「明るさ」
それが、フェルハト・アクバシュ監督が新たに率いるようになったバレーボール女子日本代表の旗印になっている。
タイで開催されたバレーボール女子世界選手権(以下、世界バレー)、彼女たちは明るさを力の源泉にした。
「フェロー(アクバシュ監督の愛称)も、選手に『アグレッシブにやってほしい』と言っているので、コートに立った時のプレーはもちろん、プレー以外でもチームを鼓舞することができたらと思っています」
大会前、リベロ(大会ではアウトサイドヒッター登録)の岩澤実育はそう説明していたが、フォア・ザ・チームの姿勢はまさに明るさの象徴だった。岩澤はコートサイドの応援で他の選手たちを巻き込み、元気に体を動かしていた。チアリーダーのような陽気さで、選手に上を向かせた。
結果は3位決定戦でブラジルにフルセットの末に敗れ、4位だった。目標にしていたメダルにはあと一歩届かなかったが、彼女たちはメダル以上の高揚感を残した。先に続く道を照らす戦いだった―――。
日本は1次リーグをカメルーン、ウクライナ、セルビアに3連勝して、決勝トーナメントに勝ち上がっている。ラウンド16では地元タイにストレートで勝利。準々決勝ではオランダの高さに苦しみながらも、セットカウント3-2と劇的に勝利した。怒涛の5連勝だったが、どの試合も崩れていても不思議ではなかった。
たとえばウクライナ戦は2セットを奪われているし、女王セルビアとも息詰まる攻防だった。しかし彼女たちは点差が開いても諦めず、苦しくてもサイドアウトでしつこく食らいつき、連続ブレイクで追いついた。オランダ戦に至っては、1セット目を落とした後、2セット目もリードを許したが、8連続得点で逆転。ファイナルセットも0-3と先制されて窮地に立ったが、粘り強く巻き返した。
その勝負強さは、悲壮感よりも明るさから出たものだった。
【サーブから攻め続けた】
「確かに雰囲気が明るくなりましたね。ネーションズリーグを見ていても新しい選手がたくさん出てきて、バランスもよくなっているなと思います。石川(真佑)選手、関(菜々巳)選手と、東京五輪、パリ五輪を経験している選手がいるのは心強い」
大会前のインタビューで木村沙織はそう語っていたが、まさに明るさが功を奏した。
「アクバシュ監督になって、彼に選ばれた選手たちが集合して、すぐにネーションズリーグがスタートすることになりましたが、すごく雰囲気はいいですね! 監督はいろんな選手を試しているし、選手のほうも『どんな監督なんだろう』ってなると思うのですが、練習や試合を重ねるなかで、お互いがよい刺激を受けながら、相乗効果を生み出している気がします」
選手たちはサーブから攻め続けた。それによって敵の守備を崩し、ブロックディフェンスも優位に動かすことができた。結果的に、日本の武器であるトータルディフェンスのレベルも最大値を叩き出した。長いラリーで粘ると、彼女たちに勝機が転がり込んでくる気配が漂った。
「プレーをしていて、楽しさはひとつ大事なことだと思っています。"自分が楽しくない、うまくいかないときは成長しない"って思っているので。勝負ですが、バレーを楽しみながらやっていきたいと思います」
大会前、石川はそう誓っていたが、バレーを楽しむ彼女は無敵だった。ブロッカーとの駆け引きのなか、空中でコースを見つけ、硬軟織り混ぜたアタックを見せた。ブロックアウト、ブロックタッチ、ブロック吸い込み、バックアタック、ブロックの背後に落とすロールショットと変幻自在。自らに上がったボールも、ラフになったハイボールも、見事に打ちきっている。
「(世界バレーでは)自分たちよりも、高さがあるチームが多いので、そこでの攻め方が大事ですね」
石川はそう話していたが、まさに有言実行だった。
「勝負どころで、どう攻めたら相手が対応しづらいか。攻撃の精度を高めていかないと。たとえば得意なコンビのところで(相手に)絞られてしまい、対応されることもすでに経験しているので、自分たちで打開策を見つけていけるように。"ここのプレーでは、スパイクもこういう打ち方をする"というトライはいくつもしてきました」
石川は実力を見せつけ、大会のベスト6(ブラジルのガビとともにアウトサイドヒッターで)に選出されている。
明るく前向きなチームは、選手たちを目覚めさせた。
ミドルブロッカーの島村春世は、ベテランの輝きを見せている。日本の長所である機動力を用い、ブロード攻撃は強力なカードになっていた。流れが変わりそうな場面で、彼女の一撃は出色だった。また、同じミドルの宮部藍梨もブロック、サーブ、クイック、レシーブとオールラウンドで高い能力を見せた。他と違うリズムのプレーは異色だ。
ミドルブロッカーは高さだけで言えば、世界トップレベルには劣るが、独自のアドバンテージを発揮していた。
そして3位決定戦での、アウトサイドヒッターの佐藤淑乃の覚醒は瞠目に値した。ここまでなかなか真価を見せられていなかったが、ブラジルを相手に、吹っきれたようにアタックが決まり、得意のバックアタックで打ち抜いた。また、サーブでも3本のエースを獲得、ブロックも2本。チーム最多34得点で、試合中にも変身するかのような輝きだった。
明るさは、チームにも選手にも活気を与える。
日本女子バレーの新しいストーリーの始まりだ。