F1第16戦イタリアGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
イタリアGPの予選が終わった瞬間、レッドブルのガレージは歓喜に沸いていた。
マックス・フェルスタッペンが0.077秒差でポールポジション(PP)をつかみ取り、昨年7位・8位という苦汁をなめたモンツァでの大逆転勝利にグッと近づいたからだ。
モンツァ入りしたレッドブルは、わずかでも改良を加えたフロアをフェルスタッペン用に完成させ、今季4基目となる新品パワーユニット(PU)の投入も決めた。事前の予想では苦戦を予想していたが、直前のシミュレーションで勝てるかもしれないという感触が出てきた。だからこそ予定を急遽変更し、新品PUの投入を水曜日になって決めたほどだった。
ホンダの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう語る。「新品PUをバクー(第17戦アゼルバイジャンGP)とモンツァ(第16戦イタリアGP)のどちらに投入するかは、ずっとチーム間で会話していました。その結果、モンツァには入れない予定だったんですが、最後の最後で入れることを決めて投入したんです。ある程度戦える見通しが立ったんだと思いますが、こういう結果になったのはさすがの分析力だなと思いました」
ホンダのPUの走行距離による性能劣化は、マイレージ寿命の6戦を走りきっても数馬力と言われるほど微小であり、新品と数戦走ったPUとでそれほど大きな差があるわけではない。せいぜい1~2馬力程度だろうと推察される。
それでも、そんな小さなゲインの積み重ねとPUやフロアやドライビングで、0.077秒のタイム差を生み出したというわけだ。
「ほかの3台も基本的には最もフレッシュなPUを持ってきていますので、(新品PUと)そんなに大きな差はありません。ただ、そういう細かいところの積み重ねで、あの結果まできました。もちろんそれはPUだけでなく、車体側でもいろいろとやっていることも含めての積み上げです」
フェルスタッペンは予選に向けてリアウイングのフラップを削り、ダウンフォースを捨ててでも、空気抵抗を少しでも落として走った。
【フェルスタッペンとの無数の差】
Q3で角田裕毅が先頭でコースインしたことも、その小さな積み重ねのひとつだ。
「これはFP2やFP3でわかっていたことですけど、ここではトウの効果がものすごく大きく影響するので、先頭でのコースインが最悪なのは伝統的に明らか。僕としては先頭で出たくないと言っていたんですけど、マックスのために......まぁ、マックスが優先ですから」
予選アタックを10位で終えた瞬間、角田は先頭走者となってトウが得られなかったことに不満を露わにした。だが、角田が残り3分半でコースインしたことで他車がガレージアウトし、フェルスタッペンはトラフィックに捕まることなくタイヤの準備が整ったため、最適なギャップで理想的なアタックラップを決めることができたのだ。
これは僅差のなかで角田がQ3に進出していたからこそ、できたチームプレーでもあった。
「アタックラップ自体はすごくよかったと思います。トウがあれば0.3秒とか0.4秒は簡単に稼げたと思いますし、それで何位になれたかはわからないものの、この順位よりマシだったことは間違いないでしょう。しょうがないですね。全体的なパフォーマンスには満足していますし、Q3に進出できたのが最も重要なことだと思います」
差はそれほど大きくないとはいえ、フロアの違いもある。マシンへの習熟度と自信にも差があるから、フェルスタッペンのように予選に向けて大胆なセットアップ変更を選ぶのも難しい。
「レースでコース自体のグリップレベルが上がったので、それがわかっていたら(土曜の時点でダウンフォースを)削っていたかもしれません。決勝のデグラデーション(性能劣化)を見ると、結果的にはローダウンフォースにしたほうがよかったと思いますけど、でも特に金曜日のデグラデーションを考えると、その選択は難しかったんです」
フェルスタッペンが小さな積み重ねの先に「ポールトゥウイン」という結果をつかみ取った。それと比べれば、角田は予選10位・決勝13位と大きな差を見せつけられた。ひとつひとつは小さな差でしかないが、それをいかに突き詰め、すべてを積み重ねられるか。
このイタリアGPの週末は、まさにそんなふたりの差と、決して遠く離れているわけではないが隔たりが無数にあるという、角田の立ち位置をリアルに浮き彫りにしていた。