0-0に終わったメキシコ戦。相手の"ベストメンバー度"を正確に把握できているわけではないので、軽々には言えないが、FIFAランク17位の日本から見た時、同13位の国にしてはたいしたことないという印象を受けた。

 この試合に臨んだ両軍選手のここまでの移動距離、そしてスタンドを埋めた4万5278人のうち90%以上がメキシコサポーターだったことを考えると、日本は40対60ぐらいで劣勢、という展開に終わっても不思議のない試合だった。

 にもかかわらず、両者の関係では日本がやや上回っていた。終了間際、フリーで抜けだした上田綺世を後方から倒したCBセサル・モンテスが退場処分になったこともその印象を強めた。10人で逃げきる格好になった終わり方の悪さも、メキシコが予想より強く見えなかった理由のひとつになる。実際、久保建英など日本の多くの選手も試合後「我々のほうが試合を優勢に進めていた」と楽観的なコメントを述べていた。

 しかし、「ちょっと待て」と言いたくなる。試合は0-0だ。勝って兜の緒を締めよとの諺があるが、もっと謙虚になるべきだろう。サッカーに判定勝ちはないのである。判定があったとしても、実際は僅差だった。

 この試合に日本は、考えられる限りにおいて現状のベストメンバーで臨んだ。

サッカー日本代表のメキシコ戦 序盤の優勢が「尻すぼみ」になっ...の画像はこちら >>
 メキシコ戦、アメリカ戦を中2日で戦う今シリーズ。
選手をどう振り分けるか。森保監督の起用法、使いわけにも注目が集まった。メキシコ戦に比重をかけるか、アメリカ戦に比重をかけるか。あるいは両者均等にいくか。森保監督は前日会見で「スタメンを大きく変える」と言うに留まった。相手の力量はほぼ同じ。悩ましい問題だったと思うが、結果はメキシコ戦重視となった。

 メキシコの監督はハビエル・アギーレ。元日本代表監督である。しかも攻撃的サッカーという哲学が、森保監督とは真逆な監督だ。何かと比較されやすい関係にある。森保監督の意地がベストメンバー編成という形になって現れたのだと推測する。

【機能しなかったサイド攻撃】

 最終ラインの3人(板倉滉、渡辺剛、瀬古歩夢)のうち、渡辺と瀬古は、今回故障で招集外となった伊藤洋輝、町田浩樹、高井幸大が戻れば、スタメン候補ではなくなる可能性がある。そんな彼らの頑張りは今回、なにより讃えられるべきだろう。失点ゼロに抑えた立役者になる。

 問題はMF、WBより上の7人だ。守田英正がケガで外れた守備的MFの一角には鎌田大地が入った。通常は南野拓実、久保建英と2シャドーのポジションを争う鎌田だが、少なくとも南野との関係はほぼ互角だ。森保監督は、売り出し中の佐野海舟ではなく、スタメン級という言い方ができる実力者を守備的MFに起用した。ベストメンバーと言いたくなる理由だ。

 前半の序盤は特によかった。11分、久保建英が右足でメキシコGKルイス・マラゴンを泳がせれば、15分には同じく久保が右から鋭い折り返しを決めてメキシコDFを慌てさせている。だが日本優位はここから時間を経るごとに崩れていく。

 ひと言でいえば尻すぼみだ。なかでも元気がなかったのは左WBの三笘薫だ。

左ウイングをプレーするブライトンの時より、構える位置が15~20メートル低いとはいえ、対峙するメキシコの右SBホルヘ・サンチェスに1対1を仕掛けるチャンスはいくらでもあった。

 だが結局、三笘は一度も縦勝負を挑まなかった。三笘が縦方向への推進力を発揮しなければ、左からのマイナスの折り返しを狙う選手はいなくなる。サイド攻撃から決定機は生まれにくくなる。

 右にも似たようなことが言えた。右WB堂安律は左利きで半身がきつい。中に切れ込む動きが多くなる。所属のレアル・ソシエダで左ウイングを務める久保も、2シャドーの一角でプレーする森保ジャパンに加わると、切れ込む動きが増える。右も左同様、サイドの深い位置を突けなくなっていた。攻撃は真ん中に偏りがちだった。

 メキシコはそうではなかった。回数は少なかったが、攻める形がよかった。

3FW、すなわち1トップと両ウイングのバランスがよかった。攻撃が形になっていた。ゴールが逆算できそうなサイドからの崩しが効果を発揮した。

【攻撃的な選手を次々に投入しても...】

 1トップの力量差も目に止まった。上田とラウル・ヒメネス。後者はアトレティコ・マドリード、ベンフィカ、ウルブズ、フラムなどで活躍してきたメキシコサッカーを代表するストライカーだ。上田にはない点取り屋としての雰囲気、風格を備えている。

 後半16分、そのラウル・ヒメネスに代わって投入されたサンティアゴ・ヒメネスと上田を比較するとさらにわかりやすい。昨季まで所属したフェイエノールトで両者はライバル関係にあった。出場機会が圧倒的に多かったのはサンティアゴ・ヒメネス。その活躍が認められミランへ移籍したのだが、両者が敵味方に分かれて同じピッチに立つと差は鮮明になる。センターフォワードらしさの有無は、一目瞭然となった。

 森保監督は交代カードを6枚切った。板倉滉と関根大輝の交代(後半15分)は板倉のケガによるものだが、それ以外の5枚は主として攻撃陣の入れ替えだった。

 後半24分の交代は以下のとおりだった。

久保→前田大然、鎌田→佐野海舟、南野→伊東純也

 この結果、2シャドーにはウイングバックから回った堂安と三笘が入り、WBには前田(左)と伊東(右)が構えた。鎌田と佐野海舟は同じポジション同士の交代だった。

 両WBには、先発したふたりと同様、攻撃的な選手が入った。しかも活きのいいスピード系である。ところがスピード感はまるで演出できなかった。サイド攻撃が活性化することはなかった。

 後半36分にも2人代えている。堂安と町野修斗、三笘と鈴木唯人の交代だ。布陣はこれを機に3-3-2-2に変化した。

アンカーを遠藤航1枚とし、2列目を鈴木唯人と佐野海舟、2トップに上田と町野が構える布陣だ。3-4-2-1より攻撃的と言われる布陣である。

 攻撃的な選手を次々と投入し、布陣もより攻撃的にしたにもかかわらず、サッカーは攻撃的にならなかった。それは、相手ボールに転じたとき、相手の両SBが比較的自由にボールを持つことができたことと密接な関係にある。

 彼らの攻め上がりに蓋をする選手が見当たらなかったのだ。2列目の選手(あるいは2シャドー)が対峙するか、WBが対峙するか、その中間にボールを運ばれると、プレスはかからない状態になった。これで相手はひと息つくことができた。

 メキシコの3トップは健在だ。1トップには一発を秘めた強力な選手が構えている。試合後、久保などが口にしたような楽観的な考えになれない展開となった。判定で言えば「やや日本優位」でも、惜しいチャンスの数では両者イーブンだった。1トップの力量差を考えると、日本は試合をかなり押さないと勝てない。このメキシコ戦は、そういう意味で心配になる試合だった。

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