9月6日(現地時間)、森保一監督が率いるサッカー日本代表は、アメリカのオークランドでメキシコと一戦を交え、結果はスコアレスドローだった。ほぼ敵地で、曲者が揃う相手に負けなかったことは評価に値する。

 内容も決して悪くはなかった。

 チームデザインに能動性が滲み、前線からの守備のメカニズムが感じられ、相手のビルドアップを分断。攻守の攻防でも負けず、トランジションから何度かチャンスも作り出した。三笘薫のパスを受けた久保建英がミドルで放った右足シュートは圧巻だったし、堂安律、久保で右サイドを崩し、折り返しをフリーの南野拓実がボレーで叩いたシーンは最大の決定機だった。

 しかし、拭えない違和感があったのだ―――。

サッカー日本代表の命運を握るウイングバック 三笘薫、堂安律は...の画像はこちら >>
 森保ジャパンは開始から前半15分までは相手を圧倒していた。プレスがはまって、出どころをシャットアウト。特にアンカーの選手を封じたことで相手がノッキングし、敵陣で自分たちのペースだった。

 しかし、メキシコも20分前後には対応していた。サイドバックが高い位置を取って、日本のウイングバックをけん制。インサイドハーフのふたりが交互にアンカーの脇へ落ち、ボールの出どころを増やした。これで戦術的な問題を解決すると、そこからは互角の展開だった。

 日本の歪みを感じたのは、やはりウイングバックだ。

 森保ジャパンは3-4-2-1のフォーメーションで、4の両サイドに、右に堂安、左に三笘が陣取っていた。森保監督としては、"攻撃力のある選手のウイングバック起用法こそ、主体的サッカーの象徴"なのだろう。確かに敵陣で人数多く攻める時は一定の効果を出していた。

 しかし、堂安も三笘も生粋のアタッカーである。昨シーズン、それぞれドイツ、イングランドで二桁得点した手練れで、サイドで高い位置を取って、中、外と仕掛ける攻撃でチームに勝利をもたらしていた。1対1のドリブルは局面を制し、強力な武器となった。

 その彼らが守備に回らざるを得ないと、当然のようにチーム力は半減した。三笘が必死に自陣に戻ってクリアする、というのは確かに"全員攻撃、全員守備"のセオリーどおりで、敢闘精神も美しいが、端的に"宝の持ち腐れ"と言えるだろう。もともと攻撃のポジションの選手が必要に応じて下がる、というのはわかる。しかし、ウイングバックは受け身に回っての守備が前提なのだ。

【5バックになると弱点を露呈】

 堂安、三笘だけでなく、この日、ウイングバックに投入された伊東純也、前田大然、あるいはクラブ事情で今回は招集されなかった中村敬斗など、いずれも所属クラブでウイングバックなどやっていない。

基本はあくまでアタッカーで、前田は昨シーズンのスコットランドリーグ得点王、中村もフランスリーグで二桁得点を叩き出しているのだ。

〈適材適所〉の論理からはかけ離れている。ウイングバックを日常的にやっていない選手をどう評価し、何を求めて仕事をさせているのか。フォーメーションに選手をはめ込んだようにしか見えない。

 たとえば欧州王者スペインは、ラミン・ヤマル、ニコ・ウィリアムスというサイドアタッカーを強力な武器としてサイドに用い、その突破で相手を怯ませ、乱れさせ、優位に立つ。同じようにフランスのキリアン・エムバペ、ウスマン・デンベレ、オランダのコーディ・ガクポ、シャビ・シモンズ、イングランドのマーカス・ラッシュフォード、ブカヨ・サカはサイドで血路を開く貴重な存在だ。

「ヤマルをウイングバックに使う」

 そんな監督のクビはいつはねられてもおかしくないだろう。

 試合終盤、パワーダウンした森保ジャパンは後手に回っていった。伊東、前田がバックラインに吸収されて5バックになると、危うさを露呈。サイドの守備に脆さが出始め、南野が必死に左サイドで守備するも、ボールを奪い返そうとしたファウルで、危険な位置のFKを与えてしまう。クロスからのヘディングではマークにつききれずにシュートを打たれ、GK鈴木彩艶のビッグセーブで凌いだ。ただ、その後も波状攻撃に抗えず、前田が中に絞った守備はうまくクリアできず、こぼれ球をフリーで打たれたが、わずかに左へ逸れた。

無失点はむしろ僥倖だった。

 これで強力な相手をねじ伏せられるのか?

 悪くなかった攻撃も、ウイングバックが高い位置で連係し、サイドを崩しきるようなシーンは、ひとつふたつしかなかった。攻撃のスタート位置が低く、守りの意識もあるので、攻めきれないのだろう。そして守備に回ったら、目に見えて弱い。

 個人的にはやはり4バックが正攻法だと考える。サイドバックを配置し、サイドアタッカーに真価を発揮させるべきではないか。多くの日本人選手の所属クラブは4バックだし、何より日本は世界でも屈指のサイドアタッカー優良国だ。

 9月9日のアメリカ戦、日本はどのような布陣で挑むのか。ウイングバックというポジションは、森保ジャパンの命運を握っている。

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