1週間前のオランダGPで4カ月ぶりの入賞を果たした角田裕毅は、"地元"イタリアGPを前に22号車のクルーを馴染みのリストランテに招き、美味しいイタリア料理を振る舞った。首脳陣やエンジニアたちは木曜に現地入りするため参加できなかったが、前日からマシン整備に取りかかっていたメカニックやオランダから直接モンツァ入りしたホンダのクルーたちが、角田と水曜の夕食をともにした。
「メカニックたちを一緒に食事に連れて行くのは前のチームでもやっていましたし、今回もチームの絆を深めるためにやりました。(集まったのは)僕たち側のガレージ(22号車担当)のメンバーですね、ホンダのスタッフも含めて」
4月の日本GPでいきなりレッドブルレーシングに昇格して以来、クルーたちとの絆も徐々に強まってきているのを角田も感じている。
「よくなっていると思いますね。最初はお互いにあまり知らない状態でやっていましたけど、今はそういうのもなくなって、一致団結してやっているというサポートも感じられる。いいメンバーだと思います」昨年後半からミラノに居を構える角田にとって、ミラノ郊外のモンツァで行なわれる今週末のイタリアGPは準地元グランプリだ。週末の4日間も自宅から30分ほどのドライブで、毎日サーキットに通うことになる。
先週のオランダGPでは決勝でペダルマップの切り替えに問題が生じたが、なんとか適応して入賞をつかみ取った。やはりピットアウトまでに切り替えが間に合わなかったことが原因だったようだが、その前提知識がエンジニアたちとドライバーで共有できていなかったことが背景にある。
「(切り替えを)戻したんですけど、戻したタイミングがたぶん遅かったんだと思います。でも(自分はピットアウトまでに戻さないと)そうなるとわかっていなかったですし、いつも戻す(べきスイッチの)指示が無線で聞こえるはずが聞こえなかったので」
【今までのベストレースのひとつ】
その知識が身についたことで今後は同様のミスは起きないし、何よりあの難しい状況下で冷静に対処し、結果をつかみ取れたことは大きかった。
これはドライバーとしての速い・遅いという次元の話ではなく、どんな状況下でも常にベストな働きができるかどうかという、トップチームのトップドライバーに求められる資質の問題だ。
「スパ(ベルギーGP)では自分たちでコントロールできることをうまくコントロールできず、起こってはいけないことが起きて自らチャンスを逃した。ただ、オランダのピットレーンのマップのことは知らなかったので、何かトラブルが起きたのかと思いました。
レース週末のアプローチにしても、FP1から予選まで入念にセットアップを仕上げ、ドライビング面でも第三者の視点を採り入れてまとめ上げたのが、あの予選だった。
結果的にはぶっつけ本番のセットアップ変更を選んだマックス・フェルスタッペンと0.500秒もの差がついてしまった。だが、角田自身のマシンからは今までにない速さを引き出すことができた手応えはあったという。それが、同じセットアップで走る決勝での走りにもつながった。
「オランダGP(予選)のセットアップでは、ある程度引き出せたと思います。もちろん100パーセントではないにしても、今までで一番引き出せたなと。
(フェルスタッペンが採用したような)違うセットアップにした時にどこまで引き出せるかとなると、また話は違いますけど、そこも徐々に上げていってはいます。決勝ではすべてをまとめ上げることができましたし、レース週末全体のなかでの進歩という意味では、今までのベストレースのひとつだったと思います」
2度にわたるセーフティカー出動の不運や、ペダルマップ問題など、降りかかった数々の災難を乗り越えて入賞できたことは、角田自身にとって非常に大きな意味があったと言えそうだ。
【過去4回のうち3回リタイア】
来季の契約延長に向けてレッドブルは、角田のそういう能力を見極めるべく待っているところだ。その期限は10月末とも言われているが、角田としてはレッドブルに残留し、この難しいチャレンジの続きを来年もトライしたいと考えている。
その一方で、若手の昇格が時期尚早という向きもあり、仮にイザック・アジャがレッドブル昇格となったとしても、レーシングブルズに角田が戻るという選択肢もありそうだ。
「その時にどういう選択肢があるかによりますけど、レーシングブルズもいいチームであることは確かです。
いずれにしても角田自身にできることは、実力をコース上で示し続けることだけだ。
「できるだけいいレースをして、できるだけポイントを獲って、できるだけマックスの近くにいることが大切だと思っています。ヘルムート(・マルコ/レッドブル・モータースポーツアドバイザー)に言われているのも、だいたいそういうことです。とにかく僕としては、ポイントを獲り続けるだけだと思っています」
イタリアGPは、これまでの4年間で2回はスタートすらできず、昨年は他車に接触されてリタイア。2022年の14位完走という記録しか残っていない。
それでも角田は、FIA F3時代に優勝して一躍名を上げたこのサーキットが大好きだと言う。
「たしかに過去4回のうち3回はリタイアしていますし、トラブルは多いですね。なので、今年はそうならないことを願っています。
それでも、このサーキットは大好きです。マシンに自信を持って攻めなければならないという点では、すごくチャレンジングなサーキット。自信が持てていれば速く走れますし、レースでもバトルができるサーキットですから」
特殊な極薄ウイングで走るRB21を、レース週末のなかでいかに仕上げられるか。そしてどこまでドライバーとして習熟し、自信をビルドアップして予選に臨めるか。
オランダGPで得た手応えをさらに一歩前へと進められれば、今年こそはモンツァのジンクスも払拭できるはずだ。