『フレンズ・オン・アイス』レポート後編
【まさにラスボスの演技】
8月29日、横浜。アイスショー『フレンズ・オン・アイス』の公開リハーサルが行なわれている。
後半の冒頭、ひとつのクライマックスがいきなり訪れる。
「『オペラ座の怪人』は今までたくさんのスケーターが演じてきましたが、私は大ちゃん(高橋)のファントムが好きで。彼は若い時からシングルでもやって、アイスダンスの最後でもやって。そうした時を経て、今回もやってもらって、貫禄もあって、まさに"ラスボスが来た"って感じなんです」
荒川はそう言って、今回の『オペラ座の怪人』のコラボに胸を張った。高橋にとっては、シングルからアイスダンス、そして今回のグループナンバーとまさに運命的なプログラムと言えるだろう。
「今年も気持ちよくやらせてもらっているんですが、3回目(の『オペラ座の怪人』)をするとは思っていなかったです(笑)。それぞれの個性がすごくよく出ていて、見たいなって思いますね。(自分が)出ずに見たいなって」
高橋は正直な感想を口にした。集合体になり、世界観が深まっているのだろう。
もしかすると、「かなだい」と言われた村元と高橋の物語の続きを目の当たりにするような錯覚に陥るかもしれないーー。
【期待の新カップルにかなだいも太鼓判】
「今回のコラボナンバーはすべて魅力的ですが、『オペラ座の怪人』の続編に関してはとくに......」
村元はそう言って、熱っぽく語っている。
「荒川さんから最初にお話を聞かせてもらった時から、『Love Never Dies』がこういう形でつながっていくんだ、というのがわかってきて。作っていくなかで、ファントム、クリスティーヌの気持ちを、それぞれが表現できるようになっているんですが、皆さんにどう思ったか、感想を聞きたいです! 現役の時の衣装をまた着るとは思っていなかったので、入るかなって心配しましたが(笑)」
このグループナンバーは、新たにカップルを組んだ櫛田育良&島田高志郎にも"デビュー"の機会を与えている。初めてのアイスダンサーとしての演技だったが、かなだいの存在で勇気づけられるのか。堂々とした演技で、ふたりとも長身で手足が長いダイナミックさも出ていた。
「自分は彼らを見守るというよりは、素敵だなって見ていました。僕がアイスダンスを始めた時は大丈夫かなと思われていたでしょうけど、彼らは安心感があって、すごいと思います。これからどんどん素敵になっていくんだなって勝手に誇らしい気持ちで一緒にやっていました」
高橋は彼らしい言葉を用い、後輩にエールを送っている。
村元も、それに声を重ねた。
「今回のソロナンバー(『Faith』)も、かなだいで作らせてもらっているんですが、作った時から練習で初めて通しをやって、上達がすごく早くて驚きました。『オペラ座の怪人』でも一緒にリフトをする場面があるんですが、大ちゃんと『向こうのほうが上手じゃない?』って焦っちゃって(笑)。
【芸術的な影響を受け合う関係性】
かなだいの存在が、櫛田&島田のふたりにどれだけあと押しになっているか。
「本当に光栄な言葉をいただきまして......自分たちは(アイスダンスを)はじめたてで、できないことも多いですが、できるようになりたいとは思っているし、かなだいの演技を見ると、これをやりたい、とどんどん増えて。いろんなことができるアイスダンサーになりたいと思います」
島田はそう言って、かなだいに感謝しながら櫛田に視線を送り、小さく笑みを洩らした。
翻って、高橋の表現力の影響を一番受けているのが、カップルを組んでいた村元かもしれない。ふたりはアイスショーでも共演を重ね、芸術的な影響を受け合っている。今回、高橋のソロの振り付けでも、村元がアドバイスしていたという。
村元がソロで滑った『Ramalama』は出色だった。氷上で動き出す人形を演じているが、本当に操られているような不思議な体の動きに見えた。音に合わせて踊るうち、狂気の世界に誘い、魔法が切れたように人形に戻る。数分間で、印象的なドラマを演出していた。
「曲はジェレミー(・アボット)に作っていただきました。去年、彼のプログラムを見て、ユニークだなと思ったので、お願いしたらタイミングが合って。テーマは奇妙な人形が踊るんですが、そこがクレイジーで。作っている過程が楽しくて、衣装もすごく凝ったデザインなので注目してほしいですね」
『オペラ座の怪人』の続編を軸に、各スケーターの人生が重なり合う。それは幻想的だが、リアルな世界である。19回目の開催となる『フレンズ・オン・アイス』で浸る恍惚の時間だ。
公演は8月31日まで行なわれる。
終わり
前編を読む>>