【現地レポート】
 日本女子バドミントンの期待の星、宮崎友花(19歳)。日本勢2番手となる世界ランキング8位で初出場した世界選手権(フランス・パリ)は、悔しさの残るベスト16敗退に終わった。

つかんだ手応えと課題、若きスター候補の戦いぶりを本人、コーチのコメントとともに振り返る。

【2回戦快勝後には、緊張から解き放たれた様子も】

 輝ける道にも、雲がかかるときはある。

 パリ開催のバドミントン世界選手権に初出場した19歳の宮崎友花(ACT SAIKYO)は、女子シングルス3回戦で敗退し、ベスト16の成績で戦いを終えた。宮崎は、柳井商工高3年生だった2024年12月に日本一を決める全日本総合選手権で初優勝。2028年ロサンゼルス五輪に向けた期待の星だ。社会人1年目の今季、少し調子を落としているなかで迎えた世界への初挑戦は、まだ続く苦しみとの戦いだったが、挑戦者の顔を取り戻せたようにも見えた。

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 1、2回戦は、どちらもファイナルゲームにもつれる接戦だった。1回戦は、世界ランク57位のネスリハン・アリン(トルコ)に2−1の逆転で辛勝。180センチの長身選手を思うように崩せずに苦労した。リードをすれば思いきりのよい攻撃が光るものの、少し追い上げられると表情に余裕がなくなる――その繰り返しだった。初の大舞台、初戦、シードで負けられない立場といった様々な緊張感を背負ったからか、ぎこちなさは否めなかったが、どうにか切り抜けた格好だ。

 2回戦は、第3ゲームで完勝。試合後は、漫画とアニメで人気の「進撃の巨人」に登場する「心臓を捧げよ!」のポーズで記念写真に収まるなど、緊張から解き放たれた様子を見せた。

 3回戦は、7月のダイハツジャパンオープンで敗れたプトリ・クスマ・ワルダニ(インドネシア)との再戦に。前回は速い球を低く打ったところ、手足が長い相手にカウンターで捕まった。今回は高く打ち上げる球を使い、コートを大きく使うラリーを試みたが、空調の影響が強い会場ではコントロールが定まらず、バックアウトなどで失点。相手の後方をうまく使えず、ネット前へ落とす球を狙えば、相手に予測されて質のよい球を返された。

 第2ゲームは、昨年12月から使わなくなっていたフォアハンドサービスなどで流れを変えようとしたが、12-21、8-21と、どちらも中盤以降に突き放され、0-2のストレートセットで敗れた。

「今回は、結果というよりも自分の試合(内容)を重視していたので、一昨日、昨日と内容の濃い試合をできてすごくよかったです。けど、終わり方がすごい残念でした」と宮崎は世界選手権での戦いを振り返った。3回戦も苦しい場面から追いつき、競り合うところまで持っていければ、手応えも得られたのだろうが、負け方に不満を示した。

【「だんだん自分のプレーを取り戻してきた感じ」】

 若くして世界の第一線に踏み込んだ宮崎には、肩書きと期待がついて回る。若き全日本女王であり、ロサンゼルス五輪の星である。世界ランク8位(8月26日更新時)であり、どの大会でも上位候補の一角だ。

 ただし、ノーマークだった少し前とは異なり、世界の強豪から警戒され、研究されている。急速に躍進し、より強い相手に勝ちたい、より大きな大会を勝ちたいと欲が出る時期だが、勝利は以前より難しくなっている。

期待値と現在地のギャップが広がるようだと、苦しくなる。その点、格付けだけを考えれば、もっとスムーズな勝利が期待される1、2回戦で、思うようにいかなくても我慢強く戦えたのは光明だ。

「体力的にきつくなるので、2ゲームで抑えたい気持ちもありましたけど、やっぱり1日の試合を頑張りたいというのが目標です」と、宮崎は2回戦後に話していた。

「だんだん、自分のプレーを取り戻してきた感じ。自分の中でのよいプレーには、まだまだほど遠いけど、本当に悪くて迷っていた時期よりも、今日はすごく、よい方向に成長できているかなと感じました」

