現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
久保建英はラ・リーガ第3節のオビエド戦で先発を飾るも後半途中に交代し、チームはシーズン開幕から3試合連続未勝利となった。
今回はレアル・ソシエダの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』に2005年の創刊当時から在籍し、同クラブの番記者を務めるマルコ・ロドリゴ記者に、久保のポジションや新たな役割、オビエド戦のパフォーマンスについて言及してもらった。
【中でのプレーは日本代表のニーズと合致する】
今季の久保建英はサイドを離れ、より内側のエリアでプレーするようになったことでいいパフォーマンスを見せているものの、現時点ではレアル・ソシエダの勝利につながっていない。
"新たな久保"を擁する"新生ラ・レアル(※レアル・ソシエダの愛称)"は、まだ調子が上がっていない。監督交代や夏の移籍市場で大きな変化のあったチームが、ラ・リーガ開幕3試合で獲得した勝ち点はわずか2。
久保個人に目を向けると、過去2シーズンの定位置であった右サイドから、より中央寄りのエリアでプレーすることが多くなり、求められる役割のなかでベストを尽くしている。ただ、個人として好調なスタートは切れているが、チームが勝利を収めるための役割を果たすまでには至っていない。
振り返ってみよう。久保は2022年夏、4-4-2のシステムを採用したイマノル・アルグアシル前監督率いるラ・レアルに加入した。プレシーズンの親善試合で中盤ダイヤモンドの頂点、すなわちトップ下の攻撃的MFとしてプレーしたが、そのポジションはダビド・シルバのために確保されていた。
そのため、シーズンが始まると久保はアレクサンデル・セルロートとFWでコンビを組むことになった。ふたりはよく補完し合い、そのコンビネーションは実を結んだが、そのシーズンの終盤、そして過去2シーズンにおいてイマノルは戦術を変更した。
ラ・レアルは4-3-3のシステムを採用するようになり、久保のプレー範囲は大幅に狭められた。彼は右サイドに張りつき、サイドでボールを受け、相手を抜き去らなければならなくなった。当初はそれがうまくいっていたが、時間の経過とともに相手の警戒が強まり、状況は変化していく。
セルヒオ・フランシスコ新監督の就任は久保に大きな変化をもたらしている。今季開幕後も彼のポジションは変わらないが、その動きは彼をまったく異なる役割を担う選手へと変貌させている。
現時点でラ・レアルは4-3-3を採用しており、久保は右ウイングとしてプレーしている。しかし、試合の流れのなかでチームが攻撃に転じると、久保は頻繁にサイドを離れ、より内側でボールを求めている。一方、サイドを動き回る際には他のチームメイトが彼の動きを補っている。先週、監督自身が認めていたように、この動きは久保をセンターフォワード、そしてゴールが生まれるエリアに近づける狙いがあるのだ。
これらすべてを日本代表に当てはめられたら、森保一監督にとって朗報となることは間違いない。なぜなら久保がラ・レアルで果たしている役割と動きは、代表チームのニーズと完璧に合致しているからだ。
森保監督は3-4-2-1のシステムを採用しており、久保を2シャドーのひとりとして内側のスペースに配置し、右サイドはウイングバック(6月のインドネシア戦では森下龍矢を起用)に任せている。これにより、久保がラ・レアルと日本代表で影響力を発揮するエリアはまったく同じになる。2026年のワールドカップ開催で締めくくられるシーズンとしては好ましい状況と言えるだろう。
【プレースタイルの変化で数字も伸びるか】
今シーズンの久保の目標であり最も改善すべき点は、本人も認めているように、得点とアシストの数字を向上させることだ。ラ・レアル初年度、4-4-2のFWとしてプレーした彼は、ヨーロッパのカップ戦を含めて9得点6アシストを記録した。2年目と昨季はそれぞれ7得点5アシスト、7得点4アシストと、ラ・レアルにおける彼の成績は下降傾向にある。
しかし、今季は前述のようなプレースタイルの変化により、久保は新境地を開いている。2024-25シーズン、日本代表でより内側でプレーし、わずか9試合で3得点6アシストを記録したことを忘れてはならない。これはクラブでの成績と比較すると、相対的にはるかに優れた数字である。
現時点ではラ・レアルが公式戦を3試合しか消化していないため、これらの要素が久保の現在のパフォーマンスにどのような影響を与えるかを論じるのは難しいが、見通しは明るいはずだ。バレンシアとのラ・リーガ開幕戦では、内側でパスを受けた後、ペナルティーエリア手前から放ったシュートで得点を挙げた。第2節エスパニョール戦では内側のスペースからチームのプレーに関与し、オーリ・オスカールソンのゴールに大きく貢献した。
直近のオビエドとのアウェーゲームでも、久保はバレンシア戦同様に絶好のチャンスを得た。シュートはわずかに枠を外れてしまったものの、このプレーはジョン・ゴロチャテギが競ったボールを奪ったことで生まれたチャンスであり、決して偶然ではなかった。
久保がサイドを離れてプレーするというアイデアは、攻撃だけでなく守備的な状況にも当てはまる。なぜなら、久保はより内側にいる相手にもプレスをかけているからだ。
この試合での久保のプレーは大きくふたつのタイプに分けることができる。中央のポジションでボールを受け、相手の内側を攻めることができた時、彼はチームの攻撃の要となった。一方、典型的なウイングに位置してサイドでボールを運んだ時は、オビエドの左サイドバック、ラヒム・アルハサンを突破できなかった。彼は久保をマークする役割を完璧に果たし、この試合で最も目立つ活躍をした選手のひとりとなった。
【24歳の"ベテラン"】
久保はこのようにラ・レアル4年目となる2025-26シーズンをスタートさせている。2029年までの契約はあと4年残っているが、ヨーロッパのビッグクラブにとって魅力が高まっていることを理解しているサポーターは、移籍市場が訪れるたびに固唾をのんで見守っている。
ラ・レアルは近年、アレクサンデル・イサク、セルロート、ロビン・ル・ノルマン、ミケル・メリーノ、マルティン・スビメンディといった重要な選手たちを次々と失っている。そして先週、久保がスビメンディについて述べた発言は特に興味深いものだった。
「あるインタビューで彼が昨季はチームの中心、リーダーになるために残留したと語っているのを読んだ。そして今季、僕がその役割を担うことになるかもしれない」
その役割を終えたスビメンディは今夏、アーセナルに移籍した。
彼はもはやただの選手ではなく、チームの中核となる存在にならなければいけない。まだ24歳だが、"ベテラン"として振る舞わなければならない時期が来ている。
髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)