8月23日、2025バレーボール女子世界選手権(世界バレー)が開幕した。女子日本代表は、1次リーグ初戦でカメルーンにストレート(25-21、25-17、25-19)で勝利すると、ウクライナには2セットを取られたあと、逆転でセットカウント3-2(25-27、20-25、25-20、26-24、15-11)と勝利を収め、世界バレーを連覇中のセルビアにも3-1(25-23、30-28、23-25、25-18)と競り勝った。
そして29日、日本は決勝トーナメント1回戦でタイと戦い、ストレート(25-20、25-23、25-23)で勝利している。ディフェンス力が高く、ホームの歓声を味方に粘る相手に苦しんだが、最後は力の差を見せつけた。4連勝でベスト8に勝ち進み、破竹の勢いだ。
パリ五輪で古賀紗理奈が引退し、女子バレーの今後を憂える声もあった。しかし、今や着実に人気を集めつつある。何より明るいチームで、勝利を積み重ねる姿は眩しい。
新たな代表チームで台頭を見せるのが、佐藤淑乃(23歳、NECレッドロケッツ川崎)だ。
昨年開幕したSVリーグで、佐藤はアウトサイドヒッターとしてNECレッドロケッツ川崎を準優勝に導いている。最優秀新人賞とベスト6 (アウトサイドヒッター)のダブル受賞。総得点は895点で年間3位。上位6人はほかにイタリアやブラジルといった各国代表の有力スパイカーばかりで、どれだけ突出した成績かわかるだろう。
「"攻める"という姿勢で」
そう宣言して今大会を迎えた佐藤が、虎視眈々と「世界」と対峙している。
8月13日、都内。バレー日本女子代表は世界バレーに向けて準備を重ねていた。練習メニューを重ねるたび、表情も真剣さが増し、声も大きくなった。
そのなかでも佐藤は目立っていた。身長178cmは世界のスパイカーと比べるとむしろ低いほうだが、スパイクは雄壮に映る。跳躍力に優れ、手足が長く、得意のバックアタックは迫力満点だ。
男子大学生が入った練習はセルビア戦を仮想していた。強力な前衛(オポジットのティヤナ・ボシュコビッチ、ただし1次リーグはケガで欠場)を意識したゲーム形式だった。ディフェンスでは、強打とフェイントの両方に対応できるようなポジショニングや準備を細かいところまで磨き、修正を繰り返していた。アタックでは、ブロックを打ち抜く工夫をした。
【強豪と勝負してきたこの1年】
「ヨシノ!」
フェルハト・アクバシュ監督は佐藤の名前を呼んで、そのプレーを称えるように拍手を送っていた。
佐藤がレフトからは鋭い軌道のスパイクを打ち込む。
「練習のなかでもブロックをしっかり見て、打ち分けることはやってきましたね」
佐藤はそう言って、世界女王との戦いに向けても余念がなかった。彼女は3年前にも世界選手権を経験したが、当時から大きく成長を遂げていた。
「3年前の世界選手権を経験し、『もう一度代表で勝負したい』という思いがありました。ただ、当時の代表選手たちとは自分と比べて差を感じたし、Vリーグ(現在のSVリーグ)や世界で戦う選手たちと比べて、大学にいる自分の差が開いていく気がして、『もっと早く成長したい』と焦りました。でも、NECに入って想像した以上にいろいろな経験をし、成長できたと思っています」
今年のネーションズリーグ(VNL)でも、佐藤は大卒1年目としては上々のスコアだった。VNLのベストアタッカーズ賞では190点で4位(2位が和田由紀子の208点、3位が石川真佑の192点)、ベストサーバーズ賞でも5位だ。
「(VNLでは)世界でも、サーブは通じるなって思いました。個人的にはバックアタックも武器になっているかなって。どんな状況で入っても"攻める"って姿勢は出し続けることができました。課題は、前衛での攻め方のバリエーションで、すごく身長が高い相手、2メートルもある選手に対し、どう攻めるのか。
昨シーズン、佐藤は2024アジア女子バレーボールクラブ選手権優勝に貢献し、アジア女王として大会MVPに選ばれている。世界クラブ選手権にも出場し、イタリア、ブラジルの強豪と真っ向勝負を演じた。この1年、「世界」との遭遇を重ねてきているのだ。
その点、世界バレーでも彼女が活躍しているのは驚きではない。むしろ、準々決勝から先でその真価が問われる。1次リーグのセルビア戦は攻める姿勢は悪くなかったが、サーブの効果率(サーブの総合的な有効性を数式にあてはめた数値)はマイナス40%と低すぎた。メダルに近づくには、彼女のサーブはひとつのカギをとなるだろう。
大会前のインタビューで、日本女子バレーを背負ってきた木村沙織もエールを送っていた。
「石川選手と佐藤淑乃選手のふたりは、今までの代表のなかでも打ちきって得点にする力を持っているので期待したいです。ふたりともサーブがいいので、サーブで得点を取りにいけるのは頼もしい。今までは、点差がついてしまうとなかなか追いつけませんでしたが、石川選手、佐藤選手とサーブから得点できる選手がいるだけに、みんなで拾って頑張っていれば、それも不可能ではありません」
あとは、どこまで連戦を戦えるか。勝負が続くほど、消耗も激しくなる。
「自分たちのなかでもそこは課題に捉えていて。連戦が続いた時、全員の疲労がたまってしまうところはあります。そこで少しずつプレーにズレが出ているので、修正できるように」
佐藤が爆(は)ぜることで、日本女子バレーはさらなる脚光を浴びるだろう。
9月3日、決勝トーナメント1回戦で女王セルビアを下したオランダとの準々決勝はひとつの山場となる。