チャレンジャー・シリーズ 木下グループ杯 レポート#3

木原龍一・三浦璃来"りくりゅう"のカギは「まあ、いいか」マイ...の画像はこちら >>

【今季は「まあ、いいか」マインドで】

 昨シーズンは世界選手権2度目の優勝を果たし、今季は五輪初制覇へと視線を定める木原龍一・三浦璃来ペア(木下グループ)。

 今季の国際大会初戦となったチャレンジャー・シリーズ(CS)木下グループ杯(9月5~7日)は、勢いのある滑りで自己ベスト(226.05点/2025年世界国別対抗戦)に肉薄する222.94点で優勝。期待を大きく膨らませる滑り出しとなった。

 まず9月6日のショートプログラム(SP)は、昨季と同じプログラムの『Paint It Black』。さらにブラッシュアップしたうえ、イメージを一新するためにふたりが好きだという赤と黒の衣装に変えた。今夏は、練習拠点のカナダに腰を据え、しっかり準備ができた手ごたえもあったという。

「今季は準備が本当に早くできているので自信を持って演技できています」と三浦が言うように、キレのある動きでスピードに乗り、力感のある演技を披露。3回転トーループとスロー3回転ルッツには乱れもなく、リフトとスピン、ステップシークエンスも最高評価のレベル4に。79.94点で首位発進した。

「今年の夏は本当にいい練習が積めていて、それが本当によかったものだったと再確認できたショートでした。現状の評価を知る気持ちで挑んでいたので、最初のトリプルツイストと最後のバックインサイドでレベルを取れてなかったことを知れたので、次の試合に向けて直していこうと思います」(三浦)

「点数を伸ばすことができたのでよかったけれど、レベルの取りこぼしが2つあったのは残念。そこをレベル4にすれば、80点台に乗せられたと思います。ただ、去年は同じようなシチュエーションになった時に焦って、そのあとの練習を追い込みすぎてしまったから、今回は『まあ、いいか』ということで......。ケガなくショートを終えられてよかったかなという感じです」(木原)

【便乗ガッツポーツの裏側にあった気持ち】

 今季、順調に準備ができているからこそ木原が重視しているのは、焦らずにじっくりと積み上げていくことだ。昨季は、一昨年のケガがあったため、「どうしてもよくしたい」との思いが強くなりすぎ、結果に一喜一憂した。そして、トレーニング量を増やして逆に調子を落としてしまうこともあった。

そうした反省をもとに木原は、心の持ち方を工夫している。

「ひとつの試合でうまくいかなかったとしても、自分たちが歩んできた道のりが崩れ去るわけではないというメンタルでやっています。うまくいかなかったら、『また次頑張りましょう』という気持ちをシーズン初戦から持てています」(木原)

 演技終了後の喜び方にもペアのふたりで少し差があった。得点を見て、「このプログラムに自信を持ってシーズンを駆け抜けられる」と思ったという三浦は、素直にガッツポーズをした。

 一方、木原は「レベルを取りきれていない確信があったので僕はするつもりはなかったけど、隣で(三浦)璃来ちゃんがガッツポーズをしているのが見えて。気持ちがちょっとマイナスな方向へいきそうになったけど、去年はそういう時に追い込みすぎた記憶もあったので『まあ、そこは考えなくていい。十分か』と思って"便乗ガッツポーズ"をしたので、ワンテンポ遅れました」と苦笑する。

【「これはいける」練習に裏打ちされた自信】

 翌7日のフリーは、新プログラムの『グラディエーター』。ふたりとも好きで「やってみたい」と話していたが、コーチたちから「少し違うのでは?」と言われて、一時は「自分たちには合わない」と諦めていた曲だ。

 だが今季は、映画『グラディエーター』のイメージとは違う解釈を、振付師のマリー=フランス・デュブレイユ氏から提案されて挑戦することになった。

「ふたりともいい緊張感で、自分たちのエレメンツやスケーティングに自信を持っていたので、練習前と試合前の空気感も本当によかった。これはいけるなと思っていました」(三浦)

「夏にしっかり練習してきたので、それを信じようと。

やってきたことは確かなことだったから、それを出せばいいだけだと話をしていました」(木原)

 こう話すふたりの滑りに、迷いはいっさいなかった。SPと同じように、スピードに乗ったキレのある滑りと動きでGOE(出来ばえ点)加点も確実に稼ぐ演技。後半の3回転サルコウは三浦が両足着氷になり、そのあとのスロー3回転ループは転倒というミスはあったものの、最後は木原が横になり三浦の体を両手で差し上げるドラマチックなポーズでフィニッシュ。

 フリーの得点は143.00点で合計は222.94点。昨季の世界選手権4位のアナスタシア・メテルキナ/ルカ・ベルラワ(ジョージア)をさらに突き放して10.04点差で優勝した。

「エレメンツも違っているなかで、昨季の世界国別対抗戦と同じくらいの点数をミスがあったものの初戦から出せるようになったのは大きい。昨季は、199.55点だった初戦のチャレンジャー・シリーズ(ロンバルディア杯)から、少しずつは積み上げていったものがようやく世界選手権や世界国別対抗戦で評価をいただけるようになっていた。でも、今季は早い段階からいい点数を積み上げられているので、これから試合を進めることによって徐々にステップアップできていければいいのかなと思います」

 このように納得の言葉を口にする木原は、今回のミスの原因について、「衣装が届くのがギリギリになってしまい、それを着るのはこの試合が初めてだったのでその部分で不安も出ていた。慣れていない衣装の関係でグリップがうまく入っていない箇所がいくつかあったので、そこは修正しないといけないです。技術的な問題は正直ないと思うけど、衣装を着たことによって変わってくる感覚を練習しないといけないと思います」と冷静に分析する。

 準備万端で自信を持って臨めている今季。そして、その成果を国際大会初戦で実感できたからこそ、ミラノ・コルティナ五輪へ向けても、冷静に構えて一歩一歩進んでいけるだろう。

 今後は、9月下旬のネーベルホルン杯を経て、GPシリーズは第1戦フランス杯と第5戦スケートアメリカに出場する予定の「りくりゅう」。12月のGPファイナル・名古屋大会では、さらに充実した姿を日本のファンにも見せてくれるはずだ。

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