2026年ワールドカップは大丈夫?(後編)

 これまでワールドカップの予行練習の役割は伝統的にコンフェデレーションズカップが担ってきた。しかし、この大会は今は姿を消し、代わって登場したのがクラブワールドカップだ。

史上初の32チーム制となったクラブワールドカップは、2026年ワールドカップの豪華なリハーサルとなるはずだった。

 私はこの期間、約1カ月アメリカに滞在し、現地で何がうまくいったのか、そして何がうまくいかなかったのかをこの目で見てきた。

 まずはプラスだったポイントを見ていこう。

北中米ワールドカップ開催は大丈夫か? 「非サッカー大国」アメ...の画像はこちら >>
●何よりFIFAにとってうれしかったのは、経済効果だろう。報告によると、この大会は全世界で410億ドル(約6兆円)を動かし、43万人以上のフルタイムの雇用を生み出したという。アメリカだけでも10万5000人の雇用が創出され、地元経済に95億ドル(約1兆4000億円)の恩恵を与えた。

●サッカー大国ではないアメリカで観客の入りが懸念されていたが、最終的には1試合平均4万人と決して悪い数字ではなかった。50%以上の試合でスタジアムが満員となり、ニュージャージーで行なわれた決勝戦では8万1000人を超え、ヨーロッパ以外で行なわれたクラブチームの試合としての記録を更新した(ただし、いくつかの試合では直前にかなり安値でチケットが販売されていたが......)。

●入場には先進技術が採用され、3つのスタジアムで顔認証のテストを行なったが、その誤差は2%未満であった。これがうまく稼働すれば、ワールドカップでもかなりスムーズな入場が可能となる。

●スポンサーやオフィシャルグッズショップ、世界各国の食べ物の屋台、音楽フェスなどをそろえたファンゾーンが各地に生まれ、人々の大会への関心を高めた。またスタジアムのあちこちにある小さなFIFAショップの売れ行きも悪くなかった。

●スタジアム内外の医療サポートの充実。多くの観客が入るいくつかの試合では、実験的に移動式の医療チームが配備された。多くの言語にも対応し、効果を発揮した。

●5つのスタジアムではドリンクの販売にリサイクル可能なカップを使用。ゴミの軽減にも役立った。

【高圧的だった警官たち】

 次にマイナスポイントだ。残念ながらこちらのほうがはるかに多かったし、見方によっては上記に挙げたプラス面もマイナスに転じる。

●セキュリティがあまりにも高圧的だった。制服を着て武装した警官たちは、サポーターをまるで汚いものであるかのように見ていた。言葉による暴力も多く、少しでも言うことをきかないとスタジアム内から退場させると脅してくる。ジャーナリストもサポーターも彼らにとっては潜在的な犯罪者であるかのようだ。

●クラブワールドカップの期間中、アメリカでは同時に3つのサッカーの大会が行なわれていた。これは前代未聞のことだ。

地元のMLSは「通常の」リーグ戦が行なわれたし、北中米で最も重要な大会であるCONCACAFゴールドカップ(アジアカップのような大会)も行なわれた。したがってゴールドカップには、クラブワールドカップに参加している北中米のチームのメキシコ、アメリカの代表選手は招集されなかった。さすがにワールドカップ期間に同じ問題は起きないだろうが、こんな日程が許されたのは由々しき問題だ。

●プラス面で、観客動員数は悪くなかったとしたが、試合によって差は激しかった。4分の1以上の試合は1万7000人未満。4試合は9000人未満にとどまっていた。

●いくつかのスタジアムでは、入場する際、持ち物を透明のバッグに入れることが義務づけられていたが、それを知らない外国人サポーターも多く、混乱を招いた。アトランタでは持って入れたバッグが、シアトルではNGだった。 スタジアムのそばでは足元を見て屋台でただのプラスチックバッグが50ドル(約7500円)で売られていた。

●サッカーにほぼ強制的にアメリカ文化が適用された。それが顕著だったのは決勝のハーフタイムショー。スーパーボウルなどではおなじみだが、通常サッカーでは行なわないし、なにより24分と、既定の時間を大きく超えていた。

あまりにも長すぎるインターバルは試合のリズムを崩す可能性もある。ハーフタイムショーはワールドカップでも行なわれる予定だ。

【悪天候で遅延・中断が続出】

●酷暑のなかでの給水タイムは重要だ。通常は気温や湿度などの指数が基準値を超えた場合に導入されるが、クラブワールドカップではすべての試合でこの時間が設けられた。それは給水タイムにスポンサーがついていて、この間にCMを放映するからだ。プレーを止めることは試合結果にも関わってくるが、たぶんワールドカップでも見られるだろう。

●多くのスタジアムはふだんはアメリカンフットボールがプレーされ、人工芝が貼られている。サッカーの試合では天然芝への張り替え、もしくは天然芝と人工芝のハイブリッドが使われるが、その張り替えがあまりうまくいかないケースも。ニュージャージーのメットライフ・スタジアムでは、バイエルンのジャマル・ムシアラやパリ・サンジェルマンのマルキーニョスといった選手が、ピッチ表面の凸凹で負傷したと抗議した。

●とにかく物価が高い。スタジアムでは500mlのペットボトルの水が7ドル(約1000円)、ソフトドリンク9ドル(約1300円)、簡単なスナックセットで28ドル(約4200円)、ビールは30ドル(約4500円。それも30分以上並んで)。

家族で行けばすぐに100ドルを超え、それ以外の選択肢はない。貧しい国からの観客にとっては大きな痛手となるだろう。またニュージャージー、マイアミ、シアトルなどの都市では、試合の行なわれる日にはホテルの宿泊料金が最大400%上昇し、1泊の平均料金が250ドル(約3万7000円)から620ドル(約9万3000円)になった。 

●一番の問題はアメリカの天候だ。クラブワールドカップでは少なくとも7試合が悪天候のため、キックオフの遅延や中断を余儀なくされた。そのうち3試合は1時間以上にわたって中断。ベンフィカ対オークランド・シティ戦は後半が2時間遅れで始まり、ベンフィカ対チェルシーは中断後に延長戦に突入したため、試合時間が4時間半を超えた。この時期、アメリカの特に東海岸では雷雨やハリケーンのリスクが高いが、その懸念が当たった。

 そして何より暑さ。今回はヨーロッパのゴールデンタイムに放送できるよう、多くの試合が正午か午後の早い時間に開始された。しかしその結果、フィールド上はしばしば過酷な状況に。キックオフ時に気温が37度近くまで上昇している試合もあり、国際プロサッカー選手協会(FIFPRO)は、いくつかの試合は選手の健康のためにも延期すべきだったと警告した。

チェルシーのMFエンソ・フェルナンデスは、「プレー中にめまいがして地面に横たわらなければならなかった。この気温のなかでプレーするのは非常に危険」とFIFAにワールドカップのスケジュールを見直すよう求めた。

 アメリカで開催された前回の1994年ワールドカップは、史上最も暑かった大会として記録されている。しかしその後に行なわれた99年の女子ワールドカップも、今回のクラブワールドカップも、その教訓がまるで生かされていない。改善されたのは、給水タイムをとることぐらいだ。

 FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、これらの問題を解決するため、来年はより多くの試合が屋根付きのスタジアムで開催される予定だと述べた。確かにアトランタ、ダラス、ヒューストン、バンクーバーの会場には屋根とエアコンが設置されている。しかし、そうでないスタジアムも存在する。決勝が行なわれるメットライフ・スタジアムには屋根はついていない。

編集部おすすめ