2026年ワールドカップは大丈夫?(前編)

 2026年北中米ワールドカップの開幕まで、10カ月を切った。参加国は史上最多の48。

史上初の3カ国合同開催。史上最多の16都市で試合が行なわれる。すべてにおいてこれまでのワールドカップの規模を大きく上回る大会だ。いったいどうなるか、誰も経験したことがない。大会が円滑に運営されるには何が必要で、何が問題かを理解する必要があるだろう。

 今月、日本代表はメキシコ代表(現地時間6日)、アメリカ代表(同9日)と親善試合を行なう。会場はオークランドのアラメダ・カウンティ・コロシアムとコロンバスのロウアードットコム・フィールドだ。また、ワールドカップのリハーサルとも言われたクラブワールドカップではアメリカの11都市にある12のスタジアムが使用された。

 これまで、ワールドカップ開催国でこの時期に行なわれる国際試合の多くは、ワールドカップの試合会場で行なわれた。本番1年前のコンフェデレーションズカップなどは、新しいスタジアムのお披露目の役割を果たしていたものだ。

サッカー日本代表はどんなスタジアムで戦うのか ワールドカップ...の画像はこちら >>
 だが、日本が戦うふたつのスタジアムはワールドカップの会場ではない。また、クラブワールドカップが行なわれた12のスタジアムのうち、ワールドカップで使用されるのは以下の5つのスタジアムだけだった。

メルセデス・ベンツ・スタジアム(ジョージア州アトランタ)
ハードロック・スタジアム(フロリダ州マイアミ)
メットライフ・スタジアム(ニュージャージー州イースト・ラザフォード)
ルーメン・フィールド(ワシントン州シアトル)
アウディ・フィールド(ワシントンD.C.)

 ワールドカップが行なわれる、アメリカの残りの6つのスタジアムはクラブワールドカップでは使用されず、一方、ワールドカップには関係のない7つのスタジアムでクラブワールドカップが行なわれた。もちろん、ワールドカップで使われるメキシコの3スタジアムとカナダの2スタジアムは蚊帳の外だ。つまり、ワールドカップで使われる16スタジアム中、約3分の2はプレ大会を経ずに本番を開催しようとしているのだ(今のところ、クラブワールドカップで使われなかったワールドカップのスタジアムで大きな国際試合は予定されていない)。

【テストができない理由】

 なぜこんな現象が起こったのか。それはアメリカという、サッカーが特別でない国に理由がある。

 FIFAが主催する大会が行なわれる場合、そのスタジアムは約2カ月間、FIFAに使用権利を渡さなければならない。つまりこの期間、ほかのイベントは行なうことができない。しかし、アメリカのスタジアムにはサッカー以外にも行なわれるイベントが多くある、アメリカンフットボールをはじめとする他の競技の試合やコンサートだ。ワールドカップで使われるスタジアムは大箱で、他のイベントのリクエストも多くある。それらをすべて断念して話を受けるには、FIFAの提示する金額は少なすぎたのだ。

 たとえば、アメリカでも最先端のスタジアムのひとつにラスベガスのアレジアント・スタジアムがある。2020年にできた屋内ドーム型で、6万人以上を収容する。しかし、ここではクラブワールドカップもワールドカップもプレーされない。

オーナーは金額が見合わないと思っているし、サッカーの試合が行なわれることに何の興味もないのだ。

 スタジアムがテストされていないことは、出場するチームやジャーナリスト、観戦希望者の間に多くの疑問や懸念を抱かせている。大事な試合当日に何が起こるのかわからないのはあまりにも不安だ。

 ところで私は、ワールドカップの前に、可能な限り試合が行なわれるスタジアムを見て回るようにしている。今回もクラブワールドカップの終了後、同大会で使われていなかったワールドカップの会場を見に行った。そして問題を発見した。

 ジレット・スタジアム(マサチューセッツ州フォックスボロ)ではMLSの試合を見ることができたが、とんでもなく不便だった。試合日には臨時列車が出るが、本数は極端に少なく、また駅からスタジアムまでは6キロ近くある。真夏の炎天下、高齢者や子どもが歩いてたどり着くのはまず不可能だろう。現地のメディアもこれは問題視している。現地のサポーターは家族に車で送ってもらっていたが、これは国外から来たサポーターには使えない手だ。

【サッカーに不慣れなスタッフ】

 カリフォルニア州イングルウッドにあるSoFiスタジアムもモダンなすばらしいスタジアムだったが、やはりアクセスが悪かった。

観客のほとんどは車で来ているようだ。そこで私はレンタカーを借りてみた。しかし、かなり早い時間に着いても近くの駐車場は満車。どうやら多くの観客は前の晩から車を停め、BBQをしながら試合が始まるのを待っているようだった。駐車場自体も75ドル(約1万1000円)と、とんでもなく高い。結局ここでも遠くの駐車場に車を停め、延々と歩く羽目になってしまった。

 資金が潤沢であればタクシーという手もあるが、大会開催中のアメリカは大げさなセキュリティーが敷かれ、警察はスタジアムの周囲を非常に広く閉鎖するだろうから、タクシーでもスタジアムには近づけないだろう。

 スタジアムへのアクセスの難しさはクラブワールドカップでも明らかだった。アメリカは車社会で、多くの観客は車で試合に行く。そのため公共交通機関が整えられていないところが多い。これは国外から来たサポーターには大きな問題だ。カリフォルニア州パサデナのローズボウルスタジアムでも、サポーターは気温38度のなか、入場ゲートまで4キロの道を歩かなければいけなかった。

 またマイアミやオーランドのような都市では、公共交通機関はあっても、何万人もの観客のニーズに応えていないため、スタジアムへ行くのに要する平均時間は、試合当日は1時間45分にもなった。ワールドカップ期間中はどうなるのか?

 今大会はワールドカップのための新しいスタジアムをひとつも作っていない。カタールのようにほとんどが新スタジアムというのとわけが違う。だからハードの部分では問題がないと思っているのだろう。アメリカが大規模なイベントには慣れているのも確かだ。

 私の一番の懸念は、運営スタッフからセキュリティーを担う警官、ボランティアのスタッフに至るまで、サッカーに慣れていないということだ。MLSは存在するが、アメリカのサッカーは世界のサッカーとは違う。国内のサポーターではなく、世界からやって来る多言語のサポーターは、野球やアメフトの観客とはまるで違う。

 アメリカの会場では、ワシントンにあるアウディ・フィールドだけがサッカー専用である。一方、カナダとメキシコのスタジアムはすべてサッカー専用だ。アメリカでは、柱やスクリーンなどで一部ピッチが見切れる席も普通に売られる。普通の席よりは安いので買う人も多い。

しかし、世界から来るサッカーサポーターはこれに慣れていない。

 ちなみにまだカナダとメキシコでのテストはまったく行なわれていない。それぞれの気候や準備具合もわからないし、国境をまたぐ移動、ビザ、パスポート、入国審査、異なる言語、異なる通貨、その他の文化的な要件などは、クラブワールドカップでテストされることはなかった。

 アメリカで開催されるワールドカップに不安な点はまだある。
(つづく)

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