コーナーにうずくまった。異変に気づいた愛海は不安げに駆け寄るも、すぐに客席へ向き直り「いくぞ、仙台!」と声を張り上げる。

 セイディはジャンプの着地で膝を痛めたようで、試合は中断。選手は退場し、観客の間には「どうなるんだ」というざわめきが広がった。その後の試合が進むなかでも、会場の空気は落ち着かなかった。

 第2試合はもう行なわれないのではないか――。そんなあきらめが漂い始めた頃、リングアナウンサーのムーチャス入江が告げた。

「第2試合は、第5試合として行なわれます。愛海のタッグパートナーは、岡優里佳!」

 大歓声が起こった。2試合目の登場となる岡への期待が爆発したのだ。

思わぬハプニングで、選手たちの力量が試される場面となった。

 第5試合、愛海&岡優里佳 vs Chi Chi&スパイク・ニシムラ。急きょ組まれた即席タッグだったが、そんな不安を吹き飛ばすように、試合は最初から明るく弾んでいた。愛海が声を張り、岡が勢いよく飛び込む。相手チームもテンポよく応じ、攻守が入れ替わるたびに歓声が高まった。

 本来なら、練習を積み重ねてきたパートナーシップが求められる場面だろう。だがこの日、愛海と岡は互いの動きに自然と呼吸を合わせ、試合を途切れさせることなく観客を惹き込んだ。Chi Chiとスパイクも、それぞれの持ち味を発揮し、会場をさらに熱くした。その光景に、私はただ感嘆した。プロレスラーは、予定外の状況すら力に変えてしまうのだ。

 最後は愛海が渾身の「フォー!プレス」で会場を揺らし、試合を締めた。拍手と笑顔が場内を満たし、明るい余韻を残した。

 試合後、スパイクが「仙女に入ります」とマイクで宣言。里村から赤いジャージを受け取ると、観客の拍手がさらに大きく広がった。新しい物語の幕開けを感じさせる瞬間だった。

【「女子プロレス観に行きたい」って、恥ずかしくない】

 第6試合、アジャコング&DASH・チサコ vs 世羅りさ&葉月。凶器が飛び交い、場外での乱闘も辞さないハードコアマッチ。パイプ椅子の軋(きし)む音や、テーブルが割れる鈍い響きがゼビオアリーナに広がるたび、観客が息を呑んだ。誰ひとりとして引かない闘いのなかで、仙台出身のチサコが場内を大きく沸かせた。ラダーのトップからダイブする姿に、「チサコ!」の声援が飛ぶ。凶器を使いながらも決してブレない気迫が、地元ファンの心を掴んでいた。

 続くセミファイナルは、岩田美香 vs Sareee。仙女のエース格として期待を背負う岩田と、女子プロレス界で圧倒的な存在感を放つSareeeの一戦は、緊迫感のある攻防が続いた。岩田は激しい蹴りで攻め立てるが、最後はSareeeがリストクラッチ式裏投げで勝利を収める。

会場には、驚きと納得と、そして岩田が負けたことへの悲しみが広がった。

 その直後だった。リングに姿を現したのは愛海だった。マイクを握り、体は震えている。唇を噛みしめながら、彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。

「先輩が......あんたに負けて......悔しいんだよ。この悔しさ、必ず力に変えてやるよ。次のビッグマッチ、私とシングルやれよ!」

 一瞬の静寂。すぐに場内がどよめいた。誰かに真正面から立てつく愛海は見るのは初めてだった。9月23日、仙台サンプラザホールでのSareeeとのシングルマッチが決定。若い力が、大舞台で新しい挑戦に踏み出すことになった。

 大会を締めくくったのは、タッグ王者・チーム200キロ。橋本千紘と優宇がVENY&レナ・クロスを退け、貫禄の防衛を果たす。分厚い攻防をねじ伏せるように勝ち切った姿に、王者の存在感が際立った。最後に橋本がマイクを握り、会場の熱をさらに押し上げる。

 そして、DASH・チサコが目に涙を浮かべながら観客に語りかけた。

「『女子プロレス楽しい、観に行きたい』って、恥ずかしくないから。みんなで『好きだよ、好きだよ』って言って、また絶対来てほしいんですよ!」

 その言葉に、すべてが込められているような気がした。

【女子プロレス】悔し涙の後楽園ホール大会から4年 ファン激増の仙女が地元で浴びた大歓声
試合後、観客の拍手や声援に応える仙女の選手たち photo by センダイガールズプロレスリング

 私が「女子プロレスが好き」と口にすると、「女性が好きなの?」と言われることがある。男性が言えば「水着の女性が好きなの?」と茶化されるのかもしれない。そんな現状を、仙女は打ち破りたいのだろう。女子プロレスを観ることは、恥ずかしいことなんかじゃない。カッコよくて、尊くて、すげえことなんだと、彼女たちはこれからも伝え続けていくに違いない。

 来年7月12日、ゼビオアリーナ仙台でのビッグマッチ再開催が発表された。東京のより大きな会場に進出することも大事だが、彼女たちにとって、この仙台で闘い続けることにこそ意味がある。

 会場を埋め尽くす観客の拍手が重なり、声援とともに仙台の夜は幕を閉じた。

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