【"右利き"のオポジットが台頭】

 9月6,7日、千葉のLaLa arena TOKYO-BAY。男子バレーボール日本代表(世界ランキング5位)は、イタリア代表(同2位)と連戦を行なった。パリ五輪では準々決勝でまさかの逆転負けを喫した強豪を相手に、格好の強化試合になるはずだった。

 結果は、6日がセットカウント2-3のフルセットの末に敗れ、7日も1-3の接戦(4セット目は32-34)の末に黒星を喫している。

【男子バレー】台頭する日本代表の次世代、西山大翔と甲斐優斗が...の画像はこちら >>

「いろんな選手にプレーする時間を与えたい」
 
 ロラン・ティリ監督がそう説明したように、9月12日にフィリピンで開幕するバレーボール世界選手権(世界バレー)に向け、本番に向けて疲労の蓄積も考慮しながら選手を多く入れ替えただけに、パフォーマンスのアップダウンは避けられなかった。

〈戦力向上〉

 それがブルガリア戦(9月2、3日)を含めた4試合のターゲットだったとすれば、その成果はあった。2人の"伏兵"が躍動したのだ。

 宮浦健人、西田有志が双璧を成す代表オポジットで、193㎝の西山大翔(22歳/大阪ブルテオン)が新たに台頭した。

 イタリアとの1試合目、西山は4セット目を奪う立役者になった。威力抜群のスパイクを連発。ほぼ4、5セットだけで、石川祐希の16得点に次ぐチーム2番目の13得点を記録した。ネットに沿うようにクロスに打ち込むアタックはテクニカルだったし、全身の力を右腕に投じるような豪快なスパイクも見物だった。

「私はオポジットの右利き、左利きはあまり気にしません。むしろ、両タイプがいることがチームのアドバンテージになります」

 ティリ監督はそう言って、西山の起用について語った。

「(右利きの)西山は(昨シーズンまでティリ監督が指揮を執っていた大阪ブルテオンで)3、4年ほど一緒にやっているので、とてもポテンシャルが高い選手であることを把握しています。

課題は安定感でしたが......ブルガリア戦もそうですが、いいプレーが出ていました。

 日本は(宮浦、西田だけでなく)大学バレーでもオポジットはほとんど左利きですが、世界の強豪代表は両方(の利き手選手が)いるものですよ」

 世界バレーに向け、西山がひとつのカードになったことは間違いない。高さを誇るイタリアのブロック相手にも通用した。左利きの宮浦と代わり、イタリアに混乱を生じさせていたのだ。

「(3セット目に出た時は)相手のブロックに緊張し、ビビってしまったので、そこが得点につながらなかった。4セット目はスタートからの出場で、"楽しくやる"ってことを心掛け、自分のスパイクを信じてプレーすることができました。気持ちの入り方がよかったです」

 西山はそう振り返ったが、世界トップのリベロであるファビオ・バラーゾをも叩き潰すようなサービスエースも奪っている。

「"入れにいったサーブ"ではミスがあったので、"勝負しにいくサーブをしよう"と思っていました。ミスはあっても、とにかく攻めていこうと。それでリズムができて、サーブのコンディションはすごくよくなったと思います」

 彼は手ごたえを感じつつも冷静だった。

「宮浦選手が左利きオポジットで、右利きの自分が入って(活躍できたのは)対策されていなかったこともあると思います。そこにアドバンテージがありました。

次は対策されてくるはずで、決められなくなるかもしれないけど、さらに攻められるようにしたいです」

 西山の成長は、日本男子バレーにとっていい兆しだ。

【2mのアウトサイドヒッターも成長】

 一方、石川祐希、髙橋藍の両輪がいる代表アウトサイドヒッターでは、甲斐優斗(21歳/専修大学4年・大阪ブルテオン)が次世代を担う。

 パリ五輪の12人のメンバーのひとりで、身長2mのハイスペックな選手。ネーションズリーグ日本ラウンドでは、長身から振り下ろすサーブでどよめきを巻き起こした。そしてイタリアとの壮行試合でも、飛翔するようなバックアタックを決めるなど存在感を示している。

「ティリ監督も全員にチャンス与えてくれているので、"モノにできるように"と思っていました」

 甲斐は柔和な口調で語る。不思議な雰囲気を纏い、長身ゆえの"いかつさ"はない。

「いろいろ試そうと思っていましたが、高いブロックをうまく攻略できなかったです。打ち方のところで、もっとブロックアウトや指先を狙いたいですね」

 彼は謙虚に言ったが、あらためてスケール感の大きさは見せつけた。

「チームとしてパイプ攻撃は大事で、自分も積極的に入っていこうと思っているし、いい形で点が取れたのはよかったです。ネーションズリーグに比べると精度は上がってきて、世界バレーに向けて時間はないですが、さらに上げていきたい。相手も真ん中の攻撃あると、サイドのブロックも振れるし、パイプでブロックを引き寄せるとチーム全体もやりやすいと思うので」

 彼のバックアタックが切り札になると、日本の攻撃は広がる。

強豪イタリアのようなチームを打ち砕き、王座に近づくことができるはずだ。

 そこで最後に訊いた。

――パリ五輪、準々決勝でイタリアに敗れて悔しい風景を見たと思いますが、あの時から今日、コートの景色は違って見えましたか?

 彼はしっかりと視線を合わせて答えた。

「今までやってきたものは出せたと思いますし、あと一歩届かなかったですけど、またチャレンジできればなと。(イタリアは)世界バレーを勝ち上がったら当たる相手かもしれないので、そこで勝ち切れたらいいなって思っています」

 真摯な答えだった。

 世界バレー、日本が表彰台に立つには、ラッキーボーイ的な存在が不可欠だろう。西山と甲斐は有力候補だが、2人だけではない。9月13日、開幕のトルコ戦から総力戦だ。

(ほかの記事を読む:石川祐希は世界バレーに向けて日本代表を厳しく評価 「自分たちはまだ強くない」>>)

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