センターバック(CB)の序列が、変わるかもしれない。
森保一監督が指揮する日本代表チームは今、3バックの人材にケガ人が続出している。
メキシコ、アメリカと対戦する今回の遠征には、谷口彰悟(シント・トロイデン)と高井幸大(トッテナム・ホットスパー)も招集されていない。3バックなら右サイドを担う橋岡大樹(スラヴィア・プラハ)もリスト外だ。さらには6月のインドネシア戦で代表デビューを飾った鈴木淳之介も、新天地コペンハーゲンでリーグ戦のピッチに立っていない。
このため、森保監督は7月のE-1選手権で優勝に貢献した荒木隼人(サンフレッチェ広島)と安藤智哉(アビスパ福岡)を再び招集した。ところが、安藤は遠征直前のJリーグでケガを負ってしまった。CBは板倉滉(アヤックス)、瀬古歩夢(ル・アーヴル)、荒木、渡辺剛(フェイエノールト)、それにウイングバックもできる関根大輝(スタッド・ランス)の5人で連戦に臨むこととなった。メキシコ戦の3バックは、右から板倉、渡辺、瀬古で構成された。
渡辺は6月のオーストラリア戦で、町田、関根と3バックを組んだ。国際Aマッチ出場は2024年のアジアカップ以来だったが、当時所属していたヘントで十分なプレータイムを得ており、CBの競争を活性化しうる存在として期待を集めた。しかし、後半途中に負傷交代を余儀なくされた。
今夏の移籍市場では、オランダの名門フェイエノールトへ移籍した。
メキシコ戦を前にした取材対応では、「ケガ人が治って、もっともっと選手層が厚くなって、そのなかで競争してワールドカップのメンバーに入るのが自分の目標なので、まずは早く治してほしいと思います」と、戦線離脱中の選手たちへの配慮を口にした。そのうえで、「こういうチャンスでしっかりアピールするのが、今の自分の立ち位置的に大事だと思います。そういう人たちのぶんまで全力でプレーして、帰ってきたらまた競争をがんばりたい」と話した。
【ヒメネス相手に一歩も引かず】
渡辺に課せられた最初の、そして大きなタスクは、メキシコのCFラウル・ヒメネスを抑えることだった。4-2-1-3の3トップ中央に位置する34歳に攻撃の起点を作らせないことで、試合を優位に進めていくことができる。
果たして、渡辺は序盤からヒメネスを厳しく管理した。最前線に立つ彼にボールが入りそうになると、間合いを詰めてパスカットを狙う。常に先手を取り、自由を与えなかった。
前線からのプレスが機能したことで、メキシコがロングボールを蹴ってくる場面もあった。ここでも190cmのヒメネスを相手に一歩も引かない。エアバトルでも優位に立った。
「前からいくとロングボールを放り込まれて、アジアカップでやられた感じが想像しやすいと思いますけど、今日はディフェンス陣が跳ね返してくれた」と語るのは堂安律(フランクフルト)である。
ヒメネスとのバトルの重要性は、もちろん渡辺も理解していた。
「彼を潰すのは、もともと自分に与えられたタスクだったので、そこはうまくできたなと思います。相手の特徴でもある選手を潰すことで、全体的な流れがこちらに来ると思っていたので。高い位置であればファウルでもいいというのと、プレミアでやっているようなああいう選手は、頭がいいというか相手の嫌なことをやってくる。あえて受け身じゃなく自分からアクションをすることで、相手にリズムを作らせないというのはできたと思います」
試合の主導権を握り続けた前半は、攻撃でも存在感を示した。
15分、右ウイングバックの堂安のランニングに合わせて、GKとDFラインの間へロングボールを落とす。堂安が先に触ってGKの頭上を破るが、カバーしたDFがボールを収めて先制点とはならなかった。それでも、メキシコのハイラインを見たうえでアタッカー陣と崩しのイメージを共有したのは、評価できるだろう。
【冷静に守備ブロックの高さを調整】
後半に入ると、試合展開が少しずつ変わっていく。ハイプレスが効かない場面も出てきた。ブロックの位置を調整する必要がある。
ここでも彼は、冷静な対応を見せる。「ゲームプランどおりだったのと、分析がうまくいった試合だったと思います」と話すが、守備ブロックの高さを冷静に調整した。
後半は直接FKから決定的なヘッドを浴びたものの、オープンプレーで失点を覚悟するようなシーンは与えていない。対メキシコ戦初のクリーンシートは、幸運に恵まれたものではなかった。
試合後の渡辺は、落ち着いた表情を浮かべた。ケガで離脱しているCB陣への配慮を再び口にしつつ、代表定着への意欲を表わした。
「ケガ人が多くてチャンスをもらえて、それをつかまないわけにはいかない。ずっと準備してきたので、(自分のプレーを)しっかり出すためにメンタルを鍛えてきたし、自信を持ってプレーするためにやってきた。それがやっと少しずつ、形になってきていると思います」
対世界でのゲームプランは明確だ。
自分たちがボールを支配し、引いた相手を崩すという「対アジアの戦い方」から、相手にボールを動かされるなかで勝機を見出す試合が増えてくる。「ここからは、守備の時間が長くなる試合は絶対にあります。
今はまだタッチラインの外側で治療やリハビリに専念している選手たちも、戦列に復帰すれば、森保監督は招集へ踏み切るはずだ。序列が1試合で大きく変わることはないものの、ここから変わっていく可能性は出てきた。
CBの明確な戦力として、渡辺が浮上してきた。