【現地レポート】
パリ五輪で銅メダルを獲得した女子バドミントンの志田千陽/松山奈未(再春館製薬所)、通称シダマツがペアとして最後の世界選手権に臨んだ。昨年の五輪でもプレーしたパリの会場で、準決勝敗退に終わり、奇しくも同じ銅メダルを手にしている。
【最後までともに駆け抜けたパートナーに感謝】
2022年は重圧に苦しんだが、2023年から2024年にかけてのパリ五輪出場権獲得レースでは、序盤こそ不安定だったが、日本勢トップを走って出場権を手に入れた。ともにスピードがあり、前後を入れ替わりながら俊敏に攻撃を続けられるふたりの特長は、厳しい戦いのなかで洗練された。
ふたりとも速い球の打ち合いに強く、相手の隙を逃さない攻撃、守備から攻撃に持ち込むラリーを身につけ、日本のエースに成長。パリで初の五輪に臨み、銅メダルを獲得した。その後、松山はモチベーションの維持に苦しんだが、それでも2024年末のBWFワールドツアーファイナルズで準優勝。さらに今年3月の全英オープンで2度目の優勝と、世界のトップを走るペアとして、実力と存在感を示した。
そして最後は、準々決勝で3度敗れていた世界選手権で鬼門を突破し、表彰台へ。志田は「(松山)奈未は、私以上に苦しかったと思うけど、今大会は奈未がプレーですごく引っ張ってくれた。最後まで本当に頑張ってくれて、ここまで連れて来てくれたことに感謝している」と最後までともに駆け抜けたパートナーに感謝した。
彼女たちは、いつも十分な準備ができないまま荒波に放り込まれ、苦しみのなかで力を合わせて前進してきたペアだった。志田は言う。
「シダマツにしかない勢いと、シダマツにしかない(苦しみの)波があった。
【「組み替えが難しいことは重々承知している」(志田)】
悲願の世界一には届かなかったが、最後まで、世界トップレベルのペアであることを証明した。松山は充実した表情で語る。
「最初から強かったわけでもないし、段階を踏んで強くさせてもらったなというのは、あります。(最初に苦労した国内の)団体戦では、逆にそれ(苦しみ)を成長に変えられたので、そこは自分たちしか味わえないというか。
逆境を乗り越えられたのもよかったし、最後にここで優勝できれば本当に完ぺきだったかなと思いますけど、もうこれが実力だなとも思うので。(最後の大会の結果も)今までの集大成としてふさわしかったかなと思います」
ふたりはすぐに、別の形で世界一への挑戦を続ける。
志田は9月9日開幕の香港オープンから、五十嵐有紗(BIPROGY)との新しいペアで活動する。五十嵐は、パリ五輪の混合ダブルスで2大会連続の銅メダルを手にした後、櫻本絢子(ヨネックス)とのペアで女子ダブルスに転向したが、今年2月にペアを解消。9月から志田とのペアに変更することになった。志田は話す。
「いろいろなペアを見て、組み替えはすごく難しいんだろうなと、重々承知しています。
松山は、9月5日に開幕する全日本社会人選手権に出場。中静悠斗(NTT東日本)と混合ダブルスにエントリーしている。正式な発表が待たれるが、ペア解消会見の話しぶりからも種目変更の可能性が高いと考えられる。
「自分としては、この舞台(世界選手権)にまた戻ってきたいなと。今日、負けて思ったので、しっかりと身体も作り直して、皆さんの前で、強い自分を見せられたらなと思います」と、松山は別の形での世界への再挑戦を誓った。
【「まだ成長できる部分はある」(松山)】
表彰式の後、あらためて今後に向けた気持ちを聞いてみると、松山はこう応じた。
「ペア解消を発表してからも、まだ成長できる部分があるなと思ったりして、バドミントンをやりたいなという気持ちが私のなかにあることに気付けました。それを忘れずに。バドミントンが好きということを忘れてしまったら、やっぱり苦しかったなと思うので、自分の持ち味を忘れずにやっていけたら、また違った自分が見せられるかなと思います」と競技への意欲は取り戻しているようだった。
シダマツの愛称で親しまれたペアは、一番輝いたパリの地で再び力を証明し、長い挑戦を終えた。寂しさの涙は、一瞬。
(了)