【ボクシング】在米記者たちに聞く井上尚弥の現在地「アフマダリ...の画像はこちら >>

前編:在米記者が語る9.14「井上尚弥vs.アフマダリエフ」予想

 現代の最強王者・井上尚弥(大橋)が近年では最大の難敵を迎える。現在はスーパーバンタム級の4団体王座を保持する井上は9月14日、名古屋のIGアリーナで迎え撃つのはWBA暫定王者でもあるムロジョン・"MJ"・アフマダリエフ(ウズベキスタン)。

2016年リオ五輪銅メダリスト(バンタム級)であり、プロでも14勝(11KO)1敗の戦績を積み上げてきた30歳の実力派だ。2023年4月、マーロン・タパレス(フィリピン)にまさかの判定負けを喫して元WBA、IBF世界スーパーバンタム級王座を失ったものの、以降はWBA暫定王座を獲得するなど3連勝をしている。

 これまで4階級制覇を成し遂げてきた"モンスター"も、「過去最強の相手かもしれない」と警戒心を露わにしている。攻防兼備の選手同士だけに、ハイレベルの一戦になることは間違いないだろう。

 このタイトル戦の行方を占うべく、軽量級に精通する4人の在米ベテラン記者に4つの質問(前後編各2問)をぶつけてみた。その答えからは今戦への期待度の高さと、32歳を迎えてもいまだに変わらない井上の力量への信頼度の高さが伝わってくる。

【パネリスト】

◆スティーブ・キム(元ESPN.comのメインライター。韓国系アメリカ人。現在はフリーランスで活動し、業界内に幅広い人脈を持つ X: @SteveKim323)

◆ロン・グッダル(ラスベガス在住。FightHype.comのリード・マネージング・エディター X : @FightHypeRonG)

◆エイブラハム・ゴンサレス(FightsATW.comの創始者で、全米ボクシング記者協会の会員。リングマガジンのランキング選定委員でもある X: @abeG718)

◆杉浦大介(ニューヨーク在住スポーツライター。全米ボクシング記者協会会員&リングマガジンのランキング選定委員 X : @daisukesugiura)

1.    井上有利の声が多いなか、アフマダリエフが番狂わせを起こすためには何をすべきか?

キム : アフマダリエフと彼のチームは、最近の試合で井上が左のパンチに少し"死角"を見せていることを確認しているはずだ。

もしも私がMJなら、ルイス・ネリ(メキシコ)やラモン・カルデナス(アメリカ)がそうしたように、序盤のラウンドに井上をとらえることを狙うだろう。井上は一度エンジンがかかると、試合が進むにつれてどんどんパワフルになり、よくなっていく傾向がある。だから、MJが主導権を早く握れるかどうかが重要だと思う。

グッダル : MJは前に出てボディを狙っていく必要がある。井上はカルデナス戦でも見られたように、コンビネーションを打つときにカウンターをもらう隙を見せていた。おそらく狙うべきは、井上が連打を出している最中、その合間に打ち返すことだろう。ディフェンス面では、攻めのポジションを取れないときはクリンチで試合を止め、井上の手数を減らすことが不可欠になる。もちろん「言うは易く行なうは難し」だが。

ゴンサレス : アフマダリエフは自らのパンチ力で存在感を示さなければならない。序盤で井上からリスペクトを勝ち取ることができれば、自分のゲームプランに落ち着いて入っていけるはずだ。井上のハイガードのディフェンスに対しては、アフマダリエフがこれまで多くの相手を一時的に麻痺させてきた強烈な左フックをボディに打ち込むチャンスがある。序盤からボディに貯金をしておけば、井上の動きを制限し、ガードを下げさせることができる。

それができれば、終盤にガードの中央を突き抜ける左ストレートで井上を仕留める可能性が出てくる。

杉浦 : 井上は過去4戦中、左フックで2度のダウンを喫したことが盛んに指摘されているが、集中力を高めてくる今戦ではそのパンチへの対策はしっかりしてくるはずだ。それよりもアフマダリエフの武器になりそうなのは、昨年12月、リカルド・エスピノサ(メキシコ)戦の第3ラウンドに2度のダウンを奪った左のショートパンチではないか。ノーモーションで繰り出すこのパンチで井上に警戒心を植えつけられれば、試合展開はより興味深いものになる。

2. 井上が衰えているという見方についてどう思うか?

キム : 事実として、ボクサーはある地点や年齢に達すると、技術や身体能力がもうそれ以上は上がらなくなる。井上はすでに30戦をこなし、32歳だ。少なくとも"横ばい"になるのは自然なことだろう。さらに、階級を上げて、より大きい選手たちと戦っているという要素もある。井上が絶頂期にあるかどうかは議論されてしかるべきだが、それでもはっきり言えるのは、"モンスター"が依然として信じられないほど手強いファイターだということだ。

グッダル : 井上が衰えているとは思わない。ただ、今では過去最大の階級に属していて、より多くの耐久力とパンチングパワーを持った相手と戦っているということだ。いま私たちに見えているのは、井上がどこまで階級を上げられるのか、その限界に近づいている姿だと思う。

スーパーバンタム級では相手選手の抵抗もこれまで以上であり、さらに上げれば試合はもっと厳しくなるだろう。それでも井上は依然として有利な立場には立つはずだが、今後はより競った試合が増え、これまで以上に辛抱強さと慎重さが求められるはずだ。

ゴンサレス : 32歳になった井上のエリートファイターとしての地位については、多くの議論が飛び交っている。SNSでは「井上は衰えている」という声が広がり、アフマダリエフ戦は危険な試合だと見る向きもある。確かにリスクはあるが、井上が衰えたとは思わない。ただし、最近は反射神経がやや落ちているのは事実で、それはこれまでの激しいトレーニングキャンプによるものだろう。依然としてエリートレベルではあるが、わずかに遅くなっている。そこをアフマダリエフが突けるかどうかが今戦の勝負になる。

杉浦 : 階級を上げ続けているだけに判断は難しいが、身体能力、反射神経などの表層的な要素はすでにピークを迎えたのかもしれない。その答えはどうあれ、キャリア後半のエリートボクサーは経験、知識などを積み重ねることで強さを保ち、総合力をむしろ高め続けることもできるもの。それによってより負けにくいボクサーに変化することだってある。井上が今どういう領域にいるのか、今回のアフマダリエフ戦で多くのものが見えてくるだろう。

つづく

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