 より早く、より高く躍進する宮崎の姿を期待する人は、少なくない。もしかすると、上位に進めていない6月以降の状態は、停滞や伸び悩みに見えるかもしれない。だが、それもステップアップに必要な経験なら受け入れ、乗り越えるしかない。

 宮崎はこれまで足早に成績を伸ばしてきた。高校3年の2024年に日本A代表に昇格。同年3月にオルレアン・マスターズでBWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアー大会を初優勝。9月の香港オープンでは、もうひとつ格上のスーパー500で4強入りし、さらに最上級スーパー1000の中国オープンで準優勝している。

 2024年1月に39位だった世界ランクは、今年1月に7位まで上昇。

国際的にも注目される存在となった。勢いは今年序盤も続いていたが、6月以降はシード同士の対決にたどり着かず、思いきったプレーが影を潜めていた。優勝を目標に掲げた7月のダイハツジャパンオープンも、2回戦敗退だった。世界選手権に関しては「ひとつの大きな大会とは考えているんですけど、まだまだ結果も出していない。すごく大事な大会と思いすぎるのもよくないというか、自分自身にプレッシャーをかけてしまう。とりあえず、1試合1試合、頑張りたい」と直前合宿で話していた。

【持ち味はスピードとオーバーハンドショットの打ち分け】

 手法を変えて臨んだ世界選手権は、地道にひとつの試合を勝つことの難しさと大切さを実感する大会になった。コーチ席からアドバイスを送っていた、ACT SAIKYOの武下利一ヘッドコーチは、精神的な影響がコートでどのように出ているかを見ていた。

「ここ数大会、あまりよいイメージを持てていないまま、この大会に入ってきた。正直、よいパフォーマンスを出すのは難しいと思っていたけど、1、2回戦では少し違ったプレーが出てきた。本来のよいプレーにはまだ遠いけど、自分の動きのよさを思い出せる部分、きっかけになる部分があったと思う」

 宮崎の最大の持ち味は、オーバーハンドショットの打ち分けにある。強打、強打と見せかけて手前に落とす柔らかい球、それを警戒させておいて、相手コートの後方へ球を送り込むクリア。

相手の思惑を外して前後へ揺さぶるラリーが真骨頂だ。しかし武下ヘッドコーチは、打ち分けの前段階の問題を指摘する。

 より強い相手を攻略しようと配球を考えるあまり、打ち分けのうまさに頼ったラリーになっていることが、逆に相手の予測範囲に収まって先手を取れない現象が起きているという。持ち味であるスピードを生かし、まずよい体勢を整えてショットへの入りを早くすることで、相手から見えるこちらの選択肢が増えて反応を遅らせ、得意とするオーバーハンドショットの打ち分けが、輝きを取り戻すという見立てだ。

 より早く準備ができれば、相手を見る、フェイントをかける、タイミングをずらすといった駆け引きを、多く含めることができて優位になる。当たり前のことではあるが、球への入りというのは難しいもので、トップ選手であっても「入れているつもり」の感覚になることがある。この大会の直前にも、前回の世界選手権で男子シングルス銀メダルの奈良岡功大(NTT東日本)や、女子シングルスで世界選手権2連覇の実績を持つ山口茜(再春館製薬所)が、そうした感覚に言及していた。より高いレベルへ進み、新たな配球、駆け引き、勝ち方を覚えていく一方で、忘れてはならない基本の重要性は不変だ。

 ただ、理屈だけで手応えや自信は得られない。復調、あるいは殻を破っての進化――。どちらにしても、先へ進む実感は、勝利でしか得られない。自身も周囲も大きな期待を持っているなか、上位進出が難しい時期と向き合うのは大変だ。

しかし宮崎は、期待と現実の歩調を合わせ、次の一歩を踏み出そうとしている。先を見すぎて好結果だけを望むことなく、目の前の1勝、1球を取りに行く。挑戦者としての顔を取り戻して。

